上 下
18 / 95

18.女騎士アリシア

しおりを挟む
 ランベル王国は、モ-グズ大陸の南にあり、東にガズール帝国、西にリプトン皇国、北にトブリオ大森林、南は海に面した豊かな国である。
 ランベル王国の王都サリュースは、隣国の中でも芸術や食文化の発展が目覚ましく、保養地としても人気が有り、隣国からの人や物流の拠点にもなっている。

 三台の荷馬車が棺を積んで、王都サリュースに向かう。
 響は、アルン村から高速で走り、王都近くの村で荷馬車を借りて、村人が見ていない所で座標を設定した。
 そして、九つの棺と女騎士を『レオン』から移し、村人に荷馬車へ乗せてもらった後、王都まで運んでもらっている。
 村人への手当は、騎士達の所持金から支払っている。魔族と人間は仲が悪いようなので、クロエには念のため、食料をいっぱい渡して、リングへ戻ってもらっている。
 ごねたけど……

 「旦那、ここらで昼飯にしようと思うんですが、いいですか?」

 「かまいませんよ。急ぎませんから。後、王都まではどれくらいですか?」

 「日暮れまでには、着きますよ」

 街道脇に荷馬車を止めた、村人達は火を熾す準備を始める。

 響は、腰に付けたポ-チから、ロールした厚手のマットを取出し、草むらに広げる。
 このウエストポーチは、前に手に入れたジョルダーバッグを、ティスが改良し渡してくれた物だ。
 前よりも小さくなり、ストックルームにもリンクしている。

 響は、荷馬車に向かい女騎士を抱き抱えて、草むらに広げたマットに寝かせる。
 女騎士の鎧は脱がせているので、ブランケットを取出し掛けてやる。

 「しまった。火打石を、今朝の野営地に忘れて来ちまった」

 「何やってんだお前は! 飯が作れねえじゃねえか!」

 村人達が集まり、言い争う。

 響は、村人が集めた薪に近づき、ウエストポーチから『MREレ-ション』を取出し、アクセサリーセット内のマッチで、火を点けてやる。

 「何じゃそれは!」

 「わしにも見せてくれ」

 「これは、どうやって使う物なんですか?」

 村人達は、初めて見るマッチを変わるがわる点けて、その都度騒いでいる。響にしてみれば火打石の方が珍しい。

 響は、湯が沸く間レ-ションのレトルトパックを、人数分鍋に入れて温めさせてもらう。

 「もうそろそろ、起こしてもいいよな」

 響は、女騎士に近づき、リストコントロールを操作して、女騎士の眠りを覚まさせる。
 女騎士は、ゆっくりと目を開き青空をみつめる。とその時、自分庇う小隊長の兜頭が、女騎士の目の前に転がり、小隊長と目があった。

 「いやぁ~! 助けて……助けて……」

 女騎士は、響に抱き付き体を震わせながら涙を浮かべて、助けを懇願する。

 「もう、大丈夫ですよ。あなたは助かったんですよ」

 響は、女騎士を抱きしめ、銀髪ショ-トの頭を撫でながら、優しく声お掛けて気持ちを落ち着かせようとする。

 鎧を着ている姿は勇ましかったけど、この放漫な胸に気品のある顔立ち、何処かのお嬢さまって感じだな。

 徐々に落ち着いて来たのか、体の震えも治まったようなので、響はポーチから『ミルクセ-キ』のペットボトルを取出し、キャップを開けて女騎士に手渡し、飲むように勧める。

 「これは……まろやかな飲み物ですね。貴方は!」

 飲んだ事も無い飲み物で、正気を取り戻したのか、女騎士は響の顔を見て、記憶が蘇る。

 「旦那、湯が沸いたよ」

 「話は、食事の後にしましょう」

 響は、村人が興味深そうに見つめる、鍋に歩いて向かう。
 鍋はグツグツと、沸騰を知らせる音を上げている。響は、熱々のレトルトパックを取出し、パックの口開け、スプーンさして村人それぞれに、『ハムスライス』、『照焼きビーフ』、『鳥の胸肉のグリル焼き』を渡してやる。
 村人達は、思いがけない料理に大騒ぎをしながら、回し食いを始める。

 響は、『ビーフシチュー』のパックを持ち、女騎士に近づきパックを手渡す。

 「食べますか?」

 「はい、ありがとうございます」

 女騎士は、差し出されたパックを素直に受け取り、一度匂いを嗅いで、スプーンにのったビーフを口に運ぶ。
 永い間、食事を取っていなかった事もあり、『ビーフシチュー』に、がっつき始める。響は、女騎士の隣に座り、クラッカーにピーナッツバターを、挟んで渡してやる。女騎士はうなずき、響からクラッカーを受け取り、食べ始める。

 「俺は響、君の名前は、なんて言うんですか?」

 響は、今だ騒がしい村人達の方を向き、クラッカーをかじりながら、女騎士に尋ねる。

 「アリシア……アリシア・シ-ドル、十七歳です」

 「えっ、同い年なのか~ 落ち着いてるから、年上かと思ったよ~」

 いきなり馴れ馴れしい、響であった。

 その後、村人達に粉末ジュースとパウンドケーキを渡し、大喜びされた。
響は、コ-ヒ-とココアをカップに入れて、アリシアにココアを渡し、これまでの経緯を、少し脚色して話し始めた。

 「自分は探険者で、秘宝を探しながら旅をしていたら、アリシア達に捕まって、アリシア達がナイトベアーに襲われている間に、縄を切って逃げようとしてたら、アリシアがナイトベアーに殺されそうだったので、落ちていた槍を投げたら、たまたまナイトベアーに当たって、ナイトベアーが倒れたので止めを刺して、騎士達の遺体を清めて棺に入れて、アリシアと一緒に王都に送り届ける所。ああそうだ、鎧と武器は送り届けるための、費用代わりに使いました」

 本当は、琴祢が鎧と武器を勝手に『原子分解保存装置』に、入れちゃったんだよなぁ~

 響の話を聞き終わると、アリシアはこれまでの事を話し出す。
 アリシアは、ランベル王国公爵家の騎士で、北部で野人に村が襲われ、領民が虐殺されたと報告を受けて調査に来た所、ナイトベアーに襲われたそうだ。

 昼食が済んだところで、ゴミはポーチに戻して、王都に向けて荷馬車は動き出す。
 響が、ゴミをポーチに戻したのは、ティスに『この世界に存在しない物は、なるべく回収してください』と、言われたからだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ゴルフ場で親友の恋人の手料理を食べた記念日

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

側妻になった男の僕。

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:359

【完結】異世界お似合い夫婦

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

すいけん! ~都立曙橋高校 推理小説研究部 の小さな事件簿~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:1,053

記憶

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...