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4章 ファオクク島
第53話 王の御前
しおりを挟む等加の謁見により宴はその日の夕刻からに決定した。
ドワーフの莉音とタスク、機械族のセバスチャンは宴の間に入れてもらうことはできなかったが、扉の前での待機を許された。また、たてのりだけでなく、旅する猫人族など見たことがないと王が見たがったためアルアスルも等加の奴隷として宴の席に列することを許可された。
そのことを伝えたたてのりは非常に渋い顔をしてしばらく唸っていたが観念して等加に付き従った。
「なんかすごいええ匂いするなぁ」
「こら、莉音、首飛んでもおかしくないんやぞ。大人しくしてろ」
宴が開催される大広間はドワーフ村の教会など何個でもすっぽり入ってしまうほど大きな空中庭園だった。
暖かな日が燦然と注ぐ先には色とりどりの魚や人魚が泳ぐ池があり、池には豪奢な造りの橋と船が浮かべてある。水は客席の間を流れ、一際大きな玉座とその前にあるステージを囲って煌めいている。外から見ればぽっかりと浮かんだ島と、そこからこぼれ落ちる川のようにも見えるだろう。
生い茂る木々はたくさんの蔦を絡めたまま天高く伸びており、天空の木と木の間には透明な結界が張り巡らされているようで度々虹色に撓んでいた。
給仕のためのエルフたちは透けたストールを身に纏い木々や池の間をふわりふわりと身軽にすり抜けている。
天国だと言われて想像するのはこんな場所だろう。
木で編まれたゲートの前からこっそりと覗き込む三人の目線にはギリギリ等加一行が映っている。
端の方にフード付きのポンチョを目深に被った等加、その後ろに不審者装いのたてのりとご機嫌なアルアスルがいた。
「あぁ…王様!」
「ごきげんよう王様」
「ごきげんよう王様」
空間と料理に目を奪われていると不意に参加者たちが立ち上がり、晴れやかな挨拶と共に深い礼をした。等加とたてのりまで恭しく礼をするのに倣ってアルアスルも慌てて頭を下げる。身分制度のない猫人族にはない文化だ。
挨拶に歓迎され、玉座の向こうからたくさんの人を引き連れた一人の男がやってくる。
朝露に濡れた雲の糸で編み込んだようなたっぷりと煌めく純白の絹を肩から掛けて纏い、金の装飾で腰を止めたその装いは緩くも見えるが洗練されていて美しい。頭には重厚感と歴史を感じる木で真珠と宝石を編み込んだ豪奢な王冠を乗せていた。
透き通るように白い肌に大きく尖った耳、頭で編み込まれた腰まで届く緩やかな薄金の髪、そして気怠げな瞳は青みのかかった緑をしている。
女にも見える気品はその体格と相殺され、優しげな男の風貌を醸し出していた。
誰が見ても一目でわかる。エルフの王だ。
王は中央の玉座まで行くと腰を下ろし、来賓を一瞥する。後ろからぞろぞろとついてきていた男たちはステージを挟んで王の左右に分かれて座った。
向かって左には王族の色を表す緑の衣を纏った男たちが、向かって右には海を表す青の衣を纏った男たちが集まっている。
「…なんや?あいつら…全員王さまの奴隷か?」
礼をしたまま囁くアルアスルにたてのりは肘鉄をする。
「そんなわけないだろ…緑の方が常盤院、王の血筋を重んじる派閥だ。青の方が群青院、ファオクク島を何百年にも渡って守ってきた領主たちの派閥…どちらもエルフ島の政権を握る者たちだ」
「ほおー?」
こそこそと話しているうちに王は玉座で手を振って来賓を座らせた。
「みな、急に集まってもらってすまないな。実は西大陸ツェントルム随一の踊り子、トウカが来てくれたのだ」
「トウカ…!?」
「あのトウカ…!?」
王の言葉に会場がざわめく。踊り子トウカが公に酒場から出てくるのは今となってはほとんどあり得ない。
ファオクク島から滅多に出ることがないエルフたちの、特に上層部は歓喜の声をあげて沸き上がった。
「トウカちゃん、呼ばれてるで」
「うん。行ってくるね」
等加はフードを外してポンチョをアルアスルに渡すとステージへと躍り出た。
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