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1章 結成
序章 大聖女の手記
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長い歴史の中で、とある村が滅んだ。
希少な魔力石が稀に採れる意外になんの特徴もないところだが、そこはかつてこの国を救った英雄のひとりである「大聖女」が生まれ育った村だとされており歴史的な価値があった。
また、大聖女が世界を救ったのちに持ち帰った彫像は世界で一番美しい像とされ、その村は観光地としても栄えた過去があったようだ。
しかし、あるとき、その村は急に滅んだ。
そこに住んでいたドワーフたちと訪れた観光客が突然不審な大量死を遂げたのである。
一晩で建物は溶けたように崩れ落ち、泉は濁り、残ったのは大聖女が暮らした教会と彼女が持ち帰った彫像だけだった。
理由については未だ解明されていない。建物の崩壊具合や死体の壊死状態からは強力な魔力が発していたため、その彫像の呪いではないかとどの研究書にも曖昧に書かれている。
時代が巡るにつれてこの怪事件は忘れ去られ、いつしか教科書に載る歴史となり、ロマンを追い求める考古学者だけがこの崩壊した村を訪れるようになったのだった。
「大量死の謎、一晩で崩れ落ちた建物の謎、彫像の呪い…ロマンしかないよ。そこからこんなものが見つかれば、ねぇ?」
長いうんちくを意気揚々と吐き出した教授は得意げに白手袋をはめる。
そして恭しい手つきでテーブルの上にある小さな冊子をめくって見せた。
「頭のかたーいジジイどもは、あの現象をオリハルコンと特殊魔石の対消滅反応による有害魔道粒子の放出だって言い張ってるけどね。そもそもちょっとやそっとのことで起きはしないんだ、理論上はね。ボクは大聖女リオン様が鍵だと思ってるんだよ。なんだって伝説の英雄の一行だったんだもの」
教授はもはや口癖ともいえる毎度の愚痴を吐き捨てて、小さな冊子のページを次々とめくっていく。
めくるたびに歴史に思いを馳せる教授の目の前でたったひとりのオーディエンスはゼミ選びを失敗したかと飽き飽きとあくびをした。
まさか、転入してまで選んだゼミが自分ひとりだったなんて思いもしなかった。
挨拶に来ても教授は不在、ようやく帰ってきたかと思えばこれだ。
「もう分かりましたから、早く読んでくださいよその手記」
「それがねぇ、西大陸の古代文字は専門じゃないから…まだ解読できていないんだよね。来週にでも専門の先生にお願いしてと思ってるんだけどなかなか予定が合わなくってね」
「…西大陸の古代文字?それなら僕が読めますけど。前の学科で専門だったので」
このゼミ唯一のゼミ生は言語学科からの転入生である。
それまで生徒には興味がなさそうだった教授は目を輝かせ、ゼミ生の手をとった。
「そうなの!じゃあ早速読んでみてくれたまえ」
「はいはい…」
そうして、手記はひとりのゼミ生によって解読された。
世界を旅して世界を救った大聖女が最期まで肌身離さず持ち歩いていた手記。
何百年も前のその手記には、一体どれほどの慈愛の言葉で満ちていたのだろうか。
『私はこの世界を許せない。主よ、罪深い私を罰してください。そして私を彼女と同じ地獄へとお連れください。…神など、もう信じてはいないが。私にとっての神を殺した神など、私にはもう必要がない。』
—————————大聖女の手記より
希少な魔力石が稀に採れる意外になんの特徴もないところだが、そこはかつてこの国を救った英雄のひとりである「大聖女」が生まれ育った村だとされており歴史的な価値があった。
また、大聖女が世界を救ったのちに持ち帰った彫像は世界で一番美しい像とされ、その村は観光地としても栄えた過去があったようだ。
しかし、あるとき、その村は急に滅んだ。
そこに住んでいたドワーフたちと訪れた観光客が突然不審な大量死を遂げたのである。
一晩で建物は溶けたように崩れ落ち、泉は濁り、残ったのは大聖女が暮らした教会と彼女が持ち帰った彫像だけだった。
理由については未だ解明されていない。建物の崩壊具合や死体の壊死状態からは強力な魔力が発していたため、その彫像の呪いではないかとどの研究書にも曖昧に書かれている。
時代が巡るにつれてこの怪事件は忘れ去られ、いつしか教科書に載る歴史となり、ロマンを追い求める考古学者だけがこの崩壊した村を訪れるようになったのだった。
「大量死の謎、一晩で崩れ落ちた建物の謎、彫像の呪い…ロマンしかないよ。そこからこんなものが見つかれば、ねぇ?」
長いうんちくを意気揚々と吐き出した教授は得意げに白手袋をはめる。
そして恭しい手つきでテーブルの上にある小さな冊子をめくって見せた。
「頭のかたーいジジイどもは、あの現象をオリハルコンと特殊魔石の対消滅反応による有害魔道粒子の放出だって言い張ってるけどね。そもそもちょっとやそっとのことで起きはしないんだ、理論上はね。ボクは大聖女リオン様が鍵だと思ってるんだよ。なんだって伝説の英雄の一行だったんだもの」
教授はもはや口癖ともいえる毎度の愚痴を吐き捨てて、小さな冊子のページを次々とめくっていく。
めくるたびに歴史に思いを馳せる教授の目の前でたったひとりのオーディエンスはゼミ選びを失敗したかと飽き飽きとあくびをした。
まさか、転入してまで選んだゼミが自分ひとりだったなんて思いもしなかった。
挨拶に来ても教授は不在、ようやく帰ってきたかと思えばこれだ。
「もう分かりましたから、早く読んでくださいよその手記」
「それがねぇ、西大陸の古代文字は専門じゃないから…まだ解読できていないんだよね。来週にでも専門の先生にお願いしてと思ってるんだけどなかなか予定が合わなくってね」
「…西大陸の古代文字?それなら僕が読めますけど。前の学科で専門だったので」
このゼミ唯一のゼミ生は言語学科からの転入生である。
それまで生徒には興味がなさそうだった教授は目を輝かせ、ゼミ生の手をとった。
「そうなの!じゃあ早速読んでみてくれたまえ」
「はいはい…」
そうして、手記はひとりのゼミ生によって解読された。
世界を旅して世界を救った大聖女が最期まで肌身離さず持ち歩いていた手記。
何百年も前のその手記には、一体どれほどの慈愛の言葉で満ちていたのだろうか。
『私はこの世界を許せない。主よ、罪深い私を罰してください。そして私を彼女と同じ地獄へとお連れください。…神など、もう信じてはいないが。私にとっての神を殺した神など、私にはもう必要がない。』
—————————大聖女の手記より
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