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第一章・グラン聖国のスリジャ
6・出立の時に
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あれから慌ただしく婚姻に向けての準備が進められた。
神殿に居た時は、足首までのすっぽりと被るように着用する上衣にズボンといった格好で、特にオシャレに気を使かう…なんて経験がない私は、衣服選びには相当苦労する事になった。
あれやこれやと着せ替え人形のように、取っ替え引っ替え着せられてホントにこんな色の服着るんですか?と言いたくなるものもあったけど…
基本的に分からないので、言われたままに適当に華美になりすぎない物を選ぶ。
だけど王妃様が婚約式の衣裳だけはこだわらせて!と言うので、少し派手になってしまったけど、その心が嬉しいと思った。
おまけにその後の結婚式の時も同様に、その時までに仕上げて持って行くからと見てのお楽しみ宣言をされてしまったのだけど…大丈夫だよね?
──もうこんな歳なのに、こんなに大々的にと思うが仕方ない…
身の回りの小物や宝飾類も、父上や兄上が選んでくれて精一杯高価な物を持たせてくれた。
今では公爵家当主の兄上や、他国に住む兄上からも沢山のお祝いが届けられて…本当に有り難いと涙した。
──こんな二十代半ばの者が嫁ぐためなのに…幸せだな私は。
アルジェも何やら朝からバタバタと忙しくして準備に余念がない。だけどあれからずっと気に掛かっている事を聞いてみた。
「あの…アルジェ。ホントに一緒にラシア王国に行ってもいいの?」
アルジェまだ23歳で身体だって健康だ。薄い茶色の髪にエメラルド色の綺麗な瞳、顔立ちはどちらかと言えばカッコイイよりも可愛いだが、背は私のように小柄という訳でもなく、神殿で力仕事も手伝っていた為に適度に筋肉の付いたスラリとした美丈夫だと思う。
それでいて人懐っこく、茶目っ気がある笑顔が相当に可愛い。親の欲目ならぬ、幼馴染みの欲目かも?だけど。
──きっとアルジェには結婚相手なんて男にも女にも引く手数多だろう。
これで再び私に付いてラシアに行ってしまったら、アルジェの幸せってあるのかな?と思ってしまうんだけど…
「何を今更言ってるんですか?スリジャ様の行く所、それが私の生きる場所です!それに私だけ残ったら、心配でおちおち寝てられませんよ!」
そんなアルジェ節が飛び出して、暇ならロイ王子の事でも考えたらどうですかー?と言われてしまう。
そのロイ王子の事だけど、一つだけ心に誓った事がある。
もしもこの先自分の存在が、ロイ王子にとって邪魔になる事があったら潔く身を引く…って事だ。アルジェと二人、その後どう暮らすかはわからないけど、迷惑だけはかけまい…と。
それまでは例え暫くだとしても、お側にいれれば嬉しいなって思うんだ…
◇◇◇◇
出発の時が来た。準備は万端だと思うけど元々物欲なんてない身だ…忘れた物があったところで気にもならないだろう。
あれから神殿には一度だけ行く事が出来た。
御使い長や他の御使い達とは家族のように一緒に過ごしたけれど、こうなったからには会うのは最後かもしれない…って。
近くの国に行く時は是非会いに来て欲しいと抱き合って別れを惜しんだけれど、それが実現するかはわからない。
──最後に女神アイリスに会いに行こう…
もう二度と声を聞く事は出来ないだろう…そう思っても、もう一度だけお顔を見ておきたかった。ずっとこの場だけが私の全てであり、この先も続くと思っていた。だけど私は新しい世界に飛び込んでみたいと思いますと伝える。慈愛に満ちたその表情は幸せを心から願ってくれているのだと思った。そして…
父上も兄上も皆が別れを惜しんで泣いている。
「今生の別れでもあるまいし…結婚式の時は是非ラシア王国まで来て顔を見せて下さいね!」
そう空元気で言ったけど涙が止まらなかった!幸せになって…元気でいて!そう言うのが精一杯で…
さようなら私の国。そして私の家族…
神殿に居た時は、足首までのすっぽりと被るように着用する上衣にズボンといった格好で、特にオシャレに気を使かう…なんて経験がない私は、衣服選びには相当苦労する事になった。
あれやこれやと着せ替え人形のように、取っ替え引っ替え着せられてホントにこんな色の服着るんですか?と言いたくなるものもあったけど…
基本的に分からないので、言われたままに適当に華美になりすぎない物を選ぶ。
だけど王妃様が婚約式の衣裳だけはこだわらせて!と言うので、少し派手になってしまったけど、その心が嬉しいと思った。
おまけにその後の結婚式の時も同様に、その時までに仕上げて持って行くからと見てのお楽しみ宣言をされてしまったのだけど…大丈夫だよね?
──もうこんな歳なのに、こんなに大々的にと思うが仕方ない…
身の回りの小物や宝飾類も、父上や兄上が選んでくれて精一杯高価な物を持たせてくれた。
今では公爵家当主の兄上や、他国に住む兄上からも沢山のお祝いが届けられて…本当に有り難いと涙した。
──こんな二十代半ばの者が嫁ぐためなのに…幸せだな私は。
アルジェも何やら朝からバタバタと忙しくして準備に余念がない。だけどあれからずっと気に掛かっている事を聞いてみた。
「あの…アルジェ。ホントに一緒にラシア王国に行ってもいいの?」
アルジェまだ23歳で身体だって健康だ。薄い茶色の髪にエメラルド色の綺麗な瞳、顔立ちはどちらかと言えばカッコイイよりも可愛いだが、背は私のように小柄という訳でもなく、神殿で力仕事も手伝っていた為に適度に筋肉の付いたスラリとした美丈夫だと思う。
それでいて人懐っこく、茶目っ気がある笑顔が相当に可愛い。親の欲目ならぬ、幼馴染みの欲目かも?だけど。
──きっとアルジェには結婚相手なんて男にも女にも引く手数多だろう。
これで再び私に付いてラシアに行ってしまったら、アルジェの幸せってあるのかな?と思ってしまうんだけど…
「何を今更言ってるんですか?スリジャ様の行く所、それが私の生きる場所です!それに私だけ残ったら、心配でおちおち寝てられませんよ!」
そんなアルジェ節が飛び出して、暇ならロイ王子の事でも考えたらどうですかー?と言われてしまう。
そのロイ王子の事だけど、一つだけ心に誓った事がある。
もしもこの先自分の存在が、ロイ王子にとって邪魔になる事があったら潔く身を引く…って事だ。アルジェと二人、その後どう暮らすかはわからないけど、迷惑だけはかけまい…と。
それまでは例え暫くだとしても、お側にいれれば嬉しいなって思うんだ…
◇◇◇◇
出発の時が来た。準備は万端だと思うけど元々物欲なんてない身だ…忘れた物があったところで気にもならないだろう。
あれから神殿には一度だけ行く事が出来た。
御使い長や他の御使い達とは家族のように一緒に過ごしたけれど、こうなったからには会うのは最後かもしれない…って。
近くの国に行く時は是非会いに来て欲しいと抱き合って別れを惜しんだけれど、それが実現するかはわからない。
──最後に女神アイリスに会いに行こう…
もう二度と声を聞く事は出来ないだろう…そう思っても、もう一度だけお顔を見ておきたかった。ずっとこの場だけが私の全てであり、この先も続くと思っていた。だけど私は新しい世界に飛び込んでみたいと思いますと伝える。慈愛に満ちたその表情は幸せを心から願ってくれているのだと思った。そして…
父上も兄上も皆が別れを惜しんで泣いている。
「今生の別れでもあるまいし…結婚式の時は是非ラシア王国まで来て顔を見せて下さいね!」
そう空元気で言ったけど涙が止まらなかった!幸せになって…元気でいて!そう言うのが精一杯で…
さようなら私の国。そして私の家族…
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