マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

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section 3

No.034

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 しばらく小惑星が浮遊しているエリアに滞在した。
 シャークに足りないのは、メリハリある運動能力だ。
 インターフェイスタイプのパーチャライザーによって読み込まれた人間の思考が、もろに反映される場所が【マイニング・ワールド】だ。慣れてしまえば、どうってことはない、買い物に行くとか、頑張ってスポーツなら努力次第で誰にでもできる。

 そこにアクションが加わると、洞察力や判断力、瞬発力をどれだけ早くイメージできるかに関わってくる。
 舐めて懸かると、小惑星のお花畑の中で尻を突いているシャークのようになる。

「もうダメだぁ、しんどい、休ませてくれぇ。向こうで体を動かしてるわけじゃねえのに、どうして、こんなに疲れるんだ」
 
 シャークは空を仰ぎながら、ぜいぜい肩で深呼吸を繰り返していた。

「怠慢だな。今まで銃に頼り切って、どれだけサボってきたか、分かるか。バーチャル・シューティング・ゲームとか、プレイした経験なかったのか?」
「あったよ、もちろん!」
 
 急にムキになって顔を向けた。

「だけどさぁ、銃の重みとか、発砲の反動とか、俺の疲れに合わせてアバターの動きも鈍くなるし、ただのシューティング・ゲームとは、わけが違うっつーか」

 シャークが文句を垂れたい気持ちは分かる。だからこそ、やりがいもある。それが理解できなければ、リタイアするしかない。

「ていうか、撃てば撃つほどHPが減っていくんだけど、どうして?」

 おいおいマジかよと、ヴェインは心からげんなりした。

「今更それかよ。ったくもぉ、銃の中に元々内蔵されてる、スキルって知らないのか?」
「知ってるけど、ちゃんとは見たことなくて、勝手に数字が増えてるなぁって」
「それを知ってるとは言わねえの! マイニングすればするほど、経験値として内蔵されているスキルが修得できるシステムだ。その中に、反発軽減スキルがあるだろ」

 シャークはディスプレイをタッチしながら、スキルの現状をチェックし始めた。

「こんなのがあったのか、知らなかった。反発でHPが減っていくのか?」

 本当にシューティング・ゲームをやったことあるんだろうかと、疑わしくなる。

「お前の持ってるポンプアクション式ショットガンなんて、最もそれだろ。撃った時の衝撃が強い銃はHPを消耗する。本当に経験者かよ」
「あるってば、でも俺がやったゲームに反動でHPが減るシステムなんてなかったぜ、芸が細かいなここは」

 そこで嫌になるか、楽しめるかでもこれからの成長に大きく関わってくる。

「この世界に順応していかないから、パーティでもD、Eレベルでくすぶ燻ってる奴らが、大多数いるんだよ。Cまでいけば1ユード以上だぞ」
「円で――ざっと100万以上! すげぇじゃん、早く倒しに行こうぜ、ぐぁっ!」

 ヴェインは、シャークが言い終わる前に、ハンド・レーザー銃を顔面にぶつけてやった。

「アホか! お前は今の動きが自然にできるようになれ。ったく、お前がいなけりゃあ、Cも行けるかもな」

 軽く鼻で笑い、シャークに悔しさを抱いてもらおうと思った。ところが、大きな見込み違いだったようだ。

「そうだよな、俺はどうせ弱いし、呑み込みも遅いし、足手まといだよな――」

 胡坐を掻いたシャークは肩を落として、背中を丸めた。そのまま一人でブツブツ言わせたまま、放っておきたくなった。ヴェインは蟀谷に苛立ちを溜め込んで叫んだ。

「よーく分かってんじゃん、根暗になってるヒマがあんなら、早く戦いに行けぇ!」
「はーい」
 
 よろよろ立ち上がりながら、小型エイリアンに向かって行った。
 教えてもらっている身にも拘らず、自堕落もいいとこだ。
 ヴェインはどうしてこんな奴を見捨てられなかったんだろうかと、つくづく拾ってしまった意志の弱さを嘆いた。とはいうものの、スキルを封印してしまった今、レモンだけを頼るわけにもいかず、今はシャークを少しでも強くするしかない。

「ただいま、でどこまで上達したの?」
 レモンが現実世界から戻って来た。
 昼間は何をしているのか分からないが、合流は決まって夜なので会社員か大学生かもしれない。シャークは日によって夜だったり、昼間だったりするので、シフト制の仕事をしているのかもしれない。

 マイナーはお互いの現実世界の情報をなるべく教えないようにしている。理由は個人情報漏れを防ぐためでもあるが、本当は現実世界の自分と仮想世界の自分を別けたいのかもしれない。

「見ての通りだ」と、フイッと顎でシャークを差した。
 レベルE3、4のソロでも簡単に倒せるエイリアンを、どれだけ早く倒せるか、実戦込みで練習させていた。
 それでも動きは良くなったほうだ。
 注意された動きや、操作には、意識して直す努力をしていた。

「あいつには早く上達してもらわないと」

 腕を組んだレモンの目は、厳しくシャークを睨んでいた。いつ、こっちに牙が向くかと、冷や冷やさせられる。

「しばらくは、レモンがアタッカー、シャークは補佐、俺がディフェンダーでいく」
「でも、ヴェインには自動回復スキルも、今はないんだよ、防御に回ったら真っ先に攻撃を受けるじゃない」
 
 何を言っているんだと言わんばかりに表情が険しくなるレモンの背後では、シャークが小物を何体か、マイニングしていた。

「俺は既に、感染してる。2回も3回も攻撃を受けても、後は同じだ。なら、俺が盾になる。ライフルは買えばいい。スキルは、修得できないけど」
「ヴェイン」と呟いたレモンは弱弱しく眉根を寄せた。が、腹を決めたのか、直ぐにいつもの凛とした眼光に戻った。

 空気のない澄んだ宇宙を瞳に宿して、少しだけ頬を緩ませた。レモンの笑った顔を初めて見た。
 今はアバターだが、現実では本当はどうだとか関係ない。目の前にいるレモンが本物だ。

「分かった。1秒でも早くマイニングする。どの道、攻撃を受ければ、ヴェインの致命傷は避けられないし、私たちも危うくなる」
「頼むよ。樹の妖精さん」

 ペラリと胸辺りの葉を、手で軽く叩いた。

「ちょっと、変態ッ。撃ち倒すわよ!」
「それは、できないよ。マイナーがマイナーに攻撃しても無効だ」

 ヒヒッと笑ったヴェインはシャークの様子を窺いに、レモンから逃げるように小走りした。
 随分と遠くまでエイリアンを倒しに行ったようで、やっと見つけた時には、E10ぐらいの獲物と戦っていた。

「おい、大丈夫か? 一人でもやれそうか」

 パーティのHPは確認できる。で、見るとシャークのHPは、三分の一が残っていた。
 踏ん張れば、倒せないことはない。だが、ヘルメットのスピーカーからは、シャークのわあぎゃあわめ喚く声が鼓膜を痛くさせた。

「うるせぇ! 男なら黙って戦え! ったく、無理なら初めから手を出すな」
 
 ハンド・レーザー銃だけは手元に残していたので、一丁を構えて参戦した。

「良い武器持ってんだから、撃ちまくれ!」

 マイナー2人の同時攻撃によって、ソロ・マイナーでも余裕で倒せるだろうエイリアンは崩壊され、カードだけを残した。

「いいか。今から倒せそうなエイリアンだけを見極めて、二十体、マイニングしとけ。俺は武器を買ってくる。いいな、やっとけよ。後で確認するからな」

 釘を刺すように怒鳴ったヴェインは、「そんなぁ」と嘆くシャークを置いて未来都市に向かった。
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