地女に恋した俺は夢を見ていた

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第32話

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 数年後。



「ただいまー」

「おかえりー手洗えよー」

 子供も今年小学校に入学した。

「ねぇねぇ!アニさん!」

「その呼び方やめなさい!お父さんだろ」

「だってお母さんだってそう呼んでんじゃん!」

「お母さんはいいの!」

「ちぇっ!」

「で、何か言おうとしてなかったか?」

「お父さんって地底人なの?」

 飲んでいたお茶を吐く。

「え?図星なの?」

「そんな言葉どこで覚えたんだ!それにお父さんは地底人じゃないぞ!」

「だって同じクラスのハンちゃんが言ってきたもん」

「誰だって?」

「お父さんに言っても分からないよ!ハンちゃんがキイのお父さん地底人だって。この前の参観日で見た時思ったんだって」

 見ただけで地底人って。
 その子は一体何者なんだ。

「何話してるの?」

「あ、お母さん!ねぇお父さんって地底人なの?」

「げっ、な、何言ってるの?」

「二人して怪しい反応~」

「地底人なんてそもそも居ないわよ。そんな話信じるなんてキイもお子ちゃまね~」

「俺お子ちゃまじゃないしー!」

 なんとかカエが話を逸らしてくれた。

 その後運動会で俺はハンちゃんという子がどんな子なのか気になって見てみる事にした。

 同じクラスの‥‥いたいたハンってゼッケンに書いてある。

 なんだ普通の子じゃないか。
 まぁ子供なんて何考えてるか分からないしな。

「あのぅ」

 誰かの父親らしき人が話しかけてきた。

「はい?」

「失礼ですが、もしかしてキイ君のお父様ですか?」

「そうですけど、そちらは」

「私、ハンの父なんですが、少しお話し宜しいですか?」

「は、はぁ」

 ハンちゃんのお父さんが何の話だ?
 親子揃って我が家に興味があるというのか。

「もし違ってたらすみません。あなたは地下にいた事がありますか?」

「な、なんでですか?」

「実は私も昔は地下で暮らしてまして、色々あって今はこちらの暮らしなんです」

 まさかの仲間?!

「そうなんですか?俺も同じく色々あって今はこの地上での暮らしです」

「あ、よかったです。間違ってたらどうしようかと」

「しかしよく分かりましたね?」

「覚えてませんか?」
 
「どこかで会ってますかね?」

「いや、正確には会ってはいないのですが。サイと言ったら分かるでしょうか」

「サイってあのサイトのサイさん?!」

 そう言われてみれば声がそうだ!

「そうです」

「サイさんって実在したんですね、俺てっきりPCの中の存在だと思ってました」

「話すと長くなるんですが、聞いてもらえますか?」

「もちろんですよ!」

 話を聞くとサイさんは元々地下で役所勤めをしていたらしい。ある時いきなり職員全員に部署移動が行われたと。その時の移動でサイさんともう一人の女性は音声案内部に移動させられた。

 コールセンターのような所でひたすら案内をするだけの退屈な仕事だったらしい。

 それが俺が開いたサイトの音声だったという事だ。

 仕事内容が地上に案内するという特殊な仕事だった為、最初は好奇心が勝り、楽しくもあったと。

 しかし、サイさんともう一人の女性は独身だった事もあり家には帰らせてもらえず住み込み状態で仕事をしていたらしい。

 個室でPCの前でずっと案内しているうちにどんどんテンションもおかしくなっていき、情緒も不安定になり、唯一の息抜きというとそのもう一人の女性と食べる食事の時間だけだったと。

 精神が限界を迎えようとしていた時、その女性が言った。

 私たちも地上に行ってみませんか?と。

 サイさんとその女性はまず、お互いにサイトを開き案内しようとしたらしいが、エラーが出てしまい行けなかった。

 何度挑戦しても上手くいかず、こうなったら直接行こうと思い役所を抜け出そうとするも、途中で他の職員に見つかり連れ戻される始末。

 二人が監禁同然の生活を送らされていたのは地上の事を口外しないようにする為だったらしい。

 この生活からどうにか抜け出そうと考えていた時に俺が再度サイトを開いたと。そこで合言葉を忘れていた俺を見て思いついたのが、サイさんとその女性で俺の合言葉を盗むと言う事だった。

 意外にもその作戦は上手くいき、無事地上に来れた二人は貧しいながらもなんとか暮らしていた。

 今では一緒に地上に来た女性と結婚し、子供も授かり、ちゃんとした仕事にも付き、充実していると。

 俺には聞き捨てならない事があった。

 それは合言葉を盗んだという事だった。

 俺は合言葉を盗まれたが為にだいぶ遠回りをする羽目になり苦労もした。

「それでアニさんにずっと謝りたかったんです。合言葉を盗んだ事、地上に案内した事」

「地上に案内したのはサイさんのせいじゃないですよね。合言葉を盗んでいたのは正直ショックですね」

「本当にすみません!」

 深々と頭を下げるサイさん。

「でも、もういいじゃないですか。お互い家庭を持てたし、サイさんも幸せなんですよね?きっと」

「はい。すごく幸せです。怖いくらい」

「今までの事は忘れて仲良くお付き合いしませんか?」

「ありがとうございます!」

「ところで合言葉って俺は決めた覚えないんですけど、自動的に振り分けられてたんですか?」

 話を聞くと、俺を紹介する時に設定する合言葉でトンさんが決めていたらしい。しかもトンさんはバカだから三児の父と設定したかったらしいがミヂと間違えて読んでいたとか。

「そういえばハンちゃんが俺を見て地底人だって言ってたらしいですけど、ハンちゃんは何か特殊な能力でもあるんですか?」

「そんな能力はないんですけどね。幽霊が見えたりする事はあります。変わった子ですが優しい子ですよ」

「そうなんですか‥‥」


 そうだ、トンさんが言っていた地上の世界はない、架空の世界で夢を見ていると言っていたのはあながち嘘でもないようだ。


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