【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第一章・グラン聖国のスリジャ

3・予期せぬ結婚話

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 何のお話しなんだろう?と思いながらも、アルジェと連れ立って父上の執務室まで来た。
 
 ──トン、トン!

 「父上、お呼びと伺って参りました」

 中から入るようにと返事があり二人で執務室に入っていく。執務室には父上と、意外にも皇太子であるシルファ兄上が待っていた。父上だけでなく兄上も!?と少しだけ心配になる。

 「スリジャ、顔色が随分良くなったね? さあ可愛い顔を近くで見せておくれ!」
 などと言いながら満面の笑顔の兄上が…

 ──可愛い顔って!二十五歳の弟に言う言葉だろうか…?
 
 兄は子供の頃から私を可愛がってくれた。兄の母は王妃で、同腹の兄弟ではないが母親が亡くなっている私を何かと気にかけてくれたのだ。
 
 他にも兄弟がいるが、私が神殿に行っている間に第二王子は公爵家の婿になり、第三王子は王配おうはいとして望まれ他国に、唯一の王女であった第一王女はスリジャが神殿に行ってすぐ病気で亡くなってしまっている。

 今この城にいるのは、私と兄上の二人だけ。だから寂しいからなのかな?と理解して、その可愛い発言には敢えて触れない事にしておく。

 「父上、兄上。何かお話があるのでしょうか?」
 お二人が座られているソファの対面たいめんに座った直後、逸る気持ちでそう尋ねた。それには何故か、二人共に渋い顔をして…

 「お前の今後の事なんだが、シルファと話し合ってみたのだ。そしてこれが最善だろうと思うのは…お前にはとついでもらおうと思う。」

 ──嫁ぐ…えっ?嫁ぐ!?
 
 あまりの衝撃に何も言えす凍り付く。
 
 ──結婚する…って私が?それに嫁ぐって!?男性と結婚って事なんだろうか?

 この国では同性同士の婚姻も可能だ。今どき珍しい事ではない。流石に子供は望めないが、跡継ぎの問題がなければ個人の自由となっている。そしてそれは大陸全体としても同じなんだ。だから?そうは思うけど…

 でもそれはあくまで望まれてではないのか?とてもじゃないけど自分が望まれて嫁に行くなんて考えられない!そうなると誰かを不幸にしてしまうんじゃ…といった思いに駆られる。だって王からそう命令されたら、誰だって断われないだろう。

 「父上それは無理と言うものです!誰が好き好んでこんなとうが立った男の私と結婚したいなんて…迷惑でしょう?」

 これには何故か、ここに居る誰もがポカーンとした表情をしていた。

 ──ん?何だろう…その反応は?

 その後何故だかアルジェも一緒になってコソコソと三人で話し出し、もしかして自分の事わかってないのか?などと呟きが聞こえたけど…何の事だろう?

 「ハァ~ッ。お前自分の事を分かってないのかもしれないが、今でも充分美しいぞ!子供の頃から女性と見紛みまごうほどの美形だ。それにとうが立っただぁ?そんな美しさの前では年齢なんて関係ない!」
 
 兄上からそう言われて、えっ!嘘でしょ?と思うが、隣でアルジェも父上もが、うんうん!と頷いている。

 美しい銀糸ぎんしの髪が肩まで伸びて、白くシミひとつない玉のような肌、何より瞳は濃紫で夜空の星のようにキラキラと輝いている。
 
 これで25歳で、おまけに男だなんて詐欺だな…とあきれたように兄が呟く。

 「美しいなんて言葉は、兄上みたいな方に使うものでしょ?
金髪碧眼でとても美しい兄上は私の自慢です」
 キラキラした瞳で兄を見つめながらそう言うスリジャ。

 兄はそれに何やら複雑な表情を浮かべて、そうか…ありがとうと言う。だけど続けて、あぁこれはスリジャ本人は分かってないんだな…と呟いた。
 三人はそれを確信したが、これ以上言ったところできっと無駄だろうとそれ以上言うのは諦めた。

 「あのぉ…口を挟んだりして大変申し訳ないのですが、ひとつ私から伺ってもよろしいでしょうか?」
 
 アルジェが様子を窺いながらそう訪ねて、父は頷いて了承する。 
 
 「結婚をスリジャ様に勧めていらっしゃるのは分かります。でも何故男の方となのでしょうか?」
 その疑問に、私もそうそう!と同意したが父と兄はみるみる硬い表情になる。そして…

 「スリジャ、お前は長い間自分の持てる力全てを賭けて務めを果たしてきた!25歳という若い年齢で役から離れなくてはならなくなるほどに。そうなるともう普通の男性としての結婚は難しいと思う。それだけお前の身体の負担は激しいものだったはず」

 辛い表情でそう言う父に、成程と思った。そうかも知れない…と。

 「それを分かっていても、私や父上はお前に人並みの幸せというものを味わって欲しい!でなければお前は何の為にこの世に生まれて来たのか…と思ってしまうんだ」

 兄が潤んだ瞳でそう言うのを聞いて、私の目にも涙がにじんてしまって…
 
 男性の結婚相手を…と言うのにすっかりと納得がいった。
 確かに女性と結婚したとしても一家を守り子供を共に育てあげるのは難しいだろう。結局自分は、家族を残して早々に去るかも知れないのだ。
 となると男性の伴侶が得られるとすれば…少なくとも庇護ひごは受けられる。この先身体への心配は完全には無くならないにしても、残された者への罪悪感は軽くはなるだろうか…

 ──だけど肝心のお相手は?
 
 「ところで私はどなたの元へ嫁ぐのか決まっているのでしょうか?この国の貴族のどなたかの元に…ですよね?」
 
 スリジャがそう問うと、何故だか二人共に真剣な表情になる。

 「実はな…ここで問題になるのは、お前の癒やしの力なのだ。」
 
 ──えっ、癒やしの力…?

 「自分でも分かっていると思うが、神の御使いを離れたとしても癒やしの力は完全にはなくならない。ほんの少しだが使えるはずだ。それによって気を付けないといけないのは、悪用される恐れがある…と言う事。お前がもしも力を強要される事があったらどうなると思う?今でも体調が優れないのにそんな事になっては、途端に命を失うだろう。だからこの国に居ては駄目だ!」

 そう言われて戸惑う。確かにこの国の人ならば、その事実を知っている人が多いだろう。だけど私の場合は残された力は僅か過ぎる。となると、それを望まれる可能性が低い他の国に行く…って事!?それでは私は一体どこに?と思っていると…

 「スリジャ、隣国のラシア王国第二王子ロイに嫁ぐのはどうだ?」

 兄が眩しい笑顔でそう言って私を見つめる。えっ…

 ──もしかして兄上…知ってるんですか?ロイ王子が私の初恋の相手だと。
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