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旅立ち
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雲の隙間から眩い陽光が差し、ダニールを包み込むのを不死鳥のイーサンとファロム、天使のサミュエルとテオが目の当たりにする。
「これぞまさしく乙女の奇跡だ」
イーサンは大仰に腕を広げ、右の口角を上げてみせた。
「人間が奇跡を起こしただと……?」
サミュエルとテオは驚きのあまり、目を見開く。
かつて父なる神アーラッドが起こした数々の奇跡と同等の力を、なぜ人間である少女が持ち得るのか。
「まさか……ああ、そんなことが」
未玖が宇宙と一体化したのだと、ようやく二人は気づく。
「……」
「どうした? 兄であるダニールだけ赦されて羨ましいのか?」
ファロムはイーサンを睨め付ける。
「私は赦しなど欲していない」
「はは、そうか、俺も同じだ!」
イーサンは不敵に笑うと燃える翼を硬化させ、ファロムの急所を狙って振りかざす。
「尚更、未玖を手に入れたくなった」
「紗南を殺しておいてよくも……!」
「君の乙女は宇宙に選ばれなかったのだ。来世で一角獣か人魚でも娶ればいい」
「私にとって愛する者は紗南だけだ!」
体格差はあるがその分、俊敏性に優れたファロムは攻撃を躱すと反撃に出る。
隙のないイーサンは呆然とするサミュエルとテオ目がけて、鋼鉄の矢に変化させた羽を容赦なく放った。
「くっ!」
「お前たちが仕える神はもういない。せいぜい乙女に泣き縋るがいい!」
翼で矢を跳ね返すが、二人を執拗に狙う矢先がサミュエルの頬を掠った。
陶器のような白い肌に赤い血が滲む。
「すぐに治癒しないとは、実に憐れであるな」
「貴様らこそ予知能力を失っているではないか」
「そんな力など無くとも俺には何の問題もない!」
ローブの下に隠し持っている、天使が流す涙で作られし空色をしたアクアマリンのネックレス――天使の涙を破壊しようと、イーサンは翼を翻す。
「命取りとなるものをわざわざ持ってくるとは、天使も浅はかであるな」
「サミュエル!」
「テオ! 私はいいからもう一人の不死鳥を倒すのだ!」
イーサンは尚も攻撃を仕掛け、サミュエルの体を切り刻んでいく。
徐々に赤く染まる純白のローブ。
苦悶の表情を浮かべるサミュエルに、イーサンは高揚感を覚える。
「清らかな天使が醜く果てる様は、何度見ても心が躍るね」
「ぐっ……!」
「やめろっ!」
サミュエルを助けようとするテオを、ファロムが阻む。
「私の邪魔をする者は誰であろうと始末する」
「なぜ同族で殺し合う?」
金糸雀色の髪を寒風に靡かせ、瑠璃色の瞳でファロムを睨んだ。
「だから言っただろう? 邪魔者は残らず始末する、と」
ファロムは燃える翼を羽ばたかせ、テオの首を刎ねようと急接近した。
二対の白い翼で攻撃を躱すが、復讐という狂気に取り憑かれているファロムは目にも止まらぬ速さで翼を振りかざし、鋼鉄の矢を射る。
「くっ!」
「紗南、もう少しだけ待っていておくれ」
ファロムは心臓に手を当て、全身で紗南を感じた。
ここに、自分の中に愛する紗南がいる。
永遠の時を共に生きていくのだ。
「私と紗南は新世界の神となる」
「ぐはっ!!」
ついにテオの胸元を鋼鉄の矢が貫く。
同時に天使の涙を砕かれたテオは、口から大量の血を吐いた。
「ああ、鼻につく百合の香りがこんなにもいい匂いだと思ったのは生まれて初めてだよ」
「テオ! うぐっ!!」
「余所見をするとは随分と余裕だな」
共に生きていこうと約束したテオの窮地にサミュエルは一瞬、気を取られてしまう。
ここぞとばかりにイーサンは硬化させた翼で、サミュエルの腹部を串刺しにした。
天使の涙は壊し損ねたが、既に神の加護を無くした天使にとっては致命傷に違いない。
「さあ、愛する神の元へと旅立たせてやろう」
「これぞまさしく乙女の奇跡だ」
イーサンは大仰に腕を広げ、右の口角を上げてみせた。
「人間が奇跡を起こしただと……?」
サミュエルとテオは驚きのあまり、目を見開く。
かつて父なる神アーラッドが起こした数々の奇跡と同等の力を、なぜ人間である少女が持ち得るのか。
「まさか……ああ、そんなことが」
未玖が宇宙と一体化したのだと、ようやく二人は気づく。
「……」
「どうした? 兄であるダニールだけ赦されて羨ましいのか?」
ファロムはイーサンを睨め付ける。
「私は赦しなど欲していない」
「はは、そうか、俺も同じだ!」
イーサンは不敵に笑うと燃える翼を硬化させ、ファロムの急所を狙って振りかざす。
「尚更、未玖を手に入れたくなった」
「紗南を殺しておいてよくも……!」
「君の乙女は宇宙に選ばれなかったのだ。来世で一角獣か人魚でも娶ればいい」
「私にとって愛する者は紗南だけだ!」
体格差はあるがその分、俊敏性に優れたファロムは攻撃を躱すと反撃に出る。
隙のないイーサンは呆然とするサミュエルとテオ目がけて、鋼鉄の矢に変化させた羽を容赦なく放った。
「くっ!」
「お前たちが仕える神はもういない。せいぜい乙女に泣き縋るがいい!」
翼で矢を跳ね返すが、二人を執拗に狙う矢先がサミュエルの頬を掠った。
陶器のような白い肌に赤い血が滲む。
「すぐに治癒しないとは、実に憐れであるな」
「貴様らこそ予知能力を失っているではないか」
「そんな力など無くとも俺には何の問題もない!」
ローブの下に隠し持っている、天使が流す涙で作られし空色をしたアクアマリンのネックレス――天使の涙を破壊しようと、イーサンは翼を翻す。
「命取りとなるものをわざわざ持ってくるとは、天使も浅はかであるな」
「サミュエル!」
「テオ! 私はいいからもう一人の不死鳥を倒すのだ!」
イーサンは尚も攻撃を仕掛け、サミュエルの体を切り刻んでいく。
徐々に赤く染まる純白のローブ。
苦悶の表情を浮かべるサミュエルに、イーサンは高揚感を覚える。
「清らかな天使が醜く果てる様は、何度見ても心が躍るね」
「ぐっ……!」
「やめろっ!」
サミュエルを助けようとするテオを、ファロムが阻む。
「私の邪魔をする者は誰であろうと始末する」
「なぜ同族で殺し合う?」
金糸雀色の髪を寒風に靡かせ、瑠璃色の瞳でファロムを睨んだ。
「だから言っただろう? 邪魔者は残らず始末する、と」
ファロムは燃える翼を羽ばたかせ、テオの首を刎ねようと急接近した。
二対の白い翼で攻撃を躱すが、復讐という狂気に取り憑かれているファロムは目にも止まらぬ速さで翼を振りかざし、鋼鉄の矢を射る。
「くっ!」
「紗南、もう少しだけ待っていておくれ」
ファロムは心臓に手を当て、全身で紗南を感じた。
ここに、自分の中に愛する紗南がいる。
永遠の時を共に生きていくのだ。
「私と紗南は新世界の神となる」
「ぐはっ!!」
ついにテオの胸元を鋼鉄の矢が貫く。
同時に天使の涙を砕かれたテオは、口から大量の血を吐いた。
「ああ、鼻につく百合の香りがこんなにもいい匂いだと思ったのは生まれて初めてだよ」
「テオ! うぐっ!!」
「余所見をするとは随分と余裕だな」
共に生きていこうと約束したテオの窮地にサミュエルは一瞬、気を取られてしまう。
ここぞとばかりにイーサンは硬化させた翼で、サミュエルの腹部を串刺しにした。
天使の涙は壊し損ねたが、既に神の加護を無くした天使にとっては致命傷に違いない。
「さあ、愛する神の元へと旅立たせてやろう」
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