【完結】お別れするあなたに一言だけ。あなたの恋は、叶うことはないのだと…

MEIKO

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番外編

番外編1・追憶②

 
 もうこのまま登ったらあの世に着くのではないかと、あり得ないことを思い始めていたアルフォンソ。だが、突然その終わりはやって来た。ちょうど半分くらい階段を登ったところで、元侯爵はピタッと止まる。そしてその足元を見るとガクガク震えていて、相当に脚に負担になっているのが分かる。それでもずっと先まで階段が続いているのを見上げるアルフォンソは、一番上に収監されている者はどれだけ凶悪な事件を起こしたのだろうと思う。そして最近は忙しくてめっきり運動することもなくなった皇帝陛下。どんなに辛そうにされているのかと思えば息一つ切れてはおらず、涼しい顔で立っている。それを驚きの目で見たアルフォンソは、やはり食えないお方だと苦笑いする。それから元侯爵は腰にぶら下げていた鍵束の中から、一際光っている鍵を取り出し、目の前の扉の鍵穴に差し込んでいる。それを見て、度々この部屋に訪れているからなのかと理解する二人。するとガチャリという金属音が塔全体に響き渡って…

 「どうぞお入り下さいませ」

 ギギギと腹に重く響くような扉が開く音。すると中からは独特な錆びたような空気が流れて来るのに顔を顰める二人。中はほんの少し火の気を感じられるだけで底冷えし、ゾクリと寒さを感じる。すると…目の前の光景にハッと息を呑む!

 逃げ出せないように鉄格子の嵌った細長い窓。どんなに痩せている人でも通り抜けるのは不可能だろうその窓を、ジッと見つめたまま身動き一つしない女が!
 その女は灰色の粗末な衣服を着て、髪はパサパサでザンバラに伸びている。かつて帝国一の美人と謳われていた三年前までとは似ても似つかぬその姿…

 「カ、カレンかい?」

 今では殆ど動揺することも少ない皇帝のそんな焦った声が、その異常さを物語っている。皇帝の一番側にいるアルフォンソには少なくともそう見えた。凄く動揺していると…

 その声に振り向くカレンは、生気のない紅色の瞳でこちらを見ている。自分の父親しか来ないようなこの部屋に、二人もの人が会いに来ている。それなのに何の反応もなく、本当に見えているのかと疑いたくなるような無表情。それにアルフォンソは、ほんの少し苛立ちを覚える。
 カレンに殺されたイェガー公爵ロベルトは、決して仲が良いとは言えなかった。それどころか夫人のクリスティーヌがロベルトから逃げ切れるように応援していたくらいで…
 
 だけど、決して死んで当たり前な人物ではなかった。その後クリスティーヌの妊娠を知り、心の底からノースブルグに一人で行かせたことを後悔することになった。もしも自分も一緒に行っていたとしたらと…
 それはきっと、皇帝陛下も同じなんだと確信しているアルフォンソ。なのに陛下がここまで会いに来たことをそもそも理解出来ない。こんな所に三日もかけて…

 「すみません!このとおり反応が乏しくて…」

 カレンの父親である元侯爵はそう言うと、顔を僅かに歪める。その表情には、父親としての苦悩が滲み出ているように見える。だけどそんなことは意に介せず、どんどんカレンに近付く皇帝が!そして尚も無表情なカレンの目の前に立ち、顔を合わせるようにしてしゃがみ込む。そして…

 「カレン今日私がここへ来たのはね、これを見せたかったからだ」

 そう言って皇帝が取り出したのは、アルフォンソが道中気にしていたあの小箱。それをカポッと開けると、中からは親指ほどの木の像が現れる。人型にも見えるが動物にも見える…ハッキリとした原型を留めていないそれは、古い物だということ以外は理解出来ない物。

 「何ですか、それは…人?」

 不躾だとは思うが、ずっと気になっていた為に思わずそう呟いてしまうアルフォンソ。それに皇帝はチラリと横目で睨む。だけどカレンと言えば、それでも何の反応も見せない。すると…

 「これは君があれほど望んだ物だよ?精霊の遺物だ」

 「ば、馬鹿な!それに全て失われた筈では?」

 またまたカレンよりも先に反応してしまうアルフォンソは、流石に正面からギロリと睨まれている。それから気を取り直したように咳払いを一つした皇帝は、尚も話し始めて…

 「これはね、私が皇帝になったからこそ実物を見れたんだ。ロベルトみたいに死ぬ気で忍び込む他は、皇太子でもおいそれとは見られない物だ。保管庫の鍵も皇帝になれば受け継ぐものだから」

 それには驚き唖然とするアルフォンソ。そしてそれはカレンさえも、ほんの少し身動きしたように見える。だが流石に表情の変化まではない…それに一番反応したのは、意外なあの人だった。

 「陛下、それはもう残ってはいないと聞いておりましたが…。私は妻を失った哀しみを責任転嫁し、そのせいでカレンは心を病み、母親を生き返らせたいという目的に執着してしまいました。手に入れたいと躍起になったその遺物はまだ存在していたのですか!」

 元侯爵は驚きの余り目をこれでもかと見開き、そう尋ねている。それに皇帝は静かに目を伏せる。そして…

 「君達はみな、私の弟が産まれたと同時に亡くなり、遺物によって死に戻ったのだと聞いていたね?それは私も同じだった。だが…父上が生き返らせようとしたのは側妃の方だ。死産かと思われたオリフェルトは、自力で息を吹き返した。私の母は、手の者が報告しようと急いでその場を離れた為に、そうだと思い込んでいたんだ。そしてカレンはそう伝え聞いて絶望したんだね」

 「ええっ…ですが側妃様はそのままお亡くなりになりましたよね。ではもしかして使わなかったということですか?」

 そのアルフォンソの問いに、皇帝は静かに頷く。そして…

 「側妃は元神官だ…だからそれを使うのを死に際で頑なに拒否した。何者でもない自分に使うより、もっと国の有事に使うようにと遺言したそうだ。父はそれに打ちひしがれたが、本人の望みだからとそれを受け入れた。だからここにある!」

 オリフェルト大公殿下の母君である前皇帝の側妃は元神官だった。皇帝のたっての望みで神官を辞して側妃となったが、美しく誰に対しても分け隔てなく、高尚な方だったと広く帝国民に知られている。そんな方だったからこその判断…

 それにはやっと納得がいったアルフォンソだが、同時にますます分からなくなる。何故皇帝はここに来たのかと。そんなアルフォンソが本当に驚いたのはその後…

 「だからね、カレン。君がもし本当に望むなら、この遺物…君に渡そうと思うんだ。どうかな?」

 それにヒュッと息を吸い込む音が!それまで一切反応しなかったカレンが、驚愕の表情で見つめている。一方アルフォンソは、益々訳が分からない…陛下は何をなさりたいのかと。
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