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29.盗賊の住処

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 王都から五十キロ以上離れた東の森林には、最近キメラが姿を現すようになり、多数の冒険者が派遣されたがその殆どが消息を絶ち、今では立ち入り禁止区域となっていた。
 その様な所に誰が、盗賊の住処すみかがあると思うだろうか。
そしてその盗賊の住処を見付けて来た事から、チ-ム『ファルコン』の能力の高さが分かるのだ。

 響と『ファルコン』の三人は、作戦会議後の夜ミオの居所を探るべく、盗賊の住処近くに出向いて来ていた。
 アリシアは『ロックフェル商会』で、ティスと騎士団への報告と編成準備のため、留守番してもらっている。
 実は、足手まといになるので、理由を付けて置いて来たのが本音のところだ。連絡には、『ストックルーム』にあった。
 スマホ型端末を、あのアルン村襲撃事件から、責任者と騎士達に渡していたのだ。

 響達四人は暗闇の中、風下から盗賊の住処に近づいて行く。と言うのも住処の中に、犬が二頭飼われていたからだ。

 「リーダー、餌を撒いて来たよ。薬が効いてるのは、一時間くらい」

 エルフのア-リン・リドルは夜目が効く、盗賊の警備をくぐり、睡眠薬入りの肉団子を投げて、食べさせて来たのだ。

 「分かった。響くん本当に一人で大丈夫か?」

 「犬さえ何とかなれば、行けると思います。」

 響は、コ-トのフ-ドを被り、マスクをする。そして、リストコントロールを操作して、光学迷彩を起動した。

 「「「ぉぉ!」」」

 ジュリアン達の目の前から、一瞬で響の姿が消えてしまう。

 「これが、『潜伏』スキルですかぁ」

 ジュリアン達に、響は光学迷彩の事を、『潜伏』スキルと説明していた。

 「使えるみたいだな、それじゃぁ、行ってきます」

 響は、ジュリアン達に見えていないことを確認して、盗賊の元へ向かって行った。



 盗賊の住処には、誰も来ない事に安心しているのか、犬二頭と見張りが二人いるだけで、後の奴らはテントの中に居るようだ。

 見張りの二人も焚き火を囲み、酒を酌み交わしている。犬の方は、エルフのア-リンが肉団子に混ぜた、薬の効果でぐっすり眠っている。

 響は、左側のテントから見て回る事にする。テントに近づき中の様子を見てみると、そこには、汗臭い男達が酒を飲み、響も目を背ける様な、女性を慮色する姿がそこにはあった。
 その女性達には、両手足に枷がはめられ、中には足のケンを切断されて、逃げられない女性の姿もあった。
このテントの中には、男七人と女が二人いた。

 あれ、盗賊だけじゃなく、女性もいるのか。
 これじゃあ誰がミオか、分からないじゃないか。
 仕方ない、録画して帰るか。
 後はとりあえず、テントを全部見て回ろう。

 二つ目のテントには、男八人、女三人。
 三つ目のテントには、男九人、女三人。
 四つ目のテントには、男八人、女二人。
 五つ目のテントには、男六人、女五人。

 全部で、男が四十人と女が十五人か……
 盗賊の数的には合ってるけど、女性がこれだけいると、ミオがどれか分からないなぁ~。
 服とかも着替えさせているんだろう。見ただけでは、判断できない。
 今日は、いったん戻って作戦の練り直しだ。

 響は、ジュリアン達の所に戻り、事情を説明してロックフェル商会に、戻る事にする。
 ジュリアン達も、女性がいる事は把握していたが、ここまで女性が多いとは思わず驚いていた。



 人目が無い事を確認して、ロックフェル商会の裏口から、預かった鍵で屋敷の中に入る。広間では響達の帰りを待つ、マ-クとアリシアの姿があった。

 「首尾はどうだった。ミオは、無事だったか?」

 首を長くして娘の帰りを待つマ-クは、響達の中にミオがいない事に、落胆しつつ娘の安否を確認するのだった。

 響は、録画した画像データを、戻る迄にティスに編集してもらっていた。何故なら、マ-クやアリシアに見せるには、余りにも刺激が強すぎるからだ。だから、顔の確認が出来るだけの、静止画像に編集してもらったのだ。

 「それじゃぁ、これから盗賊の住処にいた十五人の女性の、顔のを映し出すので、その中にミオさんがいるか確認して下さい」

 響が、これから何をしようとしているのか、知っているのはアリシアだけだ。
 映像を見せてなんと言い訳するかは、まだ考えていない。

 「「「「おぉ~!」」」」

 「君のスキルには、脅かされてばかりだなあ」

 ジュリアン、ナイス!これから説明しにくい事は、全部『スキル』って事にしよう!

 ジュリアン以外は、食い入るようにスライド画像をみて、ミオの姿を追い求めている。もう何日も無事が確認出来ていないマ-クにとっては、ワラをも掴む思いだろう。

 「ミオだ! ミオがいたぞ!」

 マ-クが歓喜して見ている先には、髪が乱れ、顔に殴られたような跡が残る、女性ミオ・ロックフェル二十三歳の寝顔が、映し出されていた。

 五つ目のテントに居た彼女は、泣き疲れて寝ていたのか、眠らされていたのかは分からないが、命は無事だつた。

 そして、身代金引き渡し前、最後の夜となる明日に向けての、作戦会議は朝まで続くのである。
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