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31.救出作戦2

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 盗賊たちは安心しきっている。この森林に入って来る者は、もう誰もいないと言う事を知っているからだ。

 そして、盗賊たちの雇い主が、ハイリガ-・ム-ス公爵であり、この森林への立ち入りを禁止したのも、公爵本人なのである。

 ただ盗賊たちは、公爵が自分達の雇い主だと言う事を知らない。

 公爵にとって、その辺の所に抜かりはないのだ。

 そんな所でつまずいている様では、今の地位を得る事は出来なかったであろう事を、一番知っているのも公爵だからだ。

 見張りの男二人が、酒を飲んでいる。辺りを気にする事もなく、『何かあれば、犬が騒ぐだろう』と安心して、酒を飲んでいるのだ。

 「ぎゃぁ~!」

 エルフのア-リン・リドルが放った火矢が、見張りの一人に命中し、二人いた見張りの一人が、火矢を受けて即死する。

 「襲撃だ! みんな出て来い! ぐぅ……」

 もう一人の男に向けて、火矢が射られるが届かない。しかし、ア-リンが放った火矢は、当たるのである。

 お頭にどやされテントの外に出た盗賊の目の前で、二人の見張りが倒された。

 「お頭! 何者かが西から、火矢を射って来やがった」

 「お前達二人で、その娘を見張ってろ。逃がすんじゃねえぞ! 盾のある奴は、盾を持て!」

 盗賊の頭は、盾と魔剣を手に取り、テントの外に出て行く。

 残された二人の盗賊は、ミオを取り囲みお頭がいない隙に、嫌がるミオの体を触り始める。ミオは、逃げようとしても、声を上げようとしても、口も手足も拘束されているため、涙を流し盗賊のなすがままにされるほかなかった。

 ゴォン! ドス!

 「このゲス野郎どもが!」

 響は、一人を盗賊のこん棒で殴り、もう一人の溝内を拳の一撃でえぐった。

 ミオは、目の前で盗賊たちが、操り人形のように倒れて行く姿を、訳も分からず涙を流しながら見ていた。

 ブゥ-ン!

 そんなミオの目の前に、突如姿を現したコ-トにフ-ドを被った男が、ミオに近づいて来る。

 ミオは、のけ反り逃げようとするが、拘束されているためあまり動きが取れない。

 「君は、マ-ク・ロックフェルの娘のミオだね」

 響は、片膝を着きミオに話かけながら、フ-ドを上げマスクを取る。

 ミオは、響が自分を助けに来てくれた事をさとり、いっそう目に涙を浮かべながらうつ向いた。
 よほど辛い思いをしたのであろう事を、その姿が語っていた。

 「琴祢、ミオと四人の女性を、城に転送してくれ」

 「はぁ~い。後、マスター座標設定アンカーを、何処かに付けといて、じゃ転送するよ」

 ミオ達は、アルン村にある響の城に、転送されて行った。

 転送先の城では、ティス、メイド、アリス団長以下騎士達が、待期している。

 響は、テントを出て座標設定アンカーを、人目に付かない木の上に付けた。このアンカーは半径二百キロをセンサ-監視する事が出来るのだ。このアンカーの設置により、琴祢独自による転送及び回収が出来るようになるのだ。

 盗賊たちは二人を残して、全員でジュリアン達を追って行ったようだ。

 響は、テントに捕らわれている女性達を、次々と助けて行った。

 そして、最後のテントには、足のケンを切られた女性がいた。

 響が、その女性に近づいて行くと、後ろから剣が振り下ろされる。

 響は、ブロードソードを抜きながら振り向き、その剣を受け止めるが、ブロードソードは斬り落とされて、その剣の刃先が響の肩を襲う。
 そこには何故か盗賊の頭が、魔剣を持ってふてぶてしい姿で立っていた。しかし、ブロードソードを斬り落とした魔剣でも、響のロングコートに傷を付ける事すら出来なかった。

 「何で切れねんだ!」

 盗賊の頭は、魔剣をもう一度振りかぶり、斬り付けようとしたが、響のソ-ドブレ-ドがいち早く、頭の両腕を斬り飛ばした。

 「ぎゃぁ-!」

 頭の両腕から血渋きが噴き出し、尻もちを付いて崩れ落ちる。

 「危ない! 後ろ」

 足のケンを切られた女性が、叫ぶ。

 響は、ソ-ドブレ-ドの切先を後ろに突き出し、後ろからの攻撃を撃退する。

 後ろを振り返るとそこには、斧を持って胸から血を流す女が死んでいた。

 おそらくこの女は、長い間盗賊達と一緒に居る事により、盗賊達に心を許したのであろう。

 「琴祢、彼女を頼む。そして、ここにある物は全て回収しろ。盗賊は拘束して牢に入れて置いてくれ」

 牢に入れられた盗賊は、後で『魅了』魔法をかけて、情報を聞き出すのだ。

 「マスター、その二人は分解していい?」

 琴祢に言われて、盗賊の頭を見てみると既に、息をしていなかった。

 「いいよ」

 最近の響は、人道主義にこだわらなくなっていた。

 ここは日本では無く、力が支配する一面がある、異世界なのだから。

 躊躇していては、命が幾らあっても足らなくなる。



 ジュリアン達は後退しながら、盗賊達を誘き寄せていた。

 最初の五人程は、難なく弓でア-リンが仕留めたが、それ以降は、盾持ちの盗賊が全面に加わり、後退する事しか出来なくなっていた。

 「リーダー、盗賊六人程が後ろに回った。挟み撃ちにするつもりだ」

 盗賊の動向に、夜目が効くア-リンが気付く。

 「まずいな~」

 「リーダー、後ろは私が斬り込もうかぁ?」

 「…………」

 モカの言う事にも一理ある。彼女なら敵を五人相手にしても、余裕で勝てるだろう……
 明るければ。
 だが今は暗闇の中の戦闘だ、何が起きても不思議ではない。

 ドォ-ン! バァゴォ-!

 考えるジュリアンの目の前で、盗賊達に向けて何かが炸裂し、盗賊達を吹き飛ばして行く。

 「思い知ったか~人間ども!」

 そこには、空から『ダ-クショット』を撃ちまくり、憂さ晴らしでもするかの様な、クロエの姿があった。

  「ウヮ~! 流石魔族、すごい悪役。見方でよかった!」

モカの言葉は、ジュリアン達全員共通の、見解であった。

 このクロエの攻撃により、ジュリアン達の後方の脅威は無くなった。
 しかし、まだ盗賊は三十人近く存在している。

 その時、黒く大きな塊がクロエの後方より急速に接近し、ジュリアン達の前にクロエが地面に叩き落され、クロエは消えて行った。実際には気を失って、リングに戻っただけなのだが……

 ジュリアン達が見上げると、そこには大きなキメラが、翼を羽ばたかせて静止していた。

 「あんなの、聞いてないぞ……」

 ジュリアン達は、逃げる事も出来ず。ただ立ち尽くすだけであった。

 「琴祢、魔法発動後、俺とジュリアン達を転送してくれ」

 「了解ぁ~い!」

 「『メテオブレイク』」

 響は、右手を天に掲げ魔法を発動する。

 「あぁぁ、マスター~ダメ!」

 「えっ?」

 響とジュリアン達は、転送された。

 そしてその直後、暗雲を切り裂くように、炎を纏った隕石が五つ、キメラと盗賊達の上に降り注ぐのであった。琴祢が止めようとしたのは、響がリミッター解除を、1にする所を5にしていたからだ。

 キメラと盗賊達の上に降り注いだ隕石は、キメラと盗賊達を消し去り、その場に大穴を開けて、後年には湖となるのであった。
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