異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

文字の大きさ
1 / 29
プロローグ~始まりの出会い~

第一話

しおりを挟む
 褐色の瓦屋根は滑りやすかった。
 ヴレイは時々足を取られながら、前を走るザイドを懸命に追い駆けていた。
 同じ黒髪が、風でわさわさ動いている姿が目についた。他の十五歳の子に比べるとザイドは長身だ。平均より低く、しかも二つ年下のヴレイはザイドの頭をいつも見上げていた。
 
 屋根と屋根の間を飛び越え、密集している町の中心地へと近づく。
 町の小径からは、きゃあきゃあとはしゃぐ子供たちが、自分たちが向かっている方角と同じ方角へ走っていく。後ろからは大人たちも足早に、誰も彼もやたら楽しそうに同じ方角へ歩いていた。
 ザイドが屋根から屋根へ飛び移った。ヴレイも勢いに任せ塀の上へ飛び移る。

「おっと」とよろけてヴレイはバランスを立て直す。
「大丈夫か、もう直ぐだぞ」
 チラッと後ろを一瞥したザイドが走り出したので、ヴレイも従いて行く。
 今度は眼前に迫ってきた大人二人分の高さはある屋根へと、ザイドは飛び移った。

 少し高いなと、思ったヴレイは勢いに任せて、高く跳躍した。
 また滑りやすい瓦屋根のせいでヴレイは「おーっと」と今度こそ転びそうになった。瞬時にザイドがヴレイの手を掴んで引き寄せると、そのまま屋根の先端に掴ませてくれた。
「ふぅ、危なかった、ありがと、ザイド」

「お前は本当にドジだな」
 鼻で笑うザイドは本気で呆れていたが、ヴレイは眼前の景色に感激した。
「うわぁ、人がたくさん! いつもの町の広場じゃないみたい!」
「そうか? そんなに驚くことか?」
 ヴレイとザイドの眼前には、薄茶色の煉瓦作りの建物に囲まれた広場があり、広場に描かれた絵柄が見えなくなるほどの群衆に埋め尽くされていた。

 広場の中央には劇場が作られ、今か今かと開演を待つ歓声に、自分の声さえも聞こえないほどだ。
「見たいって言ってただろ、お前の十三歳の誕生祝だ。すっげぇ特等席だろ!」
 自慢げにザイドは口端を吊り上げてニッと笑ってみた。
「すっごいよ、ザイド! よくこんな場所があるなんて知ってたね」

「だろ! 村から何度も通って、探したんだぜ」
 ザイドは得意げに笑って見せた。
 最近、学校が終わって早々、どこかに行っていた先はここだったのかと、ヴレイは納得した。
「だから、こんなに人がいても驚かなかったのかぁ、僕も誘ってくれればーー」

「おや? 先客がいたとは、君たちもこの町の子か?」
 突如訊ねられて、「え!」と二人は声を揃えて振り返った。変な言葉遣いが耳についた。
 しかも科白を遮られ、ヴレイはむくれ顔でその子を見た。

 黄金色の長い髪が印象的な、少女が後方に立っていた。
 春を告げる強い横風が靡き、黄金色の髪を耳元で押さえた。
 花の刺繍がされたワンピースの下には、騎士のような動きやすい格好をしていた。上等そうな織物だという雰囲気は見れば分かる。

 女神様のような出で立ちに、二人は同時に言葉を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

処理中です...