不死鳥は歪んだ世界を救わない

凛音@りんね

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【番外編】5年後の君に捧ぐ歌 〜不死鳥は天馬の夢を見る〜

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 不死鳥フェニックスのダニールは息子のヨクサルを腕に抱き、小高い丘から草原を見下ろしていた。

「とうさま、なぜ天馬ペガサスとあそんではいけないのですか?」

 不死鳥と天馬の血を引くヨクサル。
 気になったことは何でも父親のダニールに訊ねる。
 
「前にも言ったろう。天馬はとても凶暴なんだ。だから絶対に近寄ってはならないよ」
「……はい」

 聞き分けの良いヨクサルだが、幼子ならではの知的好奇心に抗う術を持っていなかった。

 知りたい、という気持ち。
 本当に天馬は危険な種族なのか。

(かあさまも天馬なのに……)





 その夜、ヨクサルはダニールが眠りにつくと寝床から抜け出した。
 二人は森の奥にある洞窟でひっそりと暮らしている。

 そこに母親の姿はない。
 自身を産んだ時に亡くなったと聞かされていた。

(いってきます)

 ヨクサルは弱々しく燃える翼を揺らしながら、真夜中の森を駆ける。

 天馬たちは木の下で優雅に足を曲げて眠っていた。
 初めて間近で見る天馬の美しさに、ヨクサルは心を奪われる。

「君、誰?」

 驚いて振り返ると、一頭の小さな天馬が純白の翼を広げながらこちらを見つめていた。

「えっと、ぼくは不死鳥のヨクサル」
「ふうん」

 天馬は宝石のような瞳を煌めかせる。
 
「僕はレフカダ。今、この星に不死鳥はいないって父さんが言ってたけど」
「じつは……」

 嘘をつくことを知らないヨクサルは、レフカダに全てを話す。

「なるほどね」

 レフカダは悪戯っぽく笑い、ヨクサルに提案した。

「かく言う僕も群れから抜け出してきたんだ。折角だし一緒に冒険しよう」
「……うん!」
「背中に乗って」

 レフカダがしゃがむとヨクサルは器用に跨った。
 翼を有する二人は、すぐに打ち解ける。

「オーロラを突き抜けるぞ!」
「きゃはは!」

 夜空をどこまでも自由に羽ばたいてゆく。
 
「ヨクサルも5歳なんだね」
「そうだよ」
「天馬は10歳で大人になる。その時は特別な歌でお祝いするんだ」

 レフカダは見事な美声で、柔らかく儚い旋律メロディを奏でる。
 歌声に合わせて幾千万もの星々が瞬くも、やがて空が白み始めた。
 
「そろそろお別れの時間だ」

 草原へ降り立つと、ヨクサルは屈託のない笑顔で言った。
 
「レフカダがおとなになったら、ぼくもうたっておいわいしていい?」
「……ありがとう、ヨクサル」
「それじゃ、またね」
「ああ、元気で」





 急いで洞窟へ戻り、寝床に潜り込むとダニールに抱きつく。
 
(――とうさま、だいすきです)

 ヨクサルは夢を見た。
 大人になったレフカダと共に宇宙そらを飛ぶ夢を。
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