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32.商人との密談

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 アルン村は、寝静まっている。しかし、響の城『響城』では、救出された十四人の女性達に話を聞いた後、風呂に入れ、新しいドレスを支給し、傷の治療と健康診断を済ませた者から、食事を取らせていた。
 話を聞く限り盗賊に寝返ったのは、死んだ女だけだった。
 食後、女性達はそれぞれ部屋に行き、清潔なフカフカなベッドで、忘れかけていた人間らしさを、思い出してくれるのかもしれない。

 捕らえた二人の盗賊は、地下牢でビクトル・デッカ-副団長とクロエが、厳しく事情聴取を行い。その後、クロエが『魅了魔法』を掛けて、話した内容の整合性を確認している。

 ミオの所には、アリシアと一緒に転送されて来た。マ-クが、久し振りの再会を、泣きながら喜んでいた。

 「響くん、先に頂いているよ。だけど君が領主だったとは、驚かされたよ。それに転移魔法まで使えるとは……」

 ジュリアンは酒を飲みながら、話し掛けて来る。料理の方は、『鹿肉のワイン煮込み』を、食べているようだ。

 「この事は、内密にお願いしますよ……信用して連れて来たんですから」

 響はジュリアン達に、『別の大陸の領地から交易のために、シ-ドル公爵を頼って、ランベル王国に来た』事にしてある。

 響もテ-ブルに着き『鹿肉のワイン煮込み』を、食べ始める。

 「ねぇねぇ響~、いつもこんなデザート食べてるのか?」

 モカ・ピンチは、『プリンアラモード』を、二つ抱えて食べている。

 「いや、そのデザートは、食べた事ないな」

 響も『プリンアラモード』の、実物を見るのは初めてであった。

 後で俺も食べてみようとぉ!
 ア-リンさんはエルフだから、何を食べているんだろう?
 和定食のような~?
 えっ、精進料理! そんな物まで作れるんだ……
 味噌田楽も有るし、味噌がある事隠してたな~
 て言う事は、醤油も有るな! ティスの奴……

 「響様、この度は何と言ってよいやら……」

 涙を浮かべて、響の手を取るマ-ク・ロックフェルであった。

 「マ-クさんも、ご一緒にどうですか?」

 ティスが、酒と料理をテ-ブルに置き、マ-クに勧めてくる。

 「ありがとございます。では、お言葉に甘えて……」

 マ-クは席に着き、ティスが差し出した酒を飲み始める。
 この騒ぎの間ろくに食事も取らず。酒など飲んではいなかったであろう。
 二杯三杯と飲んでる間に、顔が赤みを帯びて来ている。

 何やら騒がしくなったので、ジュリアン達を見てみると、いつの間にかクロエとビクトル副団長が、テ-ブルに着いて酒を酌み交わしている。

 「マ-クさん、ミオさんはやっと寝付かれましたよ」

 アリシアとアリス団長が、入って来る。

 「アリシア様、何から何まで……感謝致します。これは、お礼でございます」

 マ-クが懐から取り出した小袋を、テ-ブルに置きアリシアに差し出す。
 アリシアが、その小袋を受け取り中を見てみると、そこには白金貨が1枚入っていた。

 「これは、白金貨ではありませんか! この様な高価な物は、受け取るわけにはいきません」

 「アリシア、白金貨ってそんなに高価な物なのか?」

 響は、まだこの世界の貨幣価値を、理解していない。
 実際使ったのは、村人に遺体を運んでもらった時に、渡した事があるぐらいで、その金額が高いのか安いのかは、いまだに理解していないのだ。ただ単に、あったから渡しただけなのだ。

 「はい、私も見るのは初めてですが。材料に金、プラチナ、七色鋼が使われて、王侯貴族の権力の証とも言われる物です。この白金貨を持っているだけで、その人の属性魔法の効果が、十倍以上あがるそうです。枚数も千枚しか造られておりません。それに『魔剣』と呼ばれる物には、この七色鋼が材料に含まれているそうですし、白金貨を溶かして、魔剣を造るのにも使われましたから、現在、何枚が実在するのかもわからない、希少性のある金貨なのです」

 アリシアの説明からも、この白金貨に含まれる、七色鋼の希少性は高いようだ。
 貨幣価値が今一つ分からないので、尋ねてみると
 貨幣の種類は、白金貨、大金貨、金貨、小金貨、銀貨、銅貨の六種類。
 換金率は、白金貨一枚は大金貨百枚、大金貨一枚は金貨十枚、金貨一枚は小金貨十枚、小金貨一枚は銀貨十枚、銀貨一枚は銅貨十枚とのことだ。

 例えば、銅貨一枚を百円と考えた場合、白金貨一枚は…………いいいいいいっ……一億円!

 そりゃあ、もらえないわなぁ……

 「マ-クさん、そんな高価な物は……」

 「響様、そちらの事情も分かりましたし、これからの取引をさせて頂くのに、私共の方に引け目があっては、商人として商売になりません。この白金貨をお渡しする事で、その引け目を取り省き、取引で私共も、儲けさせて頂きますよ。それにこれから、他国に行かれるような事があっても、その白金貨があれば、絶大な信用が得られます。ただ、身の危険は増えるかもしれませんが、ですが貴方なら大丈夫でしょう」

 「それなら、冒険者登録をした方がいいな。丁度、三人の冒険者がここにいるし。それに、有力者の後ろ盾もある……」

 ジュリアンは、マ-クの顔を見て笑いかける。

 冒険者になる為には、三人の冒険者の紹介か、実力者の紹介のどちらかがないと、冒険者になる事が出来ない。要するに、幾ら能力があっても、信用がなければ冒険者には、なれないと言う事だ。

 「お話し中ですが……捕らえた盗賊の話から、今回の騒動の黒幕が、王国の有力者らしいのです。ハッキリとは相手が誰だか、知らない見たいなんですが……」

 ビクトル副団長が、引っ掛かるのも無理はない、本当の相手の姿が見えて来ないのだから。

 「マ-クさん、このまま王都にミオさんを連れて帰ると、貴方が盗賊を退治した事が、敵に知られてしまいます。ですから、敵がハッキリして敵を倒すまでは、ミオさんにはここに居て頂いて、マ-クさんはミオさんが誘拐された事を、相手と連絡が取れないのですから。王国警備隊に訴え出ては、いかがですか?」

 「アリシアさん、それはいい考えだ! それじゃ、我々チ-ム『ファルコン』が、マ-クさんの護衛に付こう」

 「アリシア様、ジュリアン……ありがとう……」

 こうして今後の方向性は決まった。そして、アルン村の農作物はロックフェル商会の倉庫に転送し、販売はロックフェル商会が行う事となった。

 響達の王都での拠点も、ロックフェル商会が所有している、空き家になった宿屋が、無償で提供される事となった。
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