【完結】シルビア・アノンは悔恨の念を抱く。この結婚は失敗だったと…

MEIKO

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番外編

俺の宝物(アレックスSide)

 ある日俺の元に、天使が舞い降りた──

 大事にしていた妹のラウラが、謂れない罪によって命を落とすことになり、それからずっと俺の気持ちは荒んでいた。
 本当の兄弟のように仲良くしていたスチュワート殿下や、俺に対して向こうからすり寄って来ていた者達全てが、蜘蛛の子を散らすように居なくなった…
 
 そんな現実を目の当たりにして、心がすっかりと折れてしまった俺。おまけにラウラを最期まで看病していた母も、心労が祟りあっという間に亡くなってしまう…

 そんな厳しい中だが、俺や父、そして変わらぬ態度で接してくれた者達の助けで、ラウラの忘れ形見であるエリックを育ててきた。王都では未だに囁かれている我が家門の醜聞も、辺境の地までは聞こえては来ず、すくすくと育つエリック。

 だけどそんなある日、エリックが母が生まれ育った土地を見たいという。それには心配が先に立ったが、いつまでもそれに逃げている訳にもいかずに…
 それで重い腰を上げ、嫌な思い出の地になってしまった王都へと居を移した。だけど当初は、ほんの少し滞在してそれからまた辺境へと帰ろうと思っていた。エリックは大喜びで、近くのホテルにスーザンと泊まりに行ったり、孤児院の子供達と交流したりしている。そんな楽しそうなエリックを見ていると、それだけでもここに来た意味はあったのだと、気持ちが塞ぐ自分を慰めていた。だけど…

 一方で、このままこの地に居ていいのか?という気持ちになる。そうすることで、ラウラを陥れた奴らの罪を許していることになってやしないかと…
 そんな非情な奴らに見切りをつけ、王都には二度と戻らないと決めていた。なのに?と自問自答する日々…

 そんなある日、ムシャクシャする気を鎮めようと散歩をしていた。そんな俺の目に飛び込んできたのは、川べりに横たわる女性!
 最初は死んでいるのかと思った…そして慌てて側に駆け寄ると、唇の色は真っ白だったが、頬には若干赤みがあるのが確認出来た。それで無事なんだと分かって…

 服が濡れるのも構わずに、屋敷に連れ帰った俺。よくよく考えれば、知らない人を屋敷に入れるなど、エリックのことを考えても危ない行動だったのかも知れない。それなのに何故か、それ以外の選択肢を考えもしなかった!そして医者を直ぐに呼んだが、見ただけでも所々酷い怪我をしているのが分かる。
 それで本当に助かるものかと気を揉んで…だけどそれからみるみる顔色が良くなっていくのを感じていた。やがてその女性が目を覚ますと…息ができなくなるくらいの衝撃!

 自身の幸せなど、とっくに捨てていた…この先はエリックの成長だけを楽しみに生きようと。それなのに…一人の女性との出逢いによって、こんなにその気持ちが揺らぐのだと初めて知った。それからは、この世の春のような毎日が訪れる。
 
 そして同時に不安にも苛まれた…いつかこの人が、俺達の元を去って行きはしないのかと。
 やがてそれが現実のものになって、俺は思い知る。シルビアは結局、俺には過ぎた人なんだと…
 
 あれ程綺麗で、おまけにとっても心優しい女性。まさに光のような人を、俺だけのものになど出来ないのだろうか?
 だけどそんな人にも、ラウラの時と同じように世間からの厳しい視線が刺さり始めて…
 だけどそんなの俺にはどうでも良かった!悪く言いたい奴には言わせておけばいいと。ただ、シルビアが悪く言われるのだけは耐えられない!なのに…

 あの日そんな天使が、俺から去って行こうとしている…それには愕然とする。
 それが俺や辺境伯家の者達を守ろうとしての行動なんだと分かってはいた。だけど心は苦しくて仕方ない!
 そして俺にとって決して忘れることの出来ない思い出をくれたのを最後に、去って行ってしまって…

 もう、どうでもいいと思っていた。辺境伯家など、傍系の者にくれてやると…だが、シルビアが去ったことで皮肉にもどんどん悪い噂は下火になってゆく。
 何も知らないくせに!と大きな声で叫びたい衝動。だけどシルビアの気持ちを考えると、黙っている他はなくて…

 それから再び地獄を味わって、鬱蒼とした毎日を送っていた。なのにあの日、突然目の前に現れたシルビア…本物か?

 『ただいま!アレックス。また私を側に置いてくれる?私、シルビア・ノートンになったんだけど…』

 そんなふうにあっけらかんと、聞いてくるシルビア。おまけに…ただいま?そう当たり前かのように言っている。まるで自分の家に帰ってきたかのようじゃないか?それには本当に嬉しくなって…

 それからは以前のような穏やかな日々が戻る。もう誰からも邪魔されず、批判も受けない!そんな幸せな日常が訪れる。

 そして、運命というものが、俺に向かって微笑んでいる気がした。何とシルビアが妊娠…もう夢じゃないかと思う。
 その後は心にも身体にもストレスをかけないように細心の注意を払って、大事に…大事に育む。二人の愛の結晶を…

 ──そして、今…

 「…オ、オギャー!」

 俺はラウラのことを思い出し、その日は居ても立ってもいられないほど心配していた。だけどそんな元気な声が、辺境伯家の屋敷に響き渡る!
 緊張しながらお産を終えたシルビアの元に向かうと…相当に疲れた様子だが、明るく笑う姿が。そしてその傍らには…可愛い女の子。

 「本当にありがとう。俺にこんなに幸せをくれて!抱えきれないほどの幸福を与えてくれて…」

 思わずそう言うと、シルビアの頬には一筋の涙が光る。そして…

 「あなたの娘のララよ!これから皆の愛情をたっぷり受けて、元気で幸せに過ごすの!ねっ?」
 
 それに俺は泣いた。そんなシルビアの気持ちが嬉し過ぎて…
 
 ──ララ…俺達の元に、娘として戻ってきてくれたんだね?

 そんな俺の、宝物がまた増えた。そしてもう二度と失わないように精一杯守ろう。大事な人達全てを、命に替えても守り抜く!そう決意を新たにしたんだ…
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