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第三章・新しい生活
15・ロウレン家の秘密
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伯母様が何故、私に連絡を取ろうとしているのかしら。私がノートン家を出たことを知ったから?そうだったとしても理由が思いつかない。そして死に戻る前…私がエズラと結婚した時でさえ、結婚式への出席も祝いの手紙さえもなかったじゃない!なのに…どうして今?
「スチワート、どういうことか全く分からないけど、それでもこのままにして良いとは思えないの。どうにかしてその理由を知れたら…」
何度その理由を考えてみても、皆目見当もつかない。こうやって家門を出た後の私と、今更会いたいと思うなんて…伯母様にとって何の得もないこと。それなのに会う必要なんてある?
「うーん、ないことはないんだが、フレデリカが危険になるようなことは避けたい。だからさ、俺が行って探ってこようか?ちょうど仕事も終えたことだし」
「ええっ!スチワートが?」
そんなスチワートは特に気負った様子もなく、淡々としている。こうやって秘密裏に動くことって、今までもあったのかしら?
前の生の時は義兄妹だった私達…なのにスチワートのことは殆ど知らない。ただ、今は私にとって陽だまりのような存在だってことだけ…
怖くて聞けないけど、この人にも秘密があるのかしら。
「俺、実は辺境伯領には行ったことがあるんだ。ずっと以前だけど依頼があってね。かなり遠い所だから、一度には飛べないと思う。何度か繰り返せば恐らくきっと…」
「危ないことはやめて!それによって、スチワートが危ない目に遭うんじゃないの?そんなの絶対に嫌よ」
私がそう訴えると、スチワートの瞳がまるで海のように煌めく。あれ、注意してるんだけど?
「フッ…心配してくれる誰かがいるって、何かいいもんだよね?今まで俺にはそんな人なんていなかったからさ」
私はそう語るスチワートの顔をじっと見ていた。この人はやはり、私と同じなんだと。孤独…そんな耐え難い状況にずっと置かれていたに違いない。だけど待って!スチワートには、心配してくれる存在のエズラがいたはずよね?
あの初顔合わせの時、私達の前に現れたエズラは本気でスチワートを心配しているように見えた。私になどは決して見せなかったような態度で…
そんな私の疑問に自ら気付いたらしいスチワートは、私をじっと見ながら淋しそうに笑う。その意味って…何?
「君の家に初めて行った時、帰りに兄さんが言ったんだ。久しぶりに二人で馬に乗ろうかって。そして大昔の子供の頃、一緒に乗った時は楽しかったって…」
馬?あの時エズラは、馬に乗ってきていたんだ!私達のお見合いのことを聞いて、慌ててやって来たのね。そしてそんな二人の思い出がどうしたのかしら?微笑ましい兄弟のように感じるけど…
「俺はね、父が外にこさえた子供なんだ…私生児ってやつさ。今はそんなことで差別される時代じゃなくなったけど、昔はかなり酷かった。そして五歳の時、ロウレン家に迎えいれられたばかりの俺は、母親から捨てられたって毎日泣いてばかりいた。だけどそれは俺の誤解で、有無も言わせず母の元から連れ去られたんだ。母が嘆き悲しんだことも知らずに恨んでた…」
言葉もなかった…こんなに明るいスチワートが、そんな目に遭っていたなんて。だけど酷い…連れ去るなんて!それじゃあスチワートはお母様をずっと恨んでいて、会おうとしなかったってこと?ああ、子供に何て非情なことをするのかしら。それに跡継ぎのエズラがいるのに、そこまでしてスチワートを家門に入れる意味が分からないけど…
「辛い目に遭ったのね…私が想像出来ないくらいに。そしてその誤解が解けたなら、その後お母様には会えた?さぞかし心配なさっていたでしょう」
そんな私の問いに、スチワートは哀しい顔をして首を振る。思い出すように…噛み締めるように。
「いいや。それを知った後駆け付けると、もう病気で亡くなっていたんだ。一人で…たった一人で死んでいた。息子の俺にも、かつて愛した相手にも看取られずに、一人で死んでしまったよ」
それを聞いて…ブワッと涙が溢れる。まるで自分のことのように!スチワートのお母様は、どんなに絶望したでしょう。辛く悲しい病床でどれだけ愛する息子を呼んだのかしら?それでもその声に応えてくれる人なんていない。ああ…
──私と同じだわ。一人で死ぬなんて、どれだけ哀しくどれだけ絶望したのだろう?どしてもあの時を思い出してしまって苦しい!
私自身のそんな経験を何も知らないスチワートは、泣いて震える私の肩を抱き寄せる。それから慰めるように背中を優しく撫でる。何度も…何度も撫でて、気持ちを落ち着かせようとしてくれる。
「ごめんなさい、あなたが一番辛いのに。まるで自分のことのように感じてしまって…」
「いいや…嬉しいよ。フレデリカが本当に俺のことを大事に思ってくれている証拠さ」
そしてスチワートはぶっきらぼうに、服の袖をちょっとだけ伸ばして、私の涙を拭いてくれる。ええっ、そんなもので?と驚いて、出ていた涙も止まってしまった。それから泣き笑いする私達。
「だけどそれって、エズラ…いえ、あなたのお兄様が教えてくれたの?その真相を」
連れ去りの件を誰かが教えてくれなければ、真相に辿り着くのは難しいと思う。スチワートが小さな頃の話だし、秘匿扱いだった筈…それこそ家族以外の人が知る可能性は少ないと思う。だからそうかと聞いてみると…えっ?
「兄さんか…そうだな、その件を教えてくれたのは兄さんだ。偶然知ってしまってから、良心の呵責に耐えきれなかったようだよ。だけど…ハハッ。あの人の本当の罪は…」
エズラの本当の罪?それは一体なんなの!するとそんな時…
「直ちにここを開けてください!」
玄関扉の向こうからそんな怒号が聞こえる。それにハッと顔を見合わせる私達が!
スチワートが慌ててドアを開け、するとそこには研究所を守る警備隊の者が立っていた。あっと驚いていると…
「この部屋から爆発を感知しました!何があったのかを説明下さい」
「わわっ!通信器の鳥が壊れたんだよ…実験に失敗したとかでは断じてない」
あの鳥?通信器の。そうだったわ…煙が出ていたから。それを警備の人達は感知したってこと?
唖然としている私を残して、スチワートは説明を求められ連行されて行く。その背中を見送りながら申し訳ない気持ちに。
「伯母様からメッセージが来なければ…ごめんなさい!」
早く釈放されるといいんだけど…責任を感じてしまう。だけど私はそれよりも、さっきのスチワートの言葉を気にしていた。エズラの…罪って?
「スチワート、どういうことか全く分からないけど、それでもこのままにして良いとは思えないの。どうにかしてその理由を知れたら…」
何度その理由を考えてみても、皆目見当もつかない。こうやって家門を出た後の私と、今更会いたいと思うなんて…伯母様にとって何の得もないこと。それなのに会う必要なんてある?
「うーん、ないことはないんだが、フレデリカが危険になるようなことは避けたい。だからさ、俺が行って探ってこようか?ちょうど仕事も終えたことだし」
「ええっ!スチワートが?」
そんなスチワートは特に気負った様子もなく、淡々としている。こうやって秘密裏に動くことって、今までもあったのかしら?
前の生の時は義兄妹だった私達…なのにスチワートのことは殆ど知らない。ただ、今は私にとって陽だまりのような存在だってことだけ…
怖くて聞けないけど、この人にも秘密があるのかしら。
「俺、実は辺境伯領には行ったことがあるんだ。ずっと以前だけど依頼があってね。かなり遠い所だから、一度には飛べないと思う。何度か繰り返せば恐らくきっと…」
「危ないことはやめて!それによって、スチワートが危ない目に遭うんじゃないの?そんなの絶対に嫌よ」
私がそう訴えると、スチワートの瞳がまるで海のように煌めく。あれ、注意してるんだけど?
「フッ…心配してくれる誰かがいるって、何かいいもんだよね?今まで俺にはそんな人なんていなかったからさ」
私はそう語るスチワートの顔をじっと見ていた。この人はやはり、私と同じなんだと。孤独…そんな耐え難い状況にずっと置かれていたに違いない。だけど待って!スチワートには、心配してくれる存在のエズラがいたはずよね?
あの初顔合わせの時、私達の前に現れたエズラは本気でスチワートを心配しているように見えた。私になどは決して見せなかったような態度で…
そんな私の疑問に自ら気付いたらしいスチワートは、私をじっと見ながら淋しそうに笑う。その意味って…何?
「君の家に初めて行った時、帰りに兄さんが言ったんだ。久しぶりに二人で馬に乗ろうかって。そして大昔の子供の頃、一緒に乗った時は楽しかったって…」
馬?あの時エズラは、馬に乗ってきていたんだ!私達のお見合いのことを聞いて、慌ててやって来たのね。そしてそんな二人の思い出がどうしたのかしら?微笑ましい兄弟のように感じるけど…
「俺はね、父が外にこさえた子供なんだ…私生児ってやつさ。今はそんなことで差別される時代じゃなくなったけど、昔はかなり酷かった。そして五歳の時、ロウレン家に迎えいれられたばかりの俺は、母親から捨てられたって毎日泣いてばかりいた。だけどそれは俺の誤解で、有無も言わせず母の元から連れ去られたんだ。母が嘆き悲しんだことも知らずに恨んでた…」
言葉もなかった…こんなに明るいスチワートが、そんな目に遭っていたなんて。だけど酷い…連れ去るなんて!それじゃあスチワートはお母様をずっと恨んでいて、会おうとしなかったってこと?ああ、子供に何て非情なことをするのかしら。それに跡継ぎのエズラがいるのに、そこまでしてスチワートを家門に入れる意味が分からないけど…
「辛い目に遭ったのね…私が想像出来ないくらいに。そしてその誤解が解けたなら、その後お母様には会えた?さぞかし心配なさっていたでしょう」
そんな私の問いに、スチワートは哀しい顔をして首を振る。思い出すように…噛み締めるように。
「いいや。それを知った後駆け付けると、もう病気で亡くなっていたんだ。一人で…たった一人で死んでいた。息子の俺にも、かつて愛した相手にも看取られずに、一人で死んでしまったよ」
それを聞いて…ブワッと涙が溢れる。まるで自分のことのように!スチワートのお母様は、どんなに絶望したでしょう。辛く悲しい病床でどれだけ愛する息子を呼んだのかしら?それでもその声に応えてくれる人なんていない。ああ…
──私と同じだわ。一人で死ぬなんて、どれだけ哀しくどれだけ絶望したのだろう?どしてもあの時を思い出してしまって苦しい!
私自身のそんな経験を何も知らないスチワートは、泣いて震える私の肩を抱き寄せる。それから慰めるように背中を優しく撫でる。何度も…何度も撫でて、気持ちを落ち着かせようとしてくれる。
「ごめんなさい、あなたが一番辛いのに。まるで自分のことのように感じてしまって…」
「いいや…嬉しいよ。フレデリカが本当に俺のことを大事に思ってくれている証拠さ」
そしてスチワートはぶっきらぼうに、服の袖をちょっとだけ伸ばして、私の涙を拭いてくれる。ええっ、そんなもので?と驚いて、出ていた涙も止まってしまった。それから泣き笑いする私達。
「だけどそれって、エズラ…いえ、あなたのお兄様が教えてくれたの?その真相を」
連れ去りの件を誰かが教えてくれなければ、真相に辿り着くのは難しいと思う。スチワートが小さな頃の話だし、秘匿扱いだった筈…それこそ家族以外の人が知る可能性は少ないと思う。だからそうかと聞いてみると…えっ?
「兄さんか…そうだな、その件を教えてくれたのは兄さんだ。偶然知ってしまってから、良心の呵責に耐えきれなかったようだよ。だけど…ハハッ。あの人の本当の罪は…」
エズラの本当の罪?それは一体なんなの!するとそんな時…
「直ちにここを開けてください!」
玄関扉の向こうからそんな怒号が聞こえる。それにハッと顔を見合わせる私達が!
スチワートが慌ててドアを開け、するとそこには研究所を守る警備隊の者が立っていた。あっと驚いていると…
「この部屋から爆発を感知しました!何があったのかを説明下さい」
「わわっ!通信器の鳥が壊れたんだよ…実験に失敗したとかでは断じてない」
あの鳥?通信器の。そうだったわ…煙が出ていたから。それを警備の人達は感知したってこと?
唖然としている私を残して、スチワートは説明を求められ連行されて行く。その背中を見送りながら申し訳ない気持ちに。
「伯母様からメッセージが来なければ…ごめんなさい!」
早く釈放されるといいんだけど…責任を感じてしまう。だけど私はそれよりも、さっきのスチワートの言葉を気にしていた。エズラの…罪って?
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