うしかい座とスピカ

凛音@りんね

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コスモスの花束

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 ある晩秋の午後。

「お嬢様」

 ユーリが恭しく花束を抱え、規則正しい足取りでエマの所までやって来た。

「まあ、コスモス」

 エマは編み物をしていた手を止め、微笑んだ。
 色とりどりのコスモスが、可憐に咲き誇っている。

 花束の送り主が誰なのか、エマには見当が付いていた。
 そして、数枚の写真が添えられていることも。

「小鳥の飼い主からお嬢様へと承っております」
「ありがとう、ユーリ」

 ユーリから花束と白い封筒を受け取ると、甘く可愛らしい香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
 エマはそっと写真を取り出した。

「あの子たち、こんなに大きくなったのね」
 
 そこに写っていたのは、数羽のセキセイインコ。
 かつてエマが迷い鳥だった母鳥を保護し、無事に飼い主の元へ戻ったのが約半年前。
 以降、飼い主から花束と写真が定期的に届けられていた。
 
「仲良く水浴びをしているわ」

 エマは目を細め、慈しむように写真を見つめる。
 そこにはあの母鳥の姿もあった。
 青色の羽に、黒くつぶらな瞳。

「みんな元気そうで良かった」

 写真を机に置くと、花束へ視線を移す。

「ねえ、ユーリ。コスモスについて教えてちょうだい」
「はい。原産地はメキシコの高原地帯で、18世紀末にスペインへ渡ってマドリード王位植物園に送られ、植物学者アントニオ・ホセ・カヴァニレスによってコスモスと名付けられました」
 
 ユーリの解説にエマは耳を傾ける。
 誰にも邪魔されないこの時間が、エマにとって何より心地よかった。
 
「花言葉は『乙女の真心』『調和』『謙虚』です。また色ごとの花言葉ですが、ピンクは『乙女の純潔』、赤は『愛情』『調和』、白は『優美』『純潔』『美麗』、黄色は『自然美』『幼い恋心』『野生的な美しさ』、黒は『恋の終わり』『恋の思い出』『移り変わらぬ気持ち』でございます」

 遥か昔の地球に思いを馳せるエマ。
 まだ自立型機械ロボットが、彼らが存在しなかった頃。

 当時の人々は空飛ぶことを夢見ながら、地上で懸命に暮らしていた。
 
「コスモス――確か宇宙の意味があったはずよね」
「おっしゃる通り、ギリシャ語で『秩序』や『調和』を意味する『kosmos』に由来しています。規則正しく花びらが並ぶ様子から、この名前が付けられました」

 エマは久しぶりに天体観測がしたくなった。
 温かなココアを飲みながら、ユーリと一緒に秋の夜空を眺めるのだ。
 
「さあ、花瓶に生けて壁龕ニッチに飾りましょう」

 エマの言葉にユーリは優しく頷いた。
 赤いチューリップを渡してくれた、小さな主人を思い出しながら。
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