【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第三章・ラシアの王宮にて

16・アランの決意

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 私は幼い頃、死の宣告を受けている。あれは私が9つの頃だ…

 ◇◇◇◇

 大陸全土を襲う死の病は、人々を恐怖に落とし入れた。この病を罹患りかんした人の五人に一人は命を落とす恐ろしい病だ。

 当初感染経路がわからず、どの国でも必死に解明が進められたが叶わず、大陸中が混沌こんとんとした空気に包まれていた。
 どんどん犠牲者が増える中、グラン聖国の女神アイリスの御神託によって、虫による媒介ばいかいによって起こるのだという事実がもたらされた。

 その後、徹底的にその虫が駆除され新しく罹患する人は大幅に減り、危機的状況が去った為に人々の恐怖や病についての誤った情報に振り回される事がなくなった光明こうみょうで、重症化する事なく改善に向かう者達も出てきた。

 ──しかし既に重症化している人達には何の手立てもないのが現実で、症状を軽くするだけの対処療法が施されて、後は神に祈るのみ…

 アランもその時に罹患していた。元々身体が丈夫でなかった為、どんどん症状が進み日一日と動かなくなる身体…
 もう死を覚悟はしておかなければ…と絶望的になっていた時、一人の神の御使いが王城にやって来た。

 その者には軽いケガを治したりという癒やしの力はあるものの、直接病気を治したりという強い力は無いようで…
 ただ、グラン聖国の神殿には女神アイリスに愛された、当代随一とうだいずいいつの力をもつ者がいると言う。
 その者の力は他の御使いを通しても発揮できるらしく、代わりに重症者の元を訪れているのだと言っていた。

 王はわらにもすがる気持ちで御使いを迎え入れ、癒やしの力を施してもらう。すると、不思議なその力でアラン王子の症状はみるみる改善し、それから程なくして全快した。
  
 ◇◇◇◇
 
 
 ──今私が生きてるのは、神の御使い様のおかげなんだ…

 今回のグラン聖国からの話を聞いた時、私では助けにならないものか?と考えていた。
 ただ、あちらはロイ兄上との結婚を希望であったし、始めはことの成り行きを静かに見守っていただけだった。
 けれど肝心のロイ兄上は完全な拒否反応。それならば私が結婚します!と宣言した。

 そこにいた父上や王太子の兄は、何とか思い留まらせようと説得してきたけれど、私の決意は固いものだった。

 ──そしてあの時…

 馬車から降りてくるスリジャ様の姿を見た瞬間…私が見る世界が変わった!

 今まで自分の存在は、命のほんの少しだけ残ったかすのような気がしていた。命こそは助けていただいたけれど、決して自分の自由にはならない身体が…
 そんな状態でまた大きな病にでもかかれば今度こそ燃え尽きてしまうだろう。

 有り難くも王子という身分で何の不自由もないけれど、国民の為に何か出来る訳でもない情けない自分…そんな空虚な思いを人知れず抱えて生きてきた。

 『仲の良い兄弟のように家族として一緒に過ごしていけたら…』

 私はこの結婚について、あの時そう言った。
 だけど…この命を賭けても守りたい人に出逢ってしまった!
 この胸に突如湧き起こる感情の昂りと、それに相反する不安と…
 
 そんな感情に戸惑いながらも、嬉しさを隠せずスリジャ様に近づく。すると何故だか身体をよろめかせたスリジャ様。あっ…危ない!と、身体をぐっと抱き寄せる。
 動揺を隠せぬ様子だが微かに笑顔を見せてくれると、この私の心と身体に暖かなものが流れ込んで…満たされた。

 スリジャ様は私のものだ…もうこの手は決して離さないと決めた。
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