【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第一章・グラン聖国のスリジャ

4・スリジャの初恋

 あれは私が8歳の頃、神の御使いの力が発現する前のこと…

 
 母が昨年病で亡くなった私は、どうしようもない孤独に苛まれていた。
 父や他の兄弟達はそんな私を気遣ってはくれたが、寂しさが拭えなかった私は薔薇庭園で一人過ごす事が増えていた。
 
 横に広がる木立ち性の薔薇は生育旺盛で、年の頃よりも小さな身体の私をすっぽりと隠してくれる。芳しい香りが漂う中、しゃがんで土をいじくったり、時々現れる虫を追いかけたりする…という暗すぎる遊びで暇を潰していた。

 ──そんなある日の事…
 
 「ねぇ、何してんの?」
 
 突如として頭上から聞こえた声に、ビクンと身震いする。
 それから俯いていた顔を上げると、そこには浅黒い肌のキリッとした顔立ちの少年が立っていた。えっ…ここ城内だけど?

 「誰なの?ここにはどうやって入ってきたの?」
 
 何故だかその少年を見て頬が赤くなってしまった私は、恥ずかしさを隠すように強めな口調で聞いた。それに…

 「君は…ここの王家の子?俺は隣国のラシア王国の第二王子ロイだよ!」
 
 眩しい笑顔でそう言うロイに目を奪われる。何より第二王子なのに『俺』という一人称を使うその子を、密かにカッコイイな!って思ってしまった。
 
 突然の出会いとそんな自分の感情にビックリして、思わず天邪鬼な事を言ってしまって…
 
 「『俺』だって?王子という身分なのに自分の事をそう言う人なんている?」

 そんな私にロイはハハハッと明るく笑って、可笑しいかな?って。だけど本当に気にしている様子はない。
 
 ──太陽のような笑顔だな…

 それに浅黒い肌色のせいで明るくて快活そうなロイ王子。
 光に透ける白金はくきんの短髪が眩しいし、それに何という鮮やかな青だろうか?瞳の中に青空を閉じ込めたようだ。
 
 ──ポッ。そんな事を思っていると頬が再度赤く染まっていくのが分かる。

 「ねぇ!こんなところで暇をつぶしてないで城の中を案内してくれない?」
 
 ロイ王子がそう私に頼んで笑顔で了承する。ずっと誰とも話したくないと思っていたのに不思議だ…。改めて聞くと、ラシア王国の王である父親と一緒に我が国を訪れているのだと言う。だから城内の、こんなに奥深い場所で会ったのだと納得した。
 
 この二つの国は親交が深い。
 スリジャの父であるグラン聖国王が王太子時代、ラシア王国の王立学園に通っており、同級生であったロイの父親とはその時からの親友なのだ。
 
 「早く、早く!お城の探険に行こうぜ!」
 
 ロイがそう明るく言うと、急に私も楽しそうに思えてきた。
 気を使わないタイプそうだし気晴らしになって良いかもな。よし!と二人で手を繋いで歩きだす。
 
 庭園をざっと見て、それに続く噴水広場を抜けて騎士団の鍛錬場に向かう。騎士達の迫力にスゴイな!と唸りながら見学した後、次は馬小屋へ行き生まれたばかりの栗毛の子馬を撫でる。それから中庭から城内に入り図書館へ。そして絵画や彫像の間などをぶらぶらと見てから、たどり着いた城の端の狭い階段を二人でぐるぐると登って行った。そして城の屋上へ出た。
 
 ビューッと強風に吹かれて、その高さに身が引き締まる。城壁の際はぐるりと人が通れるようになっていて、二人で景色を見ようと近付いた。
 さっきまでは明るい青空だったのに、着いた時には遠くに見える夕日が徐々に沈んできていて辺りが茜色に染まっている。
 二人はその景色に綺麗だね…と呟いた。

 身長が足りずに上からは覗けないが、城壁の所々に有事の時には武器を差し込む為の穴が空いている。その穴から城下を見下ろせば、神殿への巡礼に訪れている人々が泊まる宿屋が建ち並ぶ様子が見える。
 
 それから顔を上げて遠くを見渡せば、遠くに国境の砦にある塔が小さく見えた。
 それを見たロイが指差しながら、俺あっちから来た!と嬉しそうに言うので、可笑しくなって顔を見合わせプッと吹き出す。そして…

 「会った時に落ち込んでいたように見えたけど、もう大丈夫?」
 
 急に真面目な顔をしてそんなことを言ってきたロイに目を丸くして見つめる。気が付いていたんだね…

 「実は母上が去年亡くなって…。私は同腹の兄弟もいないし母の身分も低いんだ。だからってイジメられたりはしないんだけど寂しさが消えないんだよ。だから手を差し伸べてくれる兄弟達にも素直になれなくって…」
 
 スリジャは今日初めて会ったロイに、素直な気持ちを話した。今まで誰にも言った事のない本当の気持ち…
 
 「俺も!俺も母上いないんだ。ていうか生まれた時からいないから。」
 
 笑顔でそんな事を言うロイに戸惑う。生まれた時から?それなのに笑顔で…と不思議そうな顔を向けてしまう。

 「もうそれは受け入れるしかないと思わない?なのにずっとそれで暗くなっているなんて。
確かに今は寂しいし、悲しいと思う。だけどその気持ちに囚われすぎて本当に自分を心配してくれる人に素直になれないなんて…絶対ダメだよ!」

 ──ハッとした…
 
 今まで自分は母を亡くした可哀想な子…何の価値もない第四王子で、居なくなっても誰も気にも留めない…なんて思ってどんどん卑屈になっていた。
 父上や王妃様、兄上達だって優しく気遣ってくれていたのに。完全に自分一人になったような気がして自分の殻の中に閉じ籠もっていたんだ。

 「俺なんてさ、気楽だぜ?そんな身分だからこうやって、父上に付いて他国だって来れるんだ」
 
 胸をドンと張って自慢げなロイに思わず笑ってしまう。だけどそれは優しさなんだ…
 
 ──きっとロイだって、今までも心の葛藤や待遇の差に悩む事もあったと思う。それに今後もあるだろう…王族としては避けられない事だから。だからこのちょっと乱暴な言葉遣いはその予防線みたいなもので、その不安な気持ちの表れなのかもしれないな…って思う。

 「ありがとうロイ王子!本当にその通りで目が覚めた。ロイにさとされて元気が出たよ」

 そうしてすっかりと打ち解けた二人。だけどふいに遠くの方からロイを探して、名を呼ぶ声が聞こえる。それにマズい…といった顔をするロイ。聞くとロイ達は明日の朝、帰国の徒につくそうで…。その用意をしている従者達の邪魔にならないように、自分は外でブラブラしていたんだそう。

 ──せっかく仲良くなったのにもうお別れなんて寂しいな…もっと遊びたいのに。そう思っていると大事な事に気付いた。
 
 「名前言ってなかったね?私はスリジャ。またいつか会ってくれる?今度はゆっくり一緒に過ごしたい。まだまだ見せたい所、沢山あるんだよ!」
 
 寂しい気持ちを隠しながら、きっと再び会えるね!と二人笑い合った…

 
 ──ただ一度だけ、ほんの一時共に過ごしたロイ王子との思い出…だけど初恋と呼ぶには充分な楽しくて思い出深い二人の時間だった。
 
 その後神の御使いとなり城を離れ、更に寂しい境遇になろうとも、そのロイとの思い出を励みにして卑屈になる事なくこうして過ごしてこれた…


 ──そんな恩人とも言える初恋の人…ロイ王子と私が結婚?そう思うと私の胸がドキドキと高鳴った。
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