110 / 111
110,争いの種
しおりを挟む
見渡す限りの広い平原に、東西に別れて軍隊が睨み合っていた。
その数は両軍合わせて一万余りで、昨今の小競り合いの中では最大規模の物である。
小競り合いの切っ掛けは『国境付近の複数の集落の殺戮と強奪』という血生臭い物で、真偽も定まらないうちに御互いに責め合い、それを疑問に思う者も無く、周囲の村や町を巻き込み大きな争いに急速に発展した。
平原では双方が殺気立ったまま、御互いに睨みを効かせて一触即発の緊迫した状態が続き、殺し合いの幕が上がるのを待ちわびているかの様だった。
シャルダンの居た街での人々の話題に、戦争や小競り合いの話など全く上らず、小さな噂さえ聞き及ぶ事も無かったのに、それを裏切る様にこの場所だけが殺伐とした別世界と化していて、正しく異様だった。
今まで旅をしてきたのが、比較的小規模な村や町だったので、何処にこんなにも人が居たのか、ソウタにはまるで想像も付かなかったが、一万にも上る狂者の様に殺気立った人の群れから黒い霞みの様な物が発ち昇ってくるのに気付く。
戦場の遥か上空で様子を伺いながら、眼下を緊張した面持ちで見詰めていたソウタは、感じた事のある嫌な気配に身を震わせる。
一度死んだ事のあるソウタは、死の気配に敏感だった。
あの村よりも濃い死の気配は、まるで黒い蛇がとぐろを巻いて戦場を囲み込み、命を刈り込もうと鎌首をもたげているかの様だった。
「これは普通じゃない・・・。」
フルリと身を震わせ、戦場を包み込む死の腕を凝視する。
生き物の様に蠢き、その濃さを増していく死の気配を良く見ると、湧き出でる起点が在るのに気が付いた。
その忌まわしい起点は、戦場に転がった人の頭部程の大きさの黒い岩だった。
更にそれを良く視ると、何処からか力が注ぎ込まれているのに気が付いた。
注意深くその注ぎ込まれる力をたどり、見落としそうなほど細い糸を見出だす。
その糸の先を辿ると、その場所を心に刻む。
そうしている間にも嫌な気配が更に強くなり、ソウタは拳を握る。
「急いだほうが良さそうだ。」
結界を幾重にも張り、起点事包み込んで死の気配の流出を遮断する。
この大規模な戦場を網羅できる規模の奇跡を起こすには、かなり無理をしなければ成らなかった。
奇跡の魔法の中にヒールだけでなくキュアも追加しておく。
気休めだが、キュアには浄化作用が有る。
死の気配による精神の汚染を、少しでも軽減出来ればと考えたのだ。
ストックは全て吐き出し、無駄を無くす為に範囲の狭い結界を幾つも連結してフェンスの様に囲う結界を造る。
魔法附与を行ってから、魔法の精度は上がっていた。
その為、奇跡の準備に必要な時間を最小限で行える事は、ソウタにとっては行幸だった。
『争いを回避して解決を考える気持ち』 『家族を想い相手を想う気持ち』を奇跡に込める。
流石に魔力を使い過ぎて、ソウタは自分の姿を保つ事が出来なくなった。
今のソウタはまるで、幻か幽霊か実体の無い霞みも同然だ。
しかし、ソウタはそんな自分を省みることはしなかった。
「神の奇跡を皆に・・・。」
穏やかに微笑むと『奇跡』を発動させた。
その数は両軍合わせて一万余りで、昨今の小競り合いの中では最大規模の物である。
小競り合いの切っ掛けは『国境付近の複数の集落の殺戮と強奪』という血生臭い物で、真偽も定まらないうちに御互いに責め合い、それを疑問に思う者も無く、周囲の村や町を巻き込み大きな争いに急速に発展した。
平原では双方が殺気立ったまま、御互いに睨みを効かせて一触即発の緊迫した状態が続き、殺し合いの幕が上がるのを待ちわびているかの様だった。
シャルダンの居た街での人々の話題に、戦争や小競り合いの話など全く上らず、小さな噂さえ聞き及ぶ事も無かったのに、それを裏切る様にこの場所だけが殺伐とした別世界と化していて、正しく異様だった。
今まで旅をしてきたのが、比較的小規模な村や町だったので、何処にこんなにも人が居たのか、ソウタにはまるで想像も付かなかったが、一万にも上る狂者の様に殺気立った人の群れから黒い霞みの様な物が発ち昇ってくるのに気付く。
戦場の遥か上空で様子を伺いながら、眼下を緊張した面持ちで見詰めていたソウタは、感じた事のある嫌な気配に身を震わせる。
一度死んだ事のあるソウタは、死の気配に敏感だった。
あの村よりも濃い死の気配は、まるで黒い蛇がとぐろを巻いて戦場を囲み込み、命を刈り込もうと鎌首をもたげているかの様だった。
「これは普通じゃない・・・。」
フルリと身を震わせ、戦場を包み込む死の腕を凝視する。
生き物の様に蠢き、その濃さを増していく死の気配を良く見ると、湧き出でる起点が在るのに気が付いた。
その忌まわしい起点は、戦場に転がった人の頭部程の大きさの黒い岩だった。
更にそれを良く視ると、何処からか力が注ぎ込まれているのに気が付いた。
注意深くその注ぎ込まれる力をたどり、見落としそうなほど細い糸を見出だす。
その糸の先を辿ると、その場所を心に刻む。
そうしている間にも嫌な気配が更に強くなり、ソウタは拳を握る。
「急いだほうが良さそうだ。」
結界を幾重にも張り、起点事包み込んで死の気配の流出を遮断する。
この大規模な戦場を網羅できる規模の奇跡を起こすには、かなり無理をしなければ成らなかった。
奇跡の魔法の中にヒールだけでなくキュアも追加しておく。
気休めだが、キュアには浄化作用が有る。
死の気配による精神の汚染を、少しでも軽減出来ればと考えたのだ。
ストックは全て吐き出し、無駄を無くす為に範囲の狭い結界を幾つも連結してフェンスの様に囲う結界を造る。
魔法附与を行ってから、魔法の精度は上がっていた。
その為、奇跡の準備に必要な時間を最小限で行える事は、ソウタにとっては行幸だった。
『争いを回避して解決を考える気持ち』 『家族を想い相手を想う気持ち』を奇跡に込める。
流石に魔力を使い過ぎて、ソウタは自分の姿を保つ事が出来なくなった。
今のソウタはまるで、幻か幽霊か実体の無い霞みも同然だ。
しかし、ソウタはそんな自分を省みることはしなかった。
「神の奇跡を皆に・・・。」
穏やかに微笑むと『奇跡』を発動させた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる