君の人生の中の一瞬の出来事。僕の人生の中では一生の出来事。

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苦い思い出

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 あれから何日経ったのだろう。

 僕はいつもならカバンにしまいっぱなしのスマホを肌身離さず持っていた。

「お前何スマホばっか気にしてんの?」
 同じクラスのやつが言ってきた。

「べ‥‥別に」

 そうだ、別にゆいちゃんが連絡してくるとは限らない、社交辞令で仕方なく交換してくれただけかも。

 僕は勇気を出してLINEをする事にした。
 内容はこうだ。

「かずきです。久しぶりに会えて嬉しかった。また遊びたいな」

 なんだか小学生みたいな文章になったな、でも他に言葉が見つからなかったのでそのまま送ってみた。

 既読がついたのは翌日だった。もちろん既読がつくまで何度もトーク画面を開いたり閉じたりしていた。既読が付くと、すぐに返信が来た。

「私も嬉しかったよ!是非遊ぼうよ!たいちも呼ぶから三人で!」

 ‥‥たいちくんとまだ仲良いんだ。

 僕はたいちくんに嫉妬していた。

 まさか付き合ってるとかないよなと思ったが、あのたいちくんと付き合うわけないと謎に自分を納得させていた。

「僕は部活が休みの日なら大丈夫だけどゆいちゃんは?」

「私は基本いつでもオッケーだよ」

「じゃあ休みが分かったらまた連絡するね」

「うん、待ってるね」

 僕はウキウキしながらも、一つ心配な事があった。

 それはあの誕生日会の事だ。

 ゆいちゃんは何も言ってこないけど、内心僕の事嫌いになってるんじゃないかと不安だった。遊びたいとか図々しかったかなとか、まずは謝った方がよかったかなとか、色んな考えが頭の中をぐるぐるしていた。

 でもやっぱり、会ったらまず謝ろう。僕は二人に謝る事にした。

 とりあえず部活の休みを確認した。よし、次の日曜日は一日中オフだ、連絡しよう。

「こんちには、次の日曜日が休みだからその日はどうかな?」

「大丈夫だよ!じゃあ、待ち合わせはあの公園にする?」

「いいよ!」

「時間は一時でもいい?」

「うん!じゃあ日曜日ね」

 久しぶりにゆいちゃんと遊べる!僕はテンションが上がっていた。あっでも、やっぱりたいちくんも連れてくるのかな。
 
 約束の日まで、一日がとても長く感じた。頭の中はゆいちゃんでいっぱいだった。部活をしていても、勉強をしていても。

 帰りの自転車で車とぶつかりそうにもなった。

 そして、約束の日を迎えた。僕は前日あまり寝れなかった、当たり前といえば当たり前だか緊張しているからだ。

 一番お気に入りの服を着て、歩いて向かう。公園が見える距離まで来た所で、遊具の前に人影がある。それも一人しか見えない、僕はゆいちゃんが一人で来たんだと思い、嬉しかった。

「ごめん、お待たせ!」
 僕は駆け足で向かった。

 しかし、ゆいちゃんの向こう側にしゃがんでいて見えなかったが、誰かいる。
 おそらくたいちくんだろう。

 ただのぬか喜びであった。

「うちらも今来たばっかりだから、ね?たいち」

 ゆいちゃんがたいちくんの方を見ると、スクッと立ち上がり、僕の方を見てきた。

 あれ、たいちくんってこんなだったっけ?
 思い出してみたが、僕が知っているたいちくんはいつも鼻水を垂らしていて、バカな事をしている落ち着きのない子だった。

 でも目の前にいるのは僕よりも背が高く、今どきのイケメン男子だった、というよりチャラそうとも言える。

「かずきじゃん、久しぶり」

「たいちくん、すごく変わってビックリしたよ」

「は?お前の方が変わったと思うけど」

「そ、そうかな」

「元気だったか?」

「うん、そっちは?」

「まあ相変わらずかな」

 ダメダメ、まずは謝らないと。僕はそう思って二人に切り出した。

「あのさ、僕、二人に謝りたかったんだ」

「何の事?」
 ゆいちゃんはポカーンとしたような顔をしている。

「‥‥誕生日会の時の事だよ。僕の友達、いやクラスメイトが酷い事言ったでしょあの時」

「あぁ」
 ゆいちゃんは苦笑いをしていたが、たいちくんは真顔のままだった。

「まぁ、ビックリしたけどね?たいち」

「昔の事だからもういんじゃね?かずきが悪いわけでもないし」

 正直たいちくんがそんな言うとは思わなかった。

「ありがとう」

「またこうして三人で会えたのも何かの縁だし、その事は忘れて仲良くしよう!」

 ゆいちゃんがそう言ってくれたお陰で、僕の中でずっとモヤモヤしていたものがスッとどこかに落ちて行った気がした。

 もちろんあのクッキーをお母さんが捨ててしまった事は言えないし、今後も言うつもりはない。

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