【完結】私が一人で死んだ夜。だからあなたを、捨てることにしますね?

MEIKO

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最終章・私を呼ぶ声

45・別れの時

 私は一体、どうしたいのでしょうか。スチワートに恋していると自覚したけど、結局は偽りの末の関係だった。
 それに一番は……何の約束もしていないこと。自分の心は分かっていたけど、だからってエズラがどう思っているのかさえ知らない。私を見守る為に近付いた……そう言ったあなたは、今何を考えているの?それすらも分からないなんて!

 「俺の中にはまだ、兄さんを許せない気持ちがある……だからあの日、研究所を尋ねて、こんな茶番を早く終わらせるべきだと伝えたんだ。その中には当然、君達が関わるのはお互いの為にならないとも言った。だけどフレデリカの前では、エズラを演じるしかなかったことをお詫びする!これ以上混乱させたくなかったし、兄さんがどういうつもりでいるのかも分からなかったから」

 死に戻った三人の中で、一番混乱したのがスチワートなんだと思う。エズラは自ら選んだけど、スチワートは元とは立場が違い過ぎているもの。それがまるっきり反対になっているなんて、恐怖でしかなかったでしょうね。

 「それは大丈夫。あなたも本当に大変だったでしょうし。だけど私のことなんかよりも、二人はこれからどうするつもりなの?そのまま偽りの人生を続けるつもりじゃないでしょうね」

 それにスチワートは、途端に難しい顔をしている。予想はつくけど、相当厳しい処分があるかも知れないわ……

 「そうだね……厳しい沙汰があるだろう。だけどね、俺はそれでもいいと思っているんだ。腐ったロウレン侯爵家なんて潰れても仕方がないって思ってる。あの父のような取り憑かれた人間が生まれるのは、あの家門が存続する限り続くだろう。もう解放されていいんじゃないかな?俺も兄さんも」

 兄さんも……という言葉に、やっぱり憎み切れない気持ちが表れている。スチワートは結局、口では厳しいことを言っても、エズラを切り捨てることなんて出来ないのでしょうね。恨む気持ち以上に、兄に対しての愛情を持っている。特殊な環境で育った、二人ならではの感情なんだわ。

 「そうね、その方がいいと思う。死ぬまで偽り続けるのは辛いに違いないわ。だけど……不思議なのは今まで、それがバレなかったことよね?確かに二人は似てるけれど」

 前ロウレン侯爵……いくら子供のことを、自分の欲求の身代わりにしていた人だとしても、二人を見間違えることなんてなさそうに思う。他人はいくらでも騙せても、家族はそうはいかないものだから。

 「丁度あの時、兄さんは寄宿舎のある騎士学園に通うことになっていた。一方俺は研究所に……だからその行き先を交換したって訳。体格なんて個人差があるし、二人共に仲良くしていた友人がいた訳でもない……だから案外、入れ替わりは楽勝だったよ。そして在学中にあの人達は事故で死んじゃったしね」

 なるほどね……全ての謎は解けたわ。死に戻った先は十歳……だからこそ出来たことなのね。そしてそのことでエズラはきっと、それを実行するべく戻ったのだと感じたんだわ。

 「話してくれてありがとう……スチワート。おかげで事情がよく分かったわ」

 「それなら良かったよ。それと提案なんだけど……今夜はここに泊まったらどうかな?君が亡くなったあの部屋は、今は客間になっているんだ。なんとなくさ、あの部屋は使えなくて……」

 ──あ、あの部屋を?

 今のロウレン邸では、影も形もないのは分かってる……だけど私にとっては特別な想いがある部屋。ほんの少し躊躇するけど、今日はとてもじゃないけど研究所には帰れないから。

 「ええ、お世話になります。エズラとは明日、しっかりと話すことにするわ。だから今夜は……是非お願いします」

 きっとこの先、もう二度とここに来ることはない……そう感じる。だからこそスチワートは、こう言ってくれているのだと思う。恐らくだけどもう、この屋敷を手放す決心をしているのかも。
 私や二人にとっても、あまり良い思い出のないこの屋敷。そして本来なら未来に起こったこと……だから本当にあったことだとは言えないのは分かってる!だけど、あの子の唯一の痕跡のある場所……だから最後に見ておきたい。

 それから案内されて、かつての寝室だった部屋へと通される。扉を開けると当然だけど、まるで違う室内。温かみのあるシンプルな家具に、ポツンと一人掛けのソファ。客間だと言っていたけど、殆ど使われていないのが分かる。そして……

 私はベッドが置かれている場所へと歩き出す。勿論同じベッドではないけど、置かれているのはほぼ同じ所。そこにゴロンと横になった。見えるのはあの日と同じ天井……これだけは同一だと言える。それから私は、そっと目を閉じる。

 「赤ちゃん……あなたを産んであげられなかった母を赦して。そしてもう、二度とここに来ることはないでしょう。これでお別れです……私は前を向いて生きていきます。だから見守ってね?」

 そう呟いた私の頬からポロリと涙が零れ落ちる。それから止め処無く流れ続けて、切なさで枕を濡らした。
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