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2章 ドワーフ村編
第24話 眩しい家族
しおりを挟むタスクが工房に篭りきって村の職人たちに道具の作り方や図面を伝授している期間、一行はドワーフ村で何をするでもなくのんびりと過ごしていた。
莉音は毎日教会で等加を自慢するかのように天使だと村人に紹介し、アルアスルは鉱山を掘るのについて行って金目のものをもらおうと虎視眈々ならぬ猫視眈々と狙っている。
たてのりすらもドワーフにすっかり慣れてしまい広場で暇潰しがてら村人たちに剣を教えているところにその騒音は突然現れた。
パパーパパーパパパーと村中に響き渡る耳を劈く音にたてのりは村人を背後に庇って真剣を抜いた。
「なんだ…!?敵襲か!?」
警戒体制をとるたてのりとは対照的に村人たちは恐れる様子もない。
訝しく思っているところにアルアスルがどこからか物凄い勢いで風を身に纏い飛んでたてのりの横に着地した。
「たてのん!門の方からなんかやばいもんが来てる」
アルアスルの言葉が終わるかどうかのところで門の方から何か重たいものが地面を掻き鳴らして爆走してくる様子が見えた。
砂埃で詳細はわからないが何やら派手な音と光を撒き散らしている。
「ヨ~!!!ただいまぁ~!」
煙と光と音の中から陽気な声が聞こえた。
次の瞬間姿を現したのは派手な装飾が施された馬車のようなものだった。
馬車といっても馬はついていない。普通よりも車輪の多い荷台が自走しているような奇妙な乗り物だ。
馬が荷台を引くのではなく、人を乗せる部分がさらに荷台を引いている。
中には小さな男女が乗っていた。
「翠蓮さん!釘さん!」
たてのりの後ろに庇われていた村人たちが歓声をあげて奇妙な馬車に向かって駆けていく。
「えっ…」
馬車から降りてきたのは美しいドワーフの男女だった。
ぱっちりとした大きな瞳に髪をゆるく巻いた可愛い女性と、筋肉隆々で彫りの深い顔の整った二人組である。
「無事やったんやなぁ!」
「心配したんやで!こっちは大変なことになっててさぁ!」
村人たちは2人を取り囲んで嬉しそうに話しかける。
「なに?なにがあったんや?」
その様子からたてのりは剣をしまってため息をついた。
どうも村人の一員のようだ。
「…あれ、外交役ちゃうか?めちゃくちゃ一般ウケする美男美女やんか…」
アルアスルはたてのりにだけ聞こえるような声で耳打ちした。
神父に聞いた話を聞かせると納得をして興味を失ったようにそっぽを向く。
そこに騒音を聞きつけたタスクや莉音、等加が何事かと村人や聖職者を連れて走ってきた。
「なんや!?」
「なんの音や!?大丈夫か!?…ん?」
走ってくるタスクの大きな図体を見た夫婦が驚愕の表情を浮かべる。
タスクも囲まれた男女を見て言葉を失った。
「あぁ、翠蓮さん、釘さん…ご無事で…」
「父さん!母さん!」
安心しきったような神父の声を押し除けてタスクが大声をあげる。
その場にいる全員がタスクの顔を見上げた。
「匡!」
「え…もしかして…タスクのお父さんとお母さん…?」
アルアスルとたてのりは驚きの見本のような表情でタスクと夫婦を交互に見た。
確かに、タスクは違う種族が見ても端正だと分かるほど恵まれた面立ちである。
この夫婦から生まれた子だとすれば納得の遺伝子だ。
「え…!?翠蓮さんと釘さんの間のあの子…!?」
「そういや奉公に出たって…」
村人や莉音も何度も夫婦とタスクの顔を見比べる。
タスクが村を出たのはもう15年も前の幼い頃だ。ドワーフの流れる時間や記憶力はヒューマンとさして変わらない。
翠蓮と釘の子が街へ奉公に出たと知っている人も、特別に覚えていて今のタスクを見て一致できるはずがなかった。
「匡…!大きぃなって…!」
夫婦はタスクに駆け寄って腰に抱きつく。
「父さん、母さん!変わってへんなぁ!街の方へ出てたんか」
タスクは嬉しそうに2人を抱き上げた。
「今、村が大変やったって聞いたんや…助けてくれた一行ってもしかして」
「俺の仲間たちや!通り道で変な魔物がおって、心配で寄ったねん」
唖然とする一行や村人を置いてけぼりで15年ぶりに再開した親子は話を進めた。
一行は村の中でも比較的豪華で綺麗な翠蓮と釘の家に招かれて座らされていた。
長身のタスクとアルアスルはドアよりも背丈があるため少し窮屈そうにしている。
お茶請けに並べられた石のようなものをタスクと莉音以外は手を出せずにただお茶だけを啜っていた。
「匡のお仲間だなんて…素敵だわ。いつもありがとうね」
「い、いえ…こちらこそ…」
訛りのない綺麗な言葉で話す翠蓮はさすが外交役といったところだ。
棚にはドワーフ村ではあまり見かけないような装飾品などが飾られている。
「鉱石を売りに行っててな…全然知らへんかったわ。キメラのようなものね…」
釘は石を齧りながら物思いに耽った。
「街でそういった話は聞いたか?」
「…あ、そういえば…」
話を振られた翠蓮はお茶のおかわりを淹れる手を止めて緩慢に一行の方を振り返る。
ヒューマンの幼子ほどの背でされる優雅な振る舞いは不調和な色気があった。
「鉱石をお求めになった猫人の…タマ様が、サマクの治安が最近さらに悪いようなことをぼやいていらっしゃったような」
「タマ?名前からしてサマクの宝石商やろな…」
アルアスルが名前に反応して尻尾を左右に振る。
隣に座っていたたてのりは邪魔そうにそれを捕まえて自分の太ももの下に敷いて押さえつけた。
そのさらに隣に座っていた等加が太ももからはみ出た尻尾の毛を触る。
「サマクの治安が悪いのは元からやけどな…もしかしたらキメラの影響もあるんかもしれん」
「もしかしたら討伐クエストとかも出てるかもしれへんな!どうせエルフ島に行くのに通るんやし、早よ行って受注して狩り尽くして金稼ごや」
ドワーフ村では結構な期間を過ごしてしまった。
特に目的や駆られる時間がないために旅はゆっくりとなってしまう。
数日過ごしても新たなキメラは発生せず、村は平和に戻っていた。
「タスクはもうええんか?」
「ああ、農具も武器も、図面から作り方までバッチリや!次襲われてもなんとかなるで」
タスクは収納空間から図面を取り出して全員に見せる。
見たところで一行は誰もわかりはしないが、釘は綻んだように笑った。
「これは匡が?…立派になったな」
「もちろん!父さんの子やからな」
眩しいまでの優しく理想な家族を一行は目を細めて見つめる。
気まずそうなたてのりが立ち上がったところで、全員は出立の意思が固まった。
タスクは皆の顔を見て、両親を見下ろすと笑顔で手を取る。
「ほな、俺らもう行くわ。次来るときは世界中の土産話持ってくるからな」
「気をつけて行くのよ」
「皆さんと仲良くな。これ持っていきなさい」
優しい声と少量の金貨や食料に送られて一行はタスクの実家を後にする。
「そういえば、食料とかを貰いに来たんやったな…この村に…」
釘に物品を渡されたことで当初の目的を思い出したアルアスルは焦ったように呟いた。
門の方に勇ましく向かっていた足取りは急に重たくなる。
「…教会に戻るかい?」
「あー…どう…どうするか…」
等加の提案にたてのりとアルアスルは莉音の方を見る。
復興したての村に食料や金品を要求するのは気が引けるというのが正直なところだ。
タスクが釘から受け取った食料の中身を確認して全員は悩ましげに眉間に皺を寄せる。
「ほんまにギリギリやな…」
「いやギリギリ無理やろな…」
悩みながら広場まで出たところには村人と聖職者たちが集まっていた。
「あれ?皆…」
莉音が声をかけると村人は次々に麻の袋に入ったものを差し出した。
「もしかしてもう出るんか!?世話になったなぁ」
「これ持ってってえや!」
「神父様から他種族が食べられるもんちゃんと聞いて詰めたあるさかい大丈夫やで!」
たてのりが押し付けられた麻袋の中身を確認すると、野菜や非常食になりそうな干物がそれぞれ少しずつ入っていた。
貧しい村人が持ち寄ってくれたものだ。
「皆さん…」
「これもおもちなさい」
大衆の後ろからトレーを両手で持った神父が歩み出てくる。
トレーの上には5つの装飾品が乗っていた。
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