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14.マスター捕まえた!

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 日が昇り始め朝霧が辺りを包む。クロエは目お覚まし、昨夜響が仕留めたナイトベアーを、料理しようと見てみるとその姿は無く、仕方なく寝ている響を置いて、食べ物を探しに辺りを歩き回り、野草と木の実を集めて戻る。
 そこには、体を縄で縛られながらも、木にもたれて寝ている響を、二人の騎士が取り囲んでいた。

 「アイツは、ほんと危機感がないね……」

 草むらから、あきれ顔のクロエが様子を伺う。

 「小隊長、武器は無いようです。バッグの中も……スライムでも入れていたのでしょうか……」

 女騎士は、嫌そうな顔をしながら、小隊長に報告する。

 「おい、起きろ!」

 小隊長は、響を足でこずく。

 「なんだよ~」

 響は、寝ぼけまなこで辺りの様子を見回す。
 そこには、鎧に兜を被り腰にはロングソードの男と、盾に槍腰にハ-フソードの女騎士の姿があった。
 この二人を見ると、響も異世界に来たことを実感する。
 はたから見ればクロエの方が、異世界に来たことを実感するのだが、クロエを見慣れた響にとっては、この二人の方が実感が沸くのであった。

 「お前は何者だ。どこから来た?」

 小隊長は、短剣を響に突き付け喚問する。

 何者って言われてもなぁ~ ホントの事言っても理解しないだろうし……

 「ナイトベアーだぁー」

 後方に残して来た、歩哨の叫び声が響く。

 「アリシア、そいつを置いて、付いて来い」

 「はい」

 小隊長とアリシアは響を残し、草むらへと姿を消した。

 「槍を構えろ! ぎゃぁ~」

 響達からは見えないが、小隊は草むらの中で後方から、昨日よりも大きなナイトベアーに襲われていた。
 ナイトベアーの毛は、束の針金のように固く、毛皮の下には冬を前に多くの脂肪を蓄え、槍や剣を通さない。
 騎士達は、ナイトベアーの爪と牙に、次々と倒されて行く。
 クロエは、この機を逃さぬように、響の元へと走る。

 「アンタもう少し、警戒しないといけないね」

 クロエは、響の縄をほどき、周りを警戒する。

 「もっと早く助けてくれよ~」

 「魔族と人族は、敵対しているからね。アタイが出て行ったら、殺し合いになっちまうよ」

 そうなんだ! 魔族の他にはどんな種族がいるんだろう?

 「アタイはリングへ戻って、姿を隠しておくよ」

 クロエは、霧のように姿を変えて、響の指に取り込まれたリングへ姿を消した。

 だけど、あいつらほっとけないよな…… 

 「それじゃぁ、行きますか!」

 響は、草むらの中へと走る。



 朝霧も薄れ風が吹き始める。草むらの中は騎士達の血で染まり、小隊長は片腕になりながらもアリシアの前でナイトベアーと対峙する。
 ナイトベアーは両足で立ち上がり、右前足を大きく振りかぶり、小隊長が切り付けるのを待っていたかの様に鋭く振り下ろし、小隊長の兜頭がアリシアの目の前に転がる。

 アリシアは、ナイトベアーが小隊長に一撃を加えるさまを見て尻もちを付く、そしてアリシアの目の前に、小隊長の兜頭が転がり、小隊長と目があった瞬間意識が飛んで行く。助けが来ないのであれば、意識がない方が幸せなのかもしれない。

 倒れているアリシアに襲い掛かろうとするナイトベアーに、響はジャンプして飛び掛かり、背中から抜き放ったソ-ドブレ-ドで、ナイトベアーの頭から尻にかけて一文字に切りさく。
 アドレナリンを押さえるため、ゆっくりと深呼吸をしながら辺りを見回すが、生き残りは気絶している、
 アリシア一人だけだった。

 「前のナイトベアーより大きかったな」

 「マスター、捕まえた!」

 「えっ! また?」

 響は、クロエに捕まった時の事を思い出す。
 エレベーターに乗った時の、宙に浮いた感覚を感じたのと同時に、響の姿が消えていく。



 「ティス、マスター捕えたよ」

 「では、こちらに転送して下さい」

 「りょうかぁ~い!」

 琴祢は、マスターの響に初めて会うのが、嬉しくてたまらない。
 ティスと琴祢の目の前に、テレビ映像が揺れるように響の姿が現れて行き、その姿が現実の者へと変わる。

 「次は、何ですか? あれ、ティスさん! 何故ここに?」

 クロエの仕業だと思っていた響は、目の前に現れたティスを見て、一瞬また『宇宙戦艦メモリア』へ戻ったのかと、勘違いする。

 「お待ちしておりました。響様」

 「マスター待ってたよ~」

 顔見知りのティスを見て安堵したのもつかのま、幼くも馴れ馴れしい言葉遣いに、戸惑う響であった。

 「クロエじゃないよな?」

 「アタイは、こっち!」

 クロエが、姿を現す。
 ここには、あまり人がいないと踏んで、ティスなら説明すれば大丈夫だとでも考えたのであろう。

 「これは、響様のガ-ディアン?」

 「ティスさん、これには色々ありまして……」

 何をどこから説明したものか、悩んでいる響をよそに、クロエがモニターを見つめる。

 「アイツ、ほっといていいのかい?」

 気絶している女騎士を指さし、クロエが言う。
 結構、物事を見ている所があるのだ。

 「ああ、そうか…… ティスさん、あの女騎士と騎士の遺体、こっちに連れてこれますか?」

 「可能です。 琴祢」

 「了解! ナイトベアーと騎士の遺体は、原子分解保存していい?」

 「いいえ、出来れば騎士の遺体は、棺に入れて保存して下さい。」

 ナイトベアーは、まだいいにしても、騎士の遺体を勝手に処分されては、助けた女騎士に後で説明が出来ない。とっさに棺に入れてくれと言ったのは、文明が進んだ世界の人達なら、何か宇宙で投棄するような、カプセルでもあるだろうと考えたからだ。

 「了解!」

 軽い返事をする、琴祢であった。

 だけど原子分解保存ってなんだ? 琴祢って誰なんだ、姿が見えないようだが…… だいたいここ何処だよ!
 はぁ~、長い一日になりようだ。
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