adolescent days

第三章 出会い

周りには誰もいない。取り敢えず近くの自動販売機により飲み物を2本買う。
「だ、大丈夫ですか？」
いくら話しかけるのが億劫だからといってこの炎天下の中今にも死にそうなその男をほっとくほど僕は人間をやめていない。
「え、あ、あ、ありがとう」
40代くらいだろうか、その絶望感漂う男は僕から飲み物を受けとるとすぐさま飲み干した。意外にもその飲みっぷりは見ていて気持ちよく感じた。
「あぁ、ありがとう。こんな僕なんかに親切にしてくれる人がまだいたなんてね。しかも君は若そうに見える。将来は安泰だな。」
男は少し浮ついた声でそう言い、立ちあがろうとした。しかし、長い間座っていたからだろう、立った瞬間に少しよろけて僕の方に手を置く。
「ベンチで休みましょう。」
男の名は上里熱木(かみさとあつき)と言うらしい。年齢は31歳で会社員。男は少し躊躇った様子でゆっくりと吐き出すかのように事の経緯を話した。男は大学と同時に大手デザイン系の会社に就職した。この会社では独自性がより重要視される。男は頭を捻らせ、企画に対しての案を考えた。しかし、何か思いつく前に自分じゃ考えつかないような案が飛び交う。次第に会議の最中は萎縮してしまい、会社で孤立してしまった。そんな男だったが上司から新人の部下を任された。熱量のある期待の女性新人社員だ。上司は失敗経験が豊富な彼なら優しく指導してくれるだろうと少し期待したのかもしれない。男もこの子をいい社員に育てようと頑張った。しかし、男にとってその新人は運が悪かった。奇抜な案を会議で提案し、場を盛り上げるできた新人。男の教えることは何もなかった。男は劣等感に押し潰される日々を送った。そんなある日新人がミスをした。と言うよりも男の伝え方のミスだ。男に責任は十分にあったはずだ。しかし、男は彼女を怒鳴りつけた。気がつくと男の目の前にはうつむき、啜り泣く新人と社員からの冷たい視線があった。男は咄嗟に逃げ出した。そして力尽き道端での垂れていたらしい。
「…」
僕は何も言えなかった。何か言おうとしても喉に何か突っかかる。僕は将来への不安に飲み込まれてしまっていた。
「ありがとう、こんな何もない私を気遣ってくれて。僕はもう行くよ。って行くあてもないのだけれど。」
咄嗟に男の袖を掴んだ。このままじゃいけない、そんな不安が僕を襲ったからだ。
「あ、あの、正直僕怖いと思っちゃいました。こんな将来になるかもしれないんだったら特別なんかになろうとせず、ずっと普通でいいって。お兄さんもそんな無理しなくていいんじゃないですか。だって苦しいでしょ、そんなの。」
はっとした。言い終わった瞬間自分がなんで無責任なことを言っているか分かった。恥ずかしさと申し訳なさでこの場を逃げ出したくなった。
「そうか、それもそうかもな。俺みたいな凡人が何で特別になれないとかって悩んでたんだろうな。なれるわけないのに。ありがとう。おかげでスッキリした気分だ。」
男は精一杯の笑顔を見せた。僕はその笑顔に一抹の不安を抱えて、だけどそれ以上に幸せな気持ちで受け取った。自分にも出来ることがあるんだ。自分が誰かの役に立てたことに言葉に表せないような嬉しさを感じ、それを僕も笑顔で返した。
「良かったです。僕も何の取り柄もない普通の子ですけど、こうしてあなたの役に立てて嬉しいです。そうだ、僕夏休みに自分の中の特別なことをするって言う課題があるんですけど、こんな風に困っている人を助けてあげたいな。なんて、まぁ冗談だけど。ハハハ」
「それ、手伝うよ。どうせ行くあてもないし。君に助けられた命だ。」
「え、冗談ですよ。」
「いや、その考えは私はすごくいいと思う。君なら出来るよ。手伝わせてくれ。」
「冗談だったのに…」
やってみたくはあった。ただ、人を助けるだなんてそんな責任僕にはない。だけど、やってみたかった。
「分かりましたお兄さんが手伝ってくれるなら、どうせやることもないしやってみようかな。」
こうして僕は道端で救った男と人の悩みに寄り添う夏休みを送ることとなった。