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2章 ドワーフ村編
第20話 異変
しおりを挟む村の奥には荘厳な雰囲気の杜があった。
山にしては高さがなく、誰かが整えたように綺麗に伸びた木々が立ち並びそこだけが異様な雰囲気を醸し出していた。
通ってきたツェントルムとドワーフ村を繋ぐ山のように薄暗くはなく木漏れ日が地面に絵を描いている。
温かい光を背に受けてもどこか肌寒く神々しく、神が住まう杜だという莉音の言葉にも説得力があった。
木々に歓迎されて道なりに進んでいくとより一層光を蓄えた泉があり、その泉に浮かぶように美しい教会が静かに佇んでいた。
「ここは随分雰囲気ちゃうな」
村の荒れ果てた様子からは想像もできないほど綺麗な空間にアルアスルがうっとりとしながら言葉を漏らす。
いつも通りの杜の様子に少しずつ落ち着きを取り戻しながら莉音は精一杯の早歩きで教会へ向かった。
「教会には神父さまがいらっしゃるはず、あの人は例え死んでも教会を離れたりはしいひんお人や…」
教会のすぐ側まで辿り着く。
駆け出したのは莉音ではなくたてのりだった。
「あ…っ」
首根っこを引かれ、後ろに放り投げられた莉音が何か言葉を発する前にたてのりは素早く背の剣を抜き振るった。
血飛沫をあげて吹き飛んだのは昨晩も見た奇妙なキメラだった。
「ギャアアアア」
おおよそモンスターとは思えない人のような叫びをあげてキメラは倒れる。
「こいつら、こんなとこにも…!莉音、下がってろ!」
タスクは大鎚を取り出してたてのりを援護に出る。
倒れた肉塊の向こうでは同じようなキメラが何体も教会を取り囲んでいた。
キメラは教会に体当たりし、引っ掻いて、中に入ろうとしている。
衝撃を与えるたびに白い火花が散って押しのけられるが、キメラたちは気にした様子もなく何度も襲撃を繰り返していた。
「神父さまのご加護…!中にいらっしゃるんや!」
白い火花を感じ取った莉音が叫ぶ。
「教会の中に随分たくさんの気配があるね。皆ここに避難してるんじゃない?」
等加が教会を見る。
たてのりは教会を襲うキメラの群れに突っ込んで手当たり次第にバタバタと薙ぎ倒した。
倒れたキメラは肉塊となっても動き、さらに奇妙な形に接着して起き上がる。
起き上がってくる肉塊をタスクとアルアスルが蹴散らした。
「こいつらほんまキリないな!」
「等加ちゃんも下がっとき!昨日みたいに狙われたらあかんしな!」
たてのりに続いてタスクとアルアスルも群れに突撃していく。
その様子を、教会の中から複数の目が見ていた。
「…誰かわからんけど化け物と戦ってくれてる人がいるで…」
「たったあんだけの人数で…!?」
教会の中に身を寄せ合い息を潜めている村人たちである。
教会の椅子や通路には大人から子供まで村中のドワーフが集い、ステンドグラスの光を浴びる中央の女神像にただ祈りを捧げている。
その中で外の異変に気が付いた数人がざわめいた。
「神父さま!神父さま!外で誰かが戦ってくれてるみたいです!」
ひとりのドワーフが人をかき分けて最前にいる背の高い男に声をかける。
女神像の足元で手を組み優しく高潔な光を放っていた男はゆっくりと目を開いた。
「……戦って?まさか逃げ遅れた村人か…?もしそうならば大変だ。実里、そちらの窓から見てみなさい」
「はい、神父さま」
神父に声をかけられたシスターはドワーフの案内に従い戦ってくれている人がいるという方を覗く。
鬼神の勢いで敵を薙ぎ倒す剣士に大鎚を振り回す見たこともないほどの大男、目で追えないほど素早い影と、その奥にいるふたり。
そこに見たことのある姿があった。
「……あれは……莉音さん…?」
シスターの呟きに村人のざわめきはさらに大きくなった。
窓の近くにいるドワーフは次々に外を見る。
「ほんまや…あの大使のお帽子…盲の聖女さまや!」
「間違いない!まさか村を助けに戻って…!?」
「神父さま!盲の聖女さまが!」
騒ぐ村人に押されて神父は窓まで歩み寄る。
そこには確かに数日前に村を発った莉音の姿があった。
暴れる3人の男を掻い潜って化け物が莉音の方へと飛びかかる。
「聖女さま!」
「莉音!くっ…主よ!」
神父は組んだ両手を目一杯握りしめた。
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