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第八章
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騎士見習いのダンだった。
あの時と同じ真摯な鳶色の瞳でリディアを見つめている。
「リディア陛下には申し訳なくも、虚飾城に集まった者の全ては、今や候の言いなりです。此度の戦も、候の独断と思われます」
ダンの言葉に、リディアは固く目を瞑った。
(……ギュンターだけでは無い。けれど……だからこそ! 私が止めなくては!)
決意し、リディアは寝台から降りた。
そして気付く。
(玉座を退かし、寝台を置いて薄布で周りを覆っていたのか……まるで父上のようだな)
リディアの口に浮かぶのは自嘲の笑みだ。
最上段に構えながら、玉座でなく寝台に。
眠っているのに覆いに隠され、臣下に気付かれない。
居るのか居ないのか。
権威の象徴である白鷹の襟飾りを付け、豪奢なドレスに身を包んでいながら、居ても居なくても同じような女王。
それがリディアだった。
(良い王に、なりたかった……ルークに誇ってもらえるような王になりたかったのに)
その場に泣き崩れそうになりながら、それでも踏み止まってリディアは部屋を出た。
その後を、部屋に居た皆が追う。
走り出したリディアの視界に、かつてはくどいほどの装飾に彩られていたはずの、城の内壁の無残な様が飛び込んで来た。宝石という宝石。金や銀の貴金属全てが剥ぎ取られていたのだ。来る戦の為の資金としたのだろう。
(もう虚飾城とは呼べないな)
隣を走るロイドが戸惑い気味に聞いてきた。
「リディア、どこへ行く気なのだ?」
「反逆者ギュンターの元へ!」
当然だ。
「? ギュンターはここには居ないぞ?」
ロイドの言葉に、リディアの足が止まった。
「兄上……では、奴めらは今、どこに?」
最後に部屋を出たダンがそれに答えた。
「候は昨夜、王妃殿下と数人の供を連れて虚飾城を出ました!」
「何っ? 騎士団は……兵を連れて行かなくては戦にならないではないか?」
説明を求めた女王に、ダンは言い難そうに口を歪めた。
「城に集まっていた騎士の多くは王都に引き返しました。彼らはただ、古くから続く開戦の儀式を行ったという、我が国の名誉を守る為だけに虚飾城に来たのです。候と妃殿下だけは僅かな手勢で西に向かいましたが……大軍で西の港に行く時間をギュンター候は省いたのです。もう軍船は港を出ています!」
「宣戦布告をする間もないじゃないか」
「する気もないのです! 候は奇襲をかけるつもりなのです!」
リディアは絶句した。
(確かな理由も無い上に、奇襲だと? それではまるで侵略のようではないか)
リディアはギュンターの言葉を思い出した。
――私は不思議の力を持つ、魔人族を手に入れたいのですよ。
脳裏に浮かぶ、隷属を強いられる神秘の人々の姿。
(あいつは戦争をするのでなく、奴隷狩りをするつもりなのだ!)
怒りと嫌悪に、視界に映る全てが汚らわしく見えた。
「……卑怯者らを……追う!」
「リディア様、私達も付いて行きますよ!」
怒りに我を忘れかけたリディアを、女中頭の声が現実に引き戻した。
「リディア様もルーク様も仲がよろしかった。なのにこんな争いをするなんて駄目です!」
「国主に牙を剥くような愚か者、私が許しませんよ! 一緒に行きます!」
口々に言い募る彼女達の表情は、憤怒に満ちてはいるが醜くはない。
リディアは胸に温かいものが満ちた気がして、微笑んだ。
「みんなは、ここに残っていてくれ」
不満の声が上がったが、リディアは続ける。
「私は行くけれど、みんなはここで城を守っていて。そして私が帰って来た時に、毒入りでない食事をさせてくれ。お願い……全部終わったら、コンソメスープが食べたいんだ。王都では出ないんだもの」
不平を言う者は居なかった。
リディアの覚悟を言外に悟ったのかもしれないし、おどけた物言いに力が抜けたのかもしれない。
「分かりましたリディア様。お気を付けて」
女中頭はそう言って微笑むと、皆と一緒に頭を下げ、リディアを見送った。
ホールを通り抜け、城門の前に辿り着いたリディアは、隣を歩いていた兄を振り返った。
「兄上……兄上はこのまま王都にお戻りください。死亡の知らせは嘘だったのだと公表するのです。そして来るべき即位の日のために、王都で兄上の政治の基盤を整えるのです。幸いこの辺境に腹黒い者達が集まり、王都には今回のことに関係のない者しか残っていない」
「リディア、お前は何を言っている? 次期女王が……お前は女王となったのだろう?」
「リディア様!」
訝しげに尋ねたロイドの声に重なるように、軍馬を引いた兵士達が声を上げ、厩舎から走り出てきた。
「王都の騎士共には任せられませんぞ!」
「解雇はリディア様の意思ではないこと、しっかとこの爺は分かっております」
「御身、お守りするが我等の務め!」
「どこまでも貴方についていきますぞ」
虚飾城で働いていた五人の兵士達だった。
リディアの目に、涙が溢れた。
(優しい、優しい人々。私はこの人達の期待に応えられず、国に混乱を招いてしまったのに……まだ私を信じてくれる……)
「みんな、ありがとう!」
嗚咽で声が潰れた。
しかしリディアは首を横に振る。
「……私のことはいいんだ。皆は兄上に付いて、王都まで送って差し上げて」
「何をっ?」
ロイドと兵士達が声を上げた。
「兄上はこれからのトルトファリアに必要な方。だからどうか、皆の力で守って差し上げて欲しい。王都は油断ならない所。そこに蔓延る者は信用出来ない。皆だけが頼りなんだ」
そこまで言われ、兵士達は神妙な表情で口を噤んだ。だがロイドはまだ納得していない。
「一体、お前は何の話をしている?」
顔を顰めるロイドに、リディアは決然と言った。
「私は自分の代で起こった、この始末を付けます。それが女王たる私の務め。命に代えても戦争を止めます。ですから兄上は……兄上は王都で、揺るぎ無い国王となってくだ」
後の言葉をリディアは続けられなかった。ロイドが痛いくらいの力で彼女を抱き締めたのだ。
顔を上げると、兄の澄んだ青い瞳が妹の決意を知って涙ぐんでいた。
小刻みに震えるその唇から零れる言葉。
「任せろ。お前も、しっかり……」
二人はしっかりと抱き合い、今生の別れとなるかもしれない今を惜しんだ。
(せめてルークに胸を張ってもらえるように……せめて今まで私に与えられたものを、皆に返そう。それが私の義務)
頬に落ちるロイドの涙を感じながら、リディアは冷静になっていく自分を意識した。
(私は、私のするべきことをするのだ。この国の女王として)
ロイドの腕を解いたリディアは、指に嵌まっていた王家の印が刻まれた指輪を抜き取り、ロイドの手に握りこませた。
「兄上、どうかご無事で!」
「お前も……リディア、お前も!」
「殿下、どうぞ騎乗なされよ!」
慌ただしく門外へ走り出したロイドが不意に立ち止まり、見送るリディアを振り返る。
「そうだ! 母上が……アイダ母上がお前に伝えてくれと。何のことだかは分からないが、先日の無礼はどうか忘れてくれ、この身に余る慈悲をありがとう、と」
「殿下!」
急かすカヤと兵士達に背中を押されながら、ロイドは手を振った。
「リディア。お前に幸運を!」
この国の女王が見守る中、次期国王を先頭にした集団は王都へと駆け去って行った。
(アイダ様が、そんなことを?)
リディアは仮死状態だった兄にアイダを引き合わせた時のことを思い出した。
髪を振り乱し、国中の詩人にその美貌を謳われた顔を惜しげもなく歪ませ、ただ息をしているだけの息子の体に縋りついた王妃。
そんな彼女の姿を思い出した瞬間、耳元で笑い声が聞こえた。
「あははは! 反対だ! 全くの正反対だ! そうは思わないかい? 女王陛下」
弾かれたように振り返ったリディアは、誰も居ないことに反射的に驚き、身を竦めた。
「そこじゃない。そこじゃないよ、哀れな哀れなお姫様。ああ! 実の母親に陥れられるとは、何て不幸なんだろう! あ、でも君のお兄さんよりはまだマシか。だって……」
「黙れ!」
どこからか聞こえる声に向かって叫んだが、嘲るような笑い声は響き続ける。
「あは! あははは! またご自分の手を汚すおつもりですか女王陛下? この道化めにお申し付けくだされば一瞬で済むのに! まあ一人も二人も同じことか。じゃあそんな茨の道を行く可哀想な陛下に、私、道化めから贈り物」
周りを見回していたリディアの目が、夜の空に浮かぶ巨大な赤ん坊を見つける。
相手が自分の姿を認めたのに気付いたそれは、わざとらしく胸に手を当てお辞儀をした。
「呪われた人生を変えるには、この私との契約しかないのに、未だ強情な貴方様。ならば行くがよろしいよ! 親切な運命の道化めが陛下を絶望の淵にご案内! お代は結構。これは次期お得意様へのほんの気持ち。さあ急いで行ってらっしゃい! 刻限は夜明け」
赤ん坊は巨大な手をリディアへと伸ばした。
「リディア陛下!」
ロイドに付いていかなかったダンが、危険を感じて走り寄った。だが神は構わず二人諸共、その手に掴む。
「回り出した運命の輪は、人如きがどうにか出来るものではない。哀惜と憎悪の深淵に立った時、陛下。貴方にも分かるさ。私がどんなに慈悲深く、優しい存在かね!」
楽しげな古代神の笑いを聞きながら、リディアは吸い込まれるように昏倒した。
あの時と同じ真摯な鳶色の瞳でリディアを見つめている。
「リディア陛下には申し訳なくも、虚飾城に集まった者の全ては、今や候の言いなりです。此度の戦も、候の独断と思われます」
ダンの言葉に、リディアは固く目を瞑った。
(……ギュンターだけでは無い。けれど……だからこそ! 私が止めなくては!)
決意し、リディアは寝台から降りた。
そして気付く。
(玉座を退かし、寝台を置いて薄布で周りを覆っていたのか……まるで父上のようだな)
リディアの口に浮かぶのは自嘲の笑みだ。
最上段に構えながら、玉座でなく寝台に。
眠っているのに覆いに隠され、臣下に気付かれない。
居るのか居ないのか。
権威の象徴である白鷹の襟飾りを付け、豪奢なドレスに身を包んでいながら、居ても居なくても同じような女王。
それがリディアだった。
(良い王に、なりたかった……ルークに誇ってもらえるような王になりたかったのに)
その場に泣き崩れそうになりながら、それでも踏み止まってリディアは部屋を出た。
その後を、部屋に居た皆が追う。
走り出したリディアの視界に、かつてはくどいほどの装飾に彩られていたはずの、城の内壁の無残な様が飛び込んで来た。宝石という宝石。金や銀の貴金属全てが剥ぎ取られていたのだ。来る戦の為の資金としたのだろう。
(もう虚飾城とは呼べないな)
隣を走るロイドが戸惑い気味に聞いてきた。
「リディア、どこへ行く気なのだ?」
「反逆者ギュンターの元へ!」
当然だ。
「? ギュンターはここには居ないぞ?」
ロイドの言葉に、リディアの足が止まった。
「兄上……では、奴めらは今、どこに?」
最後に部屋を出たダンがそれに答えた。
「候は昨夜、王妃殿下と数人の供を連れて虚飾城を出ました!」
「何っ? 騎士団は……兵を連れて行かなくては戦にならないではないか?」
説明を求めた女王に、ダンは言い難そうに口を歪めた。
「城に集まっていた騎士の多くは王都に引き返しました。彼らはただ、古くから続く開戦の儀式を行ったという、我が国の名誉を守る為だけに虚飾城に来たのです。候と妃殿下だけは僅かな手勢で西に向かいましたが……大軍で西の港に行く時間をギュンター候は省いたのです。もう軍船は港を出ています!」
「宣戦布告をする間もないじゃないか」
「する気もないのです! 候は奇襲をかけるつもりなのです!」
リディアは絶句した。
(確かな理由も無い上に、奇襲だと? それではまるで侵略のようではないか)
リディアはギュンターの言葉を思い出した。
――私は不思議の力を持つ、魔人族を手に入れたいのですよ。
脳裏に浮かぶ、隷属を強いられる神秘の人々の姿。
(あいつは戦争をするのでなく、奴隷狩りをするつもりなのだ!)
怒りと嫌悪に、視界に映る全てが汚らわしく見えた。
「……卑怯者らを……追う!」
「リディア様、私達も付いて行きますよ!」
怒りに我を忘れかけたリディアを、女中頭の声が現実に引き戻した。
「リディア様もルーク様も仲がよろしかった。なのにこんな争いをするなんて駄目です!」
「国主に牙を剥くような愚か者、私が許しませんよ! 一緒に行きます!」
口々に言い募る彼女達の表情は、憤怒に満ちてはいるが醜くはない。
リディアは胸に温かいものが満ちた気がして、微笑んだ。
「みんなは、ここに残っていてくれ」
不満の声が上がったが、リディアは続ける。
「私は行くけれど、みんなはここで城を守っていて。そして私が帰って来た時に、毒入りでない食事をさせてくれ。お願い……全部終わったら、コンソメスープが食べたいんだ。王都では出ないんだもの」
不平を言う者は居なかった。
リディアの覚悟を言外に悟ったのかもしれないし、おどけた物言いに力が抜けたのかもしれない。
「分かりましたリディア様。お気を付けて」
女中頭はそう言って微笑むと、皆と一緒に頭を下げ、リディアを見送った。
ホールを通り抜け、城門の前に辿り着いたリディアは、隣を歩いていた兄を振り返った。
「兄上……兄上はこのまま王都にお戻りください。死亡の知らせは嘘だったのだと公表するのです。そして来るべき即位の日のために、王都で兄上の政治の基盤を整えるのです。幸いこの辺境に腹黒い者達が集まり、王都には今回のことに関係のない者しか残っていない」
「リディア、お前は何を言っている? 次期女王が……お前は女王となったのだろう?」
「リディア様!」
訝しげに尋ねたロイドの声に重なるように、軍馬を引いた兵士達が声を上げ、厩舎から走り出てきた。
「王都の騎士共には任せられませんぞ!」
「解雇はリディア様の意思ではないこと、しっかとこの爺は分かっております」
「御身、お守りするが我等の務め!」
「どこまでも貴方についていきますぞ」
虚飾城で働いていた五人の兵士達だった。
リディアの目に、涙が溢れた。
(優しい、優しい人々。私はこの人達の期待に応えられず、国に混乱を招いてしまったのに……まだ私を信じてくれる……)
「みんな、ありがとう!」
嗚咽で声が潰れた。
しかしリディアは首を横に振る。
「……私のことはいいんだ。皆は兄上に付いて、王都まで送って差し上げて」
「何をっ?」
ロイドと兵士達が声を上げた。
「兄上はこれからのトルトファリアに必要な方。だからどうか、皆の力で守って差し上げて欲しい。王都は油断ならない所。そこに蔓延る者は信用出来ない。皆だけが頼りなんだ」
そこまで言われ、兵士達は神妙な表情で口を噤んだ。だがロイドはまだ納得していない。
「一体、お前は何の話をしている?」
顔を顰めるロイドに、リディアは決然と言った。
「私は自分の代で起こった、この始末を付けます。それが女王たる私の務め。命に代えても戦争を止めます。ですから兄上は……兄上は王都で、揺るぎ無い国王となってくだ」
後の言葉をリディアは続けられなかった。ロイドが痛いくらいの力で彼女を抱き締めたのだ。
顔を上げると、兄の澄んだ青い瞳が妹の決意を知って涙ぐんでいた。
小刻みに震えるその唇から零れる言葉。
「任せろ。お前も、しっかり……」
二人はしっかりと抱き合い、今生の別れとなるかもしれない今を惜しんだ。
(せめてルークに胸を張ってもらえるように……せめて今まで私に与えられたものを、皆に返そう。それが私の義務)
頬に落ちるロイドの涙を感じながら、リディアは冷静になっていく自分を意識した。
(私は、私のするべきことをするのだ。この国の女王として)
ロイドの腕を解いたリディアは、指に嵌まっていた王家の印が刻まれた指輪を抜き取り、ロイドの手に握りこませた。
「兄上、どうかご無事で!」
「お前も……リディア、お前も!」
「殿下、どうぞ騎乗なされよ!」
慌ただしく門外へ走り出したロイドが不意に立ち止まり、見送るリディアを振り返る。
「そうだ! 母上が……アイダ母上がお前に伝えてくれと。何のことだかは分からないが、先日の無礼はどうか忘れてくれ、この身に余る慈悲をありがとう、と」
「殿下!」
急かすカヤと兵士達に背中を押されながら、ロイドは手を振った。
「リディア。お前に幸運を!」
この国の女王が見守る中、次期国王を先頭にした集団は王都へと駆け去って行った。
(アイダ様が、そんなことを?)
リディアは仮死状態だった兄にアイダを引き合わせた時のことを思い出した。
髪を振り乱し、国中の詩人にその美貌を謳われた顔を惜しげもなく歪ませ、ただ息をしているだけの息子の体に縋りついた王妃。
そんな彼女の姿を思い出した瞬間、耳元で笑い声が聞こえた。
「あははは! 反対だ! 全くの正反対だ! そうは思わないかい? 女王陛下」
弾かれたように振り返ったリディアは、誰も居ないことに反射的に驚き、身を竦めた。
「そこじゃない。そこじゃないよ、哀れな哀れなお姫様。ああ! 実の母親に陥れられるとは、何て不幸なんだろう! あ、でも君のお兄さんよりはまだマシか。だって……」
「黙れ!」
どこからか聞こえる声に向かって叫んだが、嘲るような笑い声は響き続ける。
「あは! あははは! またご自分の手を汚すおつもりですか女王陛下? この道化めにお申し付けくだされば一瞬で済むのに! まあ一人も二人も同じことか。じゃあそんな茨の道を行く可哀想な陛下に、私、道化めから贈り物」
周りを見回していたリディアの目が、夜の空に浮かぶ巨大な赤ん坊を見つける。
相手が自分の姿を認めたのに気付いたそれは、わざとらしく胸に手を当てお辞儀をした。
「呪われた人生を変えるには、この私との契約しかないのに、未だ強情な貴方様。ならば行くがよろしいよ! 親切な運命の道化めが陛下を絶望の淵にご案内! お代は結構。これは次期お得意様へのほんの気持ち。さあ急いで行ってらっしゃい! 刻限は夜明け」
赤ん坊は巨大な手をリディアへと伸ばした。
「リディア陛下!」
ロイドに付いていかなかったダンが、危険を感じて走り寄った。だが神は構わず二人諸共、その手に掴む。
「回り出した運命の輪は、人如きがどうにか出来るものではない。哀惜と憎悪の深淵に立った時、陛下。貴方にも分かるさ。私がどんなに慈悲深く、優しい存在かね!」
楽しげな古代神の笑いを聞きながら、リディアは吸い込まれるように昏倒した。
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