金なし道中竜殺し

しのはらかぐや

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4章 ファオクク島

第59話 作戦会議

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等加のバフが次第に弱まり、効果が消えてなくなったところで観衆は正気を取り戻した。
再び混乱に陥りそうになったところに常盤院の兵がたてのりを連れて戻ったことで、その場は体裁を取り繕って見かけ上は円満なままお開きとなった。
会場を後にした等加は入り口に戻ってきていた仲間に声をかけ、事の次第を聞くと何でもないような顔でただ頷いただけだった。

「私めの踊りではご満足いただけなかったようですから、こちらでもうしばらくエルフの伝統を学んでもう一度踊らせていただきたいの。宿の用意をいただける?」

等加の一声に込められた圧で、来賓に対する騒動で申し訳なさもあったエルフ王はすぐさま無期限の宿を等加に貸し出した。

「はぁー、等加ちゃんおらんかったらもう俺ら終わってたな。たてのり見捨てて行くしかなかったわ」

人払いをした等加の広い部屋で集まり相談をしながら、タスクはため息をついた。
等加の奴隷としてしばらくは過ごすしかない。今でこそ等加にメンテナンスショーを見せているという名目で部屋に入れてもらっているが、タスクとセバスチャンは今後しばらく馬小屋暮らしだろう。
アルアスルは猫型で、莉音もクローゼットで過ごす時間が長くなりそうだ。

「たてのりを取り返す算段はあるの?」

「取り返すっていうかなぁ…流石に俺らだけでエルフを敵に回すんは得策やないから、たてのりのこと信じて待つしかないわ」

「このまま奴隷として一生を終えることになったりしてな!あはは」

「笑い事やないで、タスク…」

現時点で今後の見通しなどあるはずがない。
このパーティの希望は、たてのりが何とかして抜け出してきてくれる、その一点だけだ。
お先が暗く沈む一行の気も知らず、部屋のドアが優しくノックされた。

「…トウカ様、いらっしゃいますでしょうか」

「…えぇ、入って」

等加が一呼吸置く間にアルアスルは猫になって布団に潜り込み、莉音はクローゼットに押し入る。
図体のでかいタスクはセバスチャンを抱えてバルコニーに飛び出した。

「失礼いたします。お菓子をお持ちしました。あと、次の宴の日程ですが…」

黒い髪を結い上げたヒューマンらしき奴隷は、ワゴンに乗せた豪華なケーキスタンドと一枚の紙を持って部屋に入った。
奴隷が差し出した紙を受け取って見ると、満点の星空から降り注ぐ雨を描いた不思議な絵が描かれていた。

「…雨喚びの儀?」

「えぇ、ご存知では?」

「いいえ、私は幼い頃にファオククを出ていて…島の行事には疎くて」

等加が首を振ると奴隷は慌てて首を垂れた。

「失礼いたしました。こちらはエルフ族の初夏の伝統行事で、今年は七日後の新月に行います。今後の作物の実りや木々の発展を星に願って長い雨を喚ぶ儀式です。王より、こちらで雨喚びの巫女役をトウカ様にお願いしたいと…」

クローゼットや布団から、一行は耳をすませて奴隷と等加の会話を聞く。

「こちらの儀式では現王の引退とスリジエ様の即位式を行うとかで…トウカ様には、そちらの王冠持ちもお願いしたいとの仰せです」

「…わかりました。引き受けましょう。現王に伝えてくださる?」

「はい、しかと」

奴隷が部屋を出ると、布団から飛び出したアルアスルが人型に戻りながら一目散に等加の持つ紙へ向かう。
クローゼットから出てきた莉音がバルコニーのタスクとセバスチャンを呼び戻して再び一行は円に腰掛けた。

「ソクイシキ…って、王様になるっちゅうことやんな?」

「そうだね。そこで新王が今後の政治方針を述べて民に誓うのがファオククでは伝統だと聞いたことがあるよ」

アルアスルは頭を抱える。
七日後にはたてのりが王様として一生この国に囚われることになるのだ。
たてのりが嫌いな身分や権力の最たるところに身を置き、その渦中の人となってしまう。

「何とかしてそれまでに助け出すか、なんか方法を考えなあかん…!」

「何とかっていったって…そもそも王政すらわからへんのに、俺らにできることって…」

声を上げる人は誰もいない。
聖女、職人、商人に夜の蝶。政治に詳しい者など誰一人としていないのだ。

結局、誰一人としていい案を出すことができないままただ時間だけが過ぎ、雨喚びの儀はもうすぐそこに迫っていた。
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