金なし道中竜殺し

しのはらかぐや

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1章 結成

第10話 灰

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タスクの目線の先で、モンスターの死後の灰が風もないのにさらさらと移動している。

「なぁ、これ…」

莉音を除いたメンバーもそれに気が付いた。

「たてのり、今日は莉音を連れて先に宿に戻ってろ。俺らはこれ追いかけてくるから」

タスクがエレジーの尻を押す。
たてのりは何か言いたげに口を開いたが、乗せられたガウの毛に埋もれて寝こける莉音を一瞥して大人しく踵を返した。

「気を付けろよ。何かあれば信号で呼んでくれ」

「わかった」

言い残してたてのりはエレジーに跨り、ガウに着いてくるよう声を掛けると宿の方へ走っていった。

「じゃあ、あたしらはこの灰を追おうか」

人が歩くくらいの速度で移動する遺灰を指さすトウカが先陣をきる。
アルアスルとタスクは頷いてトウカに続いた。



ツェントルムの西門から出て数十分距離を歩いたところには豊かな自然が広がっている。
この辺りはもちろんゼーローゼの所有地であり、その一族が管理も任されている土地だ。

「いやとんでもなく暗いな…」

同意を求めるようにタスクは隣を見て、闇に浮く金の瞳が黒の瞳孔に侵されている様子にため息をついた。

「えぇな、ネコは…」

前を進むトウカもこれといって闇夜に足を取られることもない。随分暗さには慣れているようだった。

「え?明かり必要なの俺だけ?うそやろ…」

ぶつくさ言いながら凝った装飾のランプを取り出して火をつける。
アルアスルの瞳孔が縮んで瞳が一気に金色に戻った。
ゼーローゼの管理下にあるはずの山は灯りすらなく不気味な寒さと底知れない暗さだった。
植物は荒れて好き放題生え、下級の虫型モンスターがザワザワと走り蠢く音が微かに聞こえる。

「なーんか結構奥まで来たな。あ、灰…」

山に入ってからさらにしばらく歩き、木しかなかった景色に開けた場所が現れた。
灰は急に速度を上げて吸い込まれるようにその場所へ流れていく。
大きく開けた場所の中心には気の切り株があった。
灰はそこへ呑み込まれて跡形もなく消える。

「魔法陣あるか?」

「あ、これ…」

切り株の周囲をまわって地面を見ていたアルアスルはトウカの声で切り株本体に目を移す。
切り株には小さな記号とも文字ともつかないものがびっしりと刻まれ浮き上がっていた。

「うわ…気持ちわる。この切り株自体が魔法陣か。えーっと、この模様みたいなの破壊したら効果無くなるよな?」

アルアスルは言いながら尻尾でパタパタと文字を払い落とす。
文字にはヒビが入り切り株から呆気なく剥がれ落ちた。

「こんなんでええんか…?」

あまりの呆気なさにタスクが不安な顔をする。
トウカは切り株に手を翳して頷いた。

「うん、もう魔力は感じないね。そもそもランクDだよ。毎回夜で場所が違うっていうのが厄介だっただけで」

「あぁそうか…運悪くモンスターが連続で最強やったからすっかり忘れてたわ」

疲れた様子でアルアスルが尻尾を振る。
タスクも眠そうに欠伸した。

「そしたら明日はシュテルンツェルトに報告行って、ゼーローゼから金ふんだくらなあかんな!」

「とりあえず戻って寝よう。莉音とたてのりが心配だしね」

3人は顔を見合わせて笑った。




「はい、約束通り金貨700です」

目の前に置かれた大きな袋を見てアルアスルは感嘆の声を漏らした。

「はぁぁあ…迫力あるなぁ…!銀貨でも銅貨でもなくこれ全部金貨…!ふおおおお……!」

袋を覗き込みはしゃぐアルアスルの尻尾は天井に向かって真っ直ぐに伸びている。

「こら!アル!ギルドの人と山分けやろ!」

そのまま持ち去ってどこかに姿を眩ませそうな様子のアルアスルからタスクは袋を引き剥がす。
重みを失ったアルアスルの尻尾と耳は分かりやすく下に垂れた。

「いやいや…今回ばかりは私どもは何もしていませんし、むしろなかなか捌けなかったクエストを終わらせていただき助かったので…報酬は全て…。と言いたいところなのですが、街の修繕費だけお心ばかりいただけたらと」

「なんや、そんなんでええなら…」

タスクの持つ袋から金貨を数枚取り出すアルアスルにたてのりは馬鹿、と一言だけ溢して鉄拳を打ち込む。
攻撃力に全振りの剣士の小突きは通常の剣士のフルスイングにも匹敵する。
間抜けな鳴き声をあげて吹っ飛んだアルアスルを尻目にたてのりは金貨の半分をきっちりとシリウスに渡した。

「ありがとうございます。代わりと言ってはなんですが…今回の件に関して本クエストの依頼主ゼーローゼ様より、直接のお礼がしたいとパーティへのお誘いを預かっております」

シリウスは懐から一通の手紙を取り出してたてのりに手渡した。
手触りの良い紙に透かしでおそらくゼーローゼの家紋であろう模様が入っている。
達筆な文字は受けた教育の質の違いを、焚き込められた香りは育った環境の良さを、押された刻印の見たこともない綺麗なインクはまさしく財力を表している。

「ほぉー、金にならん報酬もあるってわけか」

タスクがニンマリと笑う。莉音は貴族からの招待状に少し怯えながらも豪邸でのご飯に目を輝かせた。
そんなメンバーの様子を離れたところで見ていたトウカは、少しだけ微笑んで今宵のショーに備えるべく裏に戻ろうとした。

「トウカ、せっかくだから貴女も行ってきなさい」

シリウスが声をかける。
トウカは肩を震わせて足を止め振り返った。

「え…でも…」

「心配せずとも、ここのパフォーマーは皆世界に名の轟く者ばかりだよ。貴女もたまにはゆっくり羽を伸ばしてきなさい」

シリウスはトウカに近付いて頭に手を置いた。

「友達は大事にするものだよ」

優しく微笑まれ、メンバーの顔を見る。タスクと莉音が笑ってトウカのことを見ていた。
トウカの表情がパッと明るくなる。

「うん、マスター…あたし、友達できたよ!」

「え~なんやトウカちゃん、友達おらんかったんかぁ」
「俺らと同じやな」

身体中の埃や粉塵を払いながら復活したアルアスルはまたもやたてのりの鉄拳に沈んだ。
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