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1章 結成
第2話 仲間
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アルアスルがドワーフとガウを連れて辿り着いたのは賑やかな街からさらに裏へ入った官能的で大人な通りだった。
追手から逃げ回っているうちに西大陸最大の街、ツェントルムの中央へと戻ってきていたようだ。
陽はすっかり傾いて断末魔をあげ、恐ろしいまでの赤さで空をいっぱいに染めている。
本当に村から出たばかりで今日の宿の当てすらない聖女はいい加減この意味不明な状況から抜け出したかったが、有無を言わせぬ様子とおそらく逃げきれないであろう男の足の速さに怯えてただ従ってついて行った。
刻々と暮れていく気配の中で魔力を纏ったネオンの光が点灯する。
「俺はこのあたりで相棒と待ち合わせてんねん」
「相棒…?」
アルアスルはゆっくりとガウの横を歩きながらひとつひとつ店を見て、やがて到達した最奥の広場の前で立ち止まった。
「降りて、ガウをくくっといて」
「あ…うん…」
その広場のさらに奥にはどこよりも派手な店があった。その通りで一番大きく、一番煌びやかな店である。
他の店が道に直接面して所狭しと建っているのに対してここだけが大きな広場と噴水があり、端には馬車や騎乗用のペットを休ませておく空間まである。
「聖女さんその格好で入れるやろか?」
「え、旅装束では無理?あて、これしか手持ちがないんやけど…」
確かに盲いた目にもはっきり映るほど多彩な光に照らされ、その建物は圧倒されるほど豪華で明らかに場違いだ。
それならば解放してくれればいいのにと猫人を見上げるが、アルアスルはどこ吹く風で手を引いて楽観的に細かい装飾がついたドアの前までドワーフを連れていく。
ドアの横にはひとり、男が建っていた。
「あ~たての~ん!」
アルアスルはその男に馴れ馴れしく声をかける。
待ち合わせていた相棒というのはこの男のことのようだ。
「遅い。日暮れの前だといっただろう」
よく目立つほど背の高いアルアスルと比べれば少々見劣りする背丈のその男は面倒そうに舌打ちをする。
全身を硬そうなプレートで身を包んでいるが体つきはしなやかでお世辞にもがっちりしているとはいえず、タンク職には見えない。
機動力が落ちるプレートをタンク職以外が着るというのはあまりないことだが戦士か何かだと思われた。
男はふとアルアスルの後ろに隠れるように立っていた莉音に気付いて思い切り顔を顰めた。
「…おい、ネコ。なんだそのちびっ子は」
「え?えーっと、あれ?そういや聞いてへんかったな…名前なんやっけ?」
男に睨まれてもアルアスルはどこ吹く風で嬉しそうに笑ってドワーフの背中を押す。
ドワーフは男の耳が少しだけ尖っていることに気がついて怯えながら一礼した。
「り…莉音、と、申します…ドワーフ村の…聖女、です…」
「ドワーフ?」
案の定男は虫ケラを見る目でドワーフの聖女、莉音のことを見た。
街でちらほらと見かけたエルフほど透き通るような美しさや派手さは持ち合わせていないが、少し尖ったヒューマンより大きな耳は彼がエルフであること、同時にドワーフが嫌いなことを示すに十分すぎる情報を有していた。
「俺もまだ名乗ってへんかったな。アルアスルっていうねん。よろしくな、莉音ちゃん」
アルアスルと名乗った猫人だけが空気も読まずに愉快そうだ。
「こいつはたてのり!エルフっちゃエルフやけどヒューマンとのハーフやからそんなに怯えんで大丈夫やで」
そうアルアスルに紹介されても、この絶対零度の視線のどこが大丈夫なのかわからない。
エルフの高貴さに圧倒されドワーフとして染み付いた体が気を抜けば勝手に平伏しそうだった。
「たてのんさ、街出て稼ぐんやったらもっと戦力か回復がいるて言うてたやん?やから借り作って回復連れてきたで。しかも宝石付きや!」
「え!?」
莉音とたてのりの声が思わず被る。誰も聞いていなかった情報である。
つまりアルアスルは莉音をパーティの一員に加えて仲間にするために連れてきたのだ。
パーティといってもピンからキリまで多種多様だが、基本的には魔獣や敵対勢力と戦うことを主とした任意のエリート職業集団である。
仲間である以上は連携が必要で、昼夜も共に過ごす本当の信頼関係が必要な存在だ。加入にも厳格な審査等があるのが普通だと聞いている。
「聞いてへんで!?」
莉音は横目で何度もたてのりの様子を伺いながらアルアスルの袖を引いて抗議した。
たてのりの食い入るような目線が怖い。
「まぁまぁ、詳しい話は中でしよや!タスクが待ってるし」
アルアスルは故意なのか無意識なのか二人を完全に無視して店のドアを開けた。
眩い光が瞳いっぱいに映り、次いで楽し気な笑い声と甘い香りが鼻孔をくすぐった。
耳を劈くような楽器の音に合わせて光や影がくるくると踊る。莉音の村いちばん大きな収穫祭よりも煌びやかな夜の世界がそこにはあった。
「あっ、遅いぞお前ら!」
前方の賑わいからこちらに向かって呼びかける声が聞こえ、そこでたてのりはようやく莉音から視線を外して声の方へと歩き出す。
怯えていた莉音もアルアスルに背中を押されてそれに続いた。
「もー、夕方には来るって言うてたのに全然来えへんからメインのパフォーマンスに間に合わへんかと思ったで」
そこには椅子に座っていても莉音を見下ろすほどの大男がいた。
その辺りの男性に比べても遥かに発達した筋肉と後ろに伸ばした黒髪をちょこんと結った色気のある雰囲気に堀の深い整った面立ち、いかにも女が放ってはおかないような映える男だ。
彼は愉快そうに笑いながら持っていた瓶をたてのりに渡し、ふと下を見て驚いた声を上げる。
「え?ドワーフ?なんでこんなところにおるんや?」
たてのりが瓶の酒をアルアスルまで回しながら莉音を一瞥して口を開く。
「ドワーフ村の聖女莉音!回復役の子として俺が連れてきたねん!今日いちばんの収穫や」
たてのりが余計なことを言いそうな気配を察知したアルアスルがすぐさま反応し、速度で負けたたてのりは口を閉じた。
大男は莉音のことを頭の先から足の先まで舐めるように見て、その薄い瞳に眉を顰める。
「まさかアル、またその子のこと盗んできたんとちゃうやろな?この間の子はええとこのお嬢さんで大変なことになったやろうが」
アルアスルは焦ったように尻尾を忙しなく動かして口笛など吹いて誤魔化す。
莉音はなんとなく状況を理解してやっと笑った。
どうやら人手が不足しているパーティに手癖の悪い男が混じっていて、人を攫っては無理にパーティに加入させている様子だ。
助けてくれたことから悪い人ではないと思っていたが、大泥棒の人攫いという極悪人かもしれないと言う可能性が拭えず怯えていた。しかし、大男の前でアルアスルはまさしく借りてきた猫だ。
大男は呆れたようにため息をつくと莉音を抱え上げて空いていた椅子に座らせた。
「莉音、ごめんなぁ急なことでびっくりしたやろ。俺はタスク。こう見えても同じドワーフやねんで。亜種やから村には居れへんくて街に奉公に出て暮らしてるんやけど…」
途端に莉音の表情がパッと明るくなる。
安堵と興奮が混じった様子で薄い水色の瞳がキラキラと輝いた。
「そうなん?こんな大きいドワーフ初めて見たわぁ!確かに腕とか職人さんのやなぁ」
「そうやで。街では武器職人してたんやで。今はこのパーティにおるから専らこいつらの武器作ったり直したりやけど…ほんまに小さいパーティでなぁ」
タスクは大きくため息をついてアルアスルとたてのりに目配せをする。
ふたりはそそくさと席について大人しくタスクと莉音のやり取りを見守る。
「莉音さえ良ければやねんけど、こんな縁とはいえ縁は縁や。その…その帽子、大使様やろ?莉音は」
「あ…ほうなんよ…今年のお祈りの旅の大使役で…」
タスクは少しだけ哀れみを蓄えた目で莉音を見つめる。
街へ出てからドワーフの聖女はたまにだけ見かけるようになった。ドワーフ村で暮らしていた幼少期には純粋に祈りを信じていたため快く送り出しており気が付かなかったが、街で様々なことを知るうちにあれは口減らしだったと気がついた。
奴隷身分のドワーフ、しかも聖女という箱入りに育った一人の娘が一人で生きていけるはずがない。
さらに、この目だ。
回復役が欲しいのは確かなことだが、ここで放り出せば彼女は明日か明後日にも行き倒れてしまうだろう。
「それやったら、俺らと来んか?今後大きいクエストこなしたいとは思ってるんやけど人手が足らんくて、街からも出られてへんのや。莉音がおってくれたら俺らも助かるし、莉音にとってもええと思う」
「俺に恩も返したいやろ?」
「アルは黙ってろ」
タスクの提案とアルアスルの茶々に莉音はしばらく考える。
たてのりを一瞥してその鋭い目線に足がすくむが、それに気付いたアルアスルがすぐに尻尾でたてのりの目を隠した。
ドワーフを差別するエルフの血が入った者と共に過ごすのは怖い。ただ、莉音も自分ひとりで生きていけないことはわかっていた。
主の側に馳せる死は怖くないが、せめて仮初でも与えられた使命は全うしたかった。
「…その…じゃあ、ご一緒させてもらえたら…」
たてのりの纏う温度が凍りつく。
「まぁまぁ、たてのりもそんな怖い顔すんなや。俺もドワーフっちゃドワーフやで?莉音、ありがとう。こいつツンデレでムッツリスケベなだけやから…すぐ慣れるわ」
タスクは莉音を歓迎すると手を出して握手する。たてのりの目を隠しながらアルは尻尾をピンと立てて嬉しそうだ。
莉音の顔が思わず綻ぶ。教会では最年長だといえどもまだ世を知らない未熟な笑顔がそこに映った。
追手から逃げ回っているうちに西大陸最大の街、ツェントルムの中央へと戻ってきていたようだ。
陽はすっかり傾いて断末魔をあげ、恐ろしいまでの赤さで空をいっぱいに染めている。
本当に村から出たばかりで今日の宿の当てすらない聖女はいい加減この意味不明な状況から抜け出したかったが、有無を言わせぬ様子とおそらく逃げきれないであろう男の足の速さに怯えてただ従ってついて行った。
刻々と暮れていく気配の中で魔力を纏ったネオンの光が点灯する。
「俺はこのあたりで相棒と待ち合わせてんねん」
「相棒…?」
アルアスルはゆっくりとガウの横を歩きながらひとつひとつ店を見て、やがて到達した最奥の広場の前で立ち止まった。
「降りて、ガウをくくっといて」
「あ…うん…」
その広場のさらに奥にはどこよりも派手な店があった。その通りで一番大きく、一番煌びやかな店である。
他の店が道に直接面して所狭しと建っているのに対してここだけが大きな広場と噴水があり、端には馬車や騎乗用のペットを休ませておく空間まである。
「聖女さんその格好で入れるやろか?」
「え、旅装束では無理?あて、これしか手持ちがないんやけど…」
確かに盲いた目にもはっきり映るほど多彩な光に照らされ、その建物は圧倒されるほど豪華で明らかに場違いだ。
それならば解放してくれればいいのにと猫人を見上げるが、アルアスルはどこ吹く風で手を引いて楽観的に細かい装飾がついたドアの前までドワーフを連れていく。
ドアの横にはひとり、男が建っていた。
「あ~たての~ん!」
アルアスルはその男に馴れ馴れしく声をかける。
待ち合わせていた相棒というのはこの男のことのようだ。
「遅い。日暮れの前だといっただろう」
よく目立つほど背の高いアルアスルと比べれば少々見劣りする背丈のその男は面倒そうに舌打ちをする。
全身を硬そうなプレートで身を包んでいるが体つきはしなやかでお世辞にもがっちりしているとはいえず、タンク職には見えない。
機動力が落ちるプレートをタンク職以外が着るというのはあまりないことだが戦士か何かだと思われた。
男はふとアルアスルの後ろに隠れるように立っていた莉音に気付いて思い切り顔を顰めた。
「…おい、ネコ。なんだそのちびっ子は」
「え?えーっと、あれ?そういや聞いてへんかったな…名前なんやっけ?」
男に睨まれてもアルアスルはどこ吹く風で嬉しそうに笑ってドワーフの背中を押す。
ドワーフは男の耳が少しだけ尖っていることに気がついて怯えながら一礼した。
「り…莉音、と、申します…ドワーフ村の…聖女、です…」
「ドワーフ?」
案の定男は虫ケラを見る目でドワーフの聖女、莉音のことを見た。
街でちらほらと見かけたエルフほど透き通るような美しさや派手さは持ち合わせていないが、少し尖ったヒューマンより大きな耳は彼がエルフであること、同時にドワーフが嫌いなことを示すに十分すぎる情報を有していた。
「俺もまだ名乗ってへんかったな。アルアスルっていうねん。よろしくな、莉音ちゃん」
アルアスルと名乗った猫人だけが空気も読まずに愉快そうだ。
「こいつはたてのり!エルフっちゃエルフやけどヒューマンとのハーフやからそんなに怯えんで大丈夫やで」
そうアルアスルに紹介されても、この絶対零度の視線のどこが大丈夫なのかわからない。
エルフの高貴さに圧倒されドワーフとして染み付いた体が気を抜けば勝手に平伏しそうだった。
「たてのんさ、街出て稼ぐんやったらもっと戦力か回復がいるて言うてたやん?やから借り作って回復連れてきたで。しかも宝石付きや!」
「え!?」
莉音とたてのりの声が思わず被る。誰も聞いていなかった情報である。
つまりアルアスルは莉音をパーティの一員に加えて仲間にするために連れてきたのだ。
パーティといってもピンからキリまで多種多様だが、基本的には魔獣や敵対勢力と戦うことを主とした任意のエリート職業集団である。
仲間である以上は連携が必要で、昼夜も共に過ごす本当の信頼関係が必要な存在だ。加入にも厳格な審査等があるのが普通だと聞いている。
「聞いてへんで!?」
莉音は横目で何度もたてのりの様子を伺いながらアルアスルの袖を引いて抗議した。
たてのりの食い入るような目線が怖い。
「まぁまぁ、詳しい話は中でしよや!タスクが待ってるし」
アルアスルは故意なのか無意識なのか二人を完全に無視して店のドアを開けた。
眩い光が瞳いっぱいに映り、次いで楽し気な笑い声と甘い香りが鼻孔をくすぐった。
耳を劈くような楽器の音に合わせて光や影がくるくると踊る。莉音の村いちばん大きな収穫祭よりも煌びやかな夜の世界がそこにはあった。
「あっ、遅いぞお前ら!」
前方の賑わいからこちらに向かって呼びかける声が聞こえ、そこでたてのりはようやく莉音から視線を外して声の方へと歩き出す。
怯えていた莉音もアルアスルに背中を押されてそれに続いた。
「もー、夕方には来るって言うてたのに全然来えへんからメインのパフォーマンスに間に合わへんかと思ったで」
そこには椅子に座っていても莉音を見下ろすほどの大男がいた。
その辺りの男性に比べても遥かに発達した筋肉と後ろに伸ばした黒髪をちょこんと結った色気のある雰囲気に堀の深い整った面立ち、いかにも女が放ってはおかないような映える男だ。
彼は愉快そうに笑いながら持っていた瓶をたてのりに渡し、ふと下を見て驚いた声を上げる。
「え?ドワーフ?なんでこんなところにおるんや?」
たてのりが瓶の酒をアルアスルまで回しながら莉音を一瞥して口を開く。
「ドワーフ村の聖女莉音!回復役の子として俺が連れてきたねん!今日いちばんの収穫や」
たてのりが余計なことを言いそうな気配を察知したアルアスルがすぐさま反応し、速度で負けたたてのりは口を閉じた。
大男は莉音のことを頭の先から足の先まで舐めるように見て、その薄い瞳に眉を顰める。
「まさかアル、またその子のこと盗んできたんとちゃうやろな?この間の子はええとこのお嬢さんで大変なことになったやろうが」
アルアスルは焦ったように尻尾を忙しなく動かして口笛など吹いて誤魔化す。
莉音はなんとなく状況を理解してやっと笑った。
どうやら人手が不足しているパーティに手癖の悪い男が混じっていて、人を攫っては無理にパーティに加入させている様子だ。
助けてくれたことから悪い人ではないと思っていたが、大泥棒の人攫いという極悪人かもしれないと言う可能性が拭えず怯えていた。しかし、大男の前でアルアスルはまさしく借りてきた猫だ。
大男は呆れたようにため息をつくと莉音を抱え上げて空いていた椅子に座らせた。
「莉音、ごめんなぁ急なことでびっくりしたやろ。俺はタスク。こう見えても同じドワーフやねんで。亜種やから村には居れへんくて街に奉公に出て暮らしてるんやけど…」
途端に莉音の表情がパッと明るくなる。
安堵と興奮が混じった様子で薄い水色の瞳がキラキラと輝いた。
「そうなん?こんな大きいドワーフ初めて見たわぁ!確かに腕とか職人さんのやなぁ」
「そうやで。街では武器職人してたんやで。今はこのパーティにおるから専らこいつらの武器作ったり直したりやけど…ほんまに小さいパーティでなぁ」
タスクは大きくため息をついてアルアスルとたてのりに目配せをする。
ふたりはそそくさと席について大人しくタスクと莉音のやり取りを見守る。
「莉音さえ良ければやねんけど、こんな縁とはいえ縁は縁や。その…その帽子、大使様やろ?莉音は」
「あ…ほうなんよ…今年のお祈りの旅の大使役で…」
タスクは少しだけ哀れみを蓄えた目で莉音を見つめる。
街へ出てからドワーフの聖女はたまにだけ見かけるようになった。ドワーフ村で暮らしていた幼少期には純粋に祈りを信じていたため快く送り出しており気が付かなかったが、街で様々なことを知るうちにあれは口減らしだったと気がついた。
奴隷身分のドワーフ、しかも聖女という箱入りに育った一人の娘が一人で生きていけるはずがない。
さらに、この目だ。
回復役が欲しいのは確かなことだが、ここで放り出せば彼女は明日か明後日にも行き倒れてしまうだろう。
「それやったら、俺らと来んか?今後大きいクエストこなしたいとは思ってるんやけど人手が足らんくて、街からも出られてへんのや。莉音がおってくれたら俺らも助かるし、莉音にとってもええと思う」
「俺に恩も返したいやろ?」
「アルは黙ってろ」
タスクの提案とアルアスルの茶々に莉音はしばらく考える。
たてのりを一瞥してその鋭い目線に足がすくむが、それに気付いたアルアスルがすぐに尻尾でたてのりの目を隠した。
ドワーフを差別するエルフの血が入った者と共に過ごすのは怖い。ただ、莉音も自分ひとりで生きていけないことはわかっていた。
主の側に馳せる死は怖くないが、せめて仮初でも与えられた使命は全うしたかった。
「…その…じゃあ、ご一緒させてもらえたら…」
たてのりの纏う温度が凍りつく。
「まぁまぁ、たてのりもそんな怖い顔すんなや。俺もドワーフっちゃドワーフやで?莉音、ありがとう。こいつツンデレでムッツリスケベなだけやから…すぐ慣れるわ」
タスクは莉音を歓迎すると手を出して握手する。たてのりの目を隠しながらアルは尻尾をピンと立てて嬉しそうだ。
莉音の顔が思わず綻ぶ。教会では最年長だといえどもまだ世を知らない未熟な笑顔がそこに映った。
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