【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

第三章・予期せぬ計略

28・かつての秘密

　──もう、あれから一週間だって？
　ということは、辺境の地を出立してからそろそろ二週間近く経とうとしている。
　あの宿屋で翌日にはマクスと合流予定で、それから一緒に王都に行くつもりでいた。なのに┉

　マクシミリアンは、ずっと私とオスカーを探しているだろう。
　たとえ、ここから出られないとしても私だけでも無事だという事を伝えられたらいいのに┉。

　「さあ、シルバ様！お食事のご用意が出来ましたよ？久しぶりの食事ですので、少しづつ召し上がって下さいませ。体調を回復させるように、栄養のある物を柔らかく作らせました。」

　──作らせたということは、この人の他にも使用人が居るということだ┉。
　目の前のこのマッケランという人は、非常に抜け目がない人物だ。
　だけどこの人だって、ずっと私を見張っているのは不可能だ。きっと違う見張りの者になる時がくるだろうし┉その機会を待とう。

　「はい、ありがとうマッケラン。いただくとしようか。」

　まずは温かいスープを一匙すくい口の中に流し込む。
　すると空っぽだった胃に、じわりじわりと吸収されていくのが分かる。

　──取り敢えず力を付けなくては┉腹の子の為にも。

　私は用意された食事を全て平らげて、身体に栄養を染み渡らせる。
　腹が満たされたことで、頭の中の霧のようなものが晴れてきた私は、無理のない程度で情報を集めてみようと思う。

　「一つ伺いたいのだが、このスサの離宮は幽閉された王妃様が居たところなのか？その後、自死されたという┉」

　マッケランは決して笑みを絶やさず、冷静にその問いに答えを返す。

　「いいえ！そちらは┉もっと遠い所にございます。このような立派な建物でもありませんし、設備も整ってはいません。まあ、牢獄のような所ですね。」

　──私は衝撃を受けた。確かに密輸は重い罪だ。本来は国が利益を得るべきものを、個人でそれを得て私腹を肥やしていたなら、赦さるべきものではない。だが、それは王妃がやった事ではないだろう？なのに┉。
　元侯爵家の令嬢で、女性としては国で一番上の位にまで上り詰めた方をそこまで追い詰める必要があったのだろうか┉。

　「シルバ様は本当にお美しい方ですね。容姿だけでなく、お心もこれ程美しいとは┉。元王妃がそのような目に合うのは、自分の冒した罪故なのですよ？ようは、何も知らない令嬢ではなかったと言う事です。そして元々王妃の器でもない方です。」

　──ハッ！なぜ私の考えている事が分かったのだ？
　それほど顔に出ていただろうか┉本当に油断ならない！

　それにしても┉王妃は確かに私のような末端に居る者へも嫌味をおっしゃる方だった。
　私だって、心が傷付いたのは一度や二度じゃない！何故か目の敵にされ数々の嫌がらせを受けたが┉。
　それを、国の母である王妃としての自覚は足りないと言われればそうだろう。

　「ですが王の御子様の御母上ですし、もう少し減刑されても。せめて、自死しないようには┉」

　その私の言葉にマッケランはなぜだか笑みを深めて、それから本当に可笑しそうに笑った。

　「フフッ┉これは失礼致しました。ですが、シルバ様はここまでご存知ないのかと思ってしまいまして┉。シルバ様は、この大帝国に嫁いでこられてすぐ、大きく体調を崩されましたね？それこそ一月以上苦しまれたと聞いておりますが。その原因が王妃にあるとしたら、どう思われます？今言われたように、減刑などを考える事が出来ますか？正直に申し上げますと、死ぬところだったのはシルバ様なのです。」

　──な、なにを┉私が、王妃のせいで死ぬ┉ところだったと？