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36.アリシアの故郷
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ここは、数か月前までシ-ドル公爵家の所領だった。
しかし、今通って来た村には、村人が一人もおらず。
家々は朽ち果て、田畑は荒れ放題に荒れていた。
今回、響とアリシアが、元シ-ドル公爵家の所領に来たのには訳がある。
それは、アリシアの所に、一通の手紙が届けられた事から始まる。
差出人は、元シ-ドル公爵家の屋敷があった町、ランゲルンにある教会のシスターマリンからであった。
その内容は、領主が変わり、町には領主が連れて着た、商人が幅を利かせるようになり。重税が課せられ。月日が経つうちに村々では、餓死する者が出始め、夜逃げする者、身売りをする者が現れ、村人達は領主に直訴したが聞き入れられず捕らえられ、男は鉱山送りとなり、女は奴隷として売られて行った。
残された子供達を、シスターマリンが引き取り、面倒を見ているが資金がつきて、子供達の食べる物にも事欠くようになり、何とか力を貸して欲しいと言う内容だった。
そこで、アリシアの強い希望で、シスターマリンの所に行く事になったのだ。
当初、フェスタ-騎士団の面々が、一緒に行くと言って効かなかったが、目立ちすぎる事から却下されて、アリシア、響、クロエの三人で行く事になったのだ。
「アリシア、シスターマリンの教会は、まだ遠いのか?」
「ランゲルンの郊外にあるので、あともう少し行った所です」
「それにしても、数か月でここまで荒れるものなのか……ここの領主は、何を考えているんだ」
響は、遺体を埋めている老人二人を見て近づき、埋葬を手伝う事にする。
遺体は、亡くなってからかなり日数がたつのか、白骨化が進んでいた。
「ありがとうございました。これで私達も思い残す事はございません」
老夫婦は涙を浮かべながら、響達に礼を言い立ち去ろうとする。
「あの、シスターマリンの教会まで、案内をお願い出来ませんか?」
アリシアは、夫婦の様子が気になり、このまま別れる事を危惧した。
「タイリン男爵、あの教会をどのようにするおつもりですか? あそこは、この領地を治める者が、庇護して来た教会です」
一人の騎士が、タイリン男爵の前に立ち、話しかける。
「その件は、大臣に任せておる。大臣の指示に従うがよい。さがれ!」
執務室のテ-ブルに座り、膝の上にメイドを座らせて、昼から酒をあおっている。
メイドは、震えながらタイリン男爵のされるがままに、我慢するしかないのだ。
「隊長、どうなりましたか?」
三人の騎士が、駆け寄る。
「話にならん…………大臣の指示どうり、教会を打ち壊すしかない……」
「ですが隊長、あそこにはシスターマリンと子供達しかおりません、大臣が言われるような不穏な動きなどありません!」
「だが、我々が行かねば、男爵鋭士隊が動く事になる……そうなれば……皆、生きてはいまい」
男爵鋭士隊とは、大臣子飼いの覆面部隊で、歯向かう者には容赦なく切り捨てる、悪名高い部隊なのだ。
数的にも、男爵鋭士隊五百に対して、元フェスタ-騎士団は、三分隊六十名しかいないのだ。
そして、汚れ仕事を命じられるのは、いつも元フェスタ-騎士団に対してであり、今までに辞めて行った者は数知れず。そんな中、後ろ指を指されながらも、血を流さない様にと残った者達なのだ。
「ここが、シスターマリンの教会で御座います。おお、シスターマリン……お客様をお連れしました」
老夫婦は、畑仕事をするシスターマリンと子供達を見付ける。
「あっ…………姫様……よくぞご無事で…………」
畑仕事の手を止めて、涙を流しながらアリシアに駆け寄る、シスターマリンの姿は、前にアリシアが会った時とは違い、ヤツレ年老いていた。
「シスターマリン…………」
アリシアは、シスターマリンを抱きしめ、今まで我慢していた感情が、溢れるかのように涙が流れて来る。
「わしらはこれで失礼します。後でシスターマリンに、これで最後となりますが、食料を取りに来るようにお伝えください。」
老夫婦は、アリシアとシスターマリンの様子を見て、響に伝言を伝える。
「急ぎの用事がなければ、一緒にお茶でもどうですか? インスタントですけど……」
様子がおかしい老夫婦を、このまま帰す訳には行かない。
「インスタント……」
「お茶は、久しぶりです。あなた、最後に頂いて行きましょうよ」
奥さんの方は、何かを思い出した様に、喜んでくれているようだ。
「皆さん、教会の中にお入り下さい。さ湯しかありませんがどうぞ」
シスターマリンは、涙をぬぐいながら教会の中へと、案内して行く。
教会の中には、小さい子供達が二十人程いた。
外で畑仕事を手伝っていた子を入れると、二十八人だ。
「シスターマリン、お茶は俺が入れますよ。後、食事も用意しましょう。誰か手伝ってくれるか!」
響の『食事』と言う言葉に、子供達が集まって来る。
何を作るのか興味深々だ。
響は、ポーチからお馴染みのレーションを、人数分よりも多く取出し封を開けて、メインメニューのパックを、水を張った大鍋に放り込んで行き火にかける。
響を取り囲んで見ている子供達に、クラッカーのパックとスプレッドを渡し、手本代わりにクラッカーの間にスプレッドを、挟んで食べて見せる。
それを見た子供達は、見よう見まねでクラッカーに、かぶりついている。
湯が沸いたところで、カップにコ-ヒ-とミルク、砂糖を多めに入れて、アリシア達にクラッカーとスプレッドを一緒に持って行く。
「どうぞ、砂糖多めなので、甘いですよ。クラッカーは、アリシア頼むよ」
「はい」
響は、アリシアに任せて子供達の所に戻った。
「何ですかなこれは、苦みの中に甘さとまろやかさがある……」
「ほんとですね、あなた。初めて味わう物ですが、美味しい」
老夫婦も気に入ったようだ。
シスターマリンは、久しぶりの来客と子供達の喜びように、胸がいっぱいになる。
子供達が目を輝かせて喜ぶ姿は、引き取って以来初めての事だから。
「いつも食料をありがとうございます。ところでお二人揃って、どうされたんですか」
教会の子供達の食料を、今までこの老夫婦が調達し、教会へ寄付してくれていたのだ。
「シスターマリン……やっと息子の遺体の埋葬許可が出て、先程この方達に手伝って貰い、埋葬した所です……」
「そうですか…………やっと……」
シスターマリンは、神に祈った。
この老夫婦の息子は領主に直訴して見せしめに、その遺骸を長い間さらされていたのだ。
「シスターマリン、家の方に食料を用意して置きますので、今回は取りに来ていただけますか」
「あなた達、まさか…………」
自分達の事も、どうしていいか分からない、シスターマリンに何が言えようか。
「心残りも無くなりました。二人で旅にでも出ようと思います」
老夫婦は、メインのメニューを取り合う子供達を見て、昔を懐かしそうに思い描いていた。
「新しい希望って言うのも、いいんじゃないですか?」
響は、食事を老夫婦たちに配りながら、アリシアに笑いかける。
「シスターマリンは居るか~! 領主様の命令により、教会を引き渡すように!」
教会の前に、騎士六十名が隊列を組んでいた。
しかし、今通って来た村には、村人が一人もおらず。
家々は朽ち果て、田畑は荒れ放題に荒れていた。
今回、響とアリシアが、元シ-ドル公爵家の所領に来たのには訳がある。
それは、アリシアの所に、一通の手紙が届けられた事から始まる。
差出人は、元シ-ドル公爵家の屋敷があった町、ランゲルンにある教会のシスターマリンからであった。
その内容は、領主が変わり、町には領主が連れて着た、商人が幅を利かせるようになり。重税が課せられ。月日が経つうちに村々では、餓死する者が出始め、夜逃げする者、身売りをする者が現れ、村人達は領主に直訴したが聞き入れられず捕らえられ、男は鉱山送りとなり、女は奴隷として売られて行った。
残された子供達を、シスターマリンが引き取り、面倒を見ているが資金がつきて、子供達の食べる物にも事欠くようになり、何とか力を貸して欲しいと言う内容だった。
そこで、アリシアの強い希望で、シスターマリンの所に行く事になったのだ。
当初、フェスタ-騎士団の面々が、一緒に行くと言って効かなかったが、目立ちすぎる事から却下されて、アリシア、響、クロエの三人で行く事になったのだ。
「アリシア、シスターマリンの教会は、まだ遠いのか?」
「ランゲルンの郊外にあるので、あともう少し行った所です」
「それにしても、数か月でここまで荒れるものなのか……ここの領主は、何を考えているんだ」
響は、遺体を埋めている老人二人を見て近づき、埋葬を手伝う事にする。
遺体は、亡くなってからかなり日数がたつのか、白骨化が進んでいた。
「ありがとうございました。これで私達も思い残す事はございません」
老夫婦は涙を浮かべながら、響達に礼を言い立ち去ろうとする。
「あの、シスターマリンの教会まで、案内をお願い出来ませんか?」
アリシアは、夫婦の様子が気になり、このまま別れる事を危惧した。
「タイリン男爵、あの教会をどのようにするおつもりですか? あそこは、この領地を治める者が、庇護して来た教会です」
一人の騎士が、タイリン男爵の前に立ち、話しかける。
「その件は、大臣に任せておる。大臣の指示に従うがよい。さがれ!」
執務室のテ-ブルに座り、膝の上にメイドを座らせて、昼から酒をあおっている。
メイドは、震えながらタイリン男爵のされるがままに、我慢するしかないのだ。
「隊長、どうなりましたか?」
三人の騎士が、駆け寄る。
「話にならん…………大臣の指示どうり、教会を打ち壊すしかない……」
「ですが隊長、あそこにはシスターマリンと子供達しかおりません、大臣が言われるような不穏な動きなどありません!」
「だが、我々が行かねば、男爵鋭士隊が動く事になる……そうなれば……皆、生きてはいまい」
男爵鋭士隊とは、大臣子飼いの覆面部隊で、歯向かう者には容赦なく切り捨てる、悪名高い部隊なのだ。
数的にも、男爵鋭士隊五百に対して、元フェスタ-騎士団は、三分隊六十名しかいないのだ。
そして、汚れ仕事を命じられるのは、いつも元フェスタ-騎士団に対してであり、今までに辞めて行った者は数知れず。そんな中、後ろ指を指されながらも、血を流さない様にと残った者達なのだ。
「ここが、シスターマリンの教会で御座います。おお、シスターマリン……お客様をお連れしました」
老夫婦は、畑仕事をするシスターマリンと子供達を見付ける。
「あっ…………姫様……よくぞご無事で…………」
畑仕事の手を止めて、涙を流しながらアリシアに駆け寄る、シスターマリンの姿は、前にアリシアが会った時とは違い、ヤツレ年老いていた。
「シスターマリン…………」
アリシアは、シスターマリンを抱きしめ、今まで我慢していた感情が、溢れるかのように涙が流れて来る。
「わしらはこれで失礼します。後でシスターマリンに、これで最後となりますが、食料を取りに来るようにお伝えください。」
老夫婦は、アリシアとシスターマリンの様子を見て、響に伝言を伝える。
「急ぎの用事がなければ、一緒にお茶でもどうですか? インスタントですけど……」
様子がおかしい老夫婦を、このまま帰す訳には行かない。
「インスタント……」
「お茶は、久しぶりです。あなた、最後に頂いて行きましょうよ」
奥さんの方は、何かを思い出した様に、喜んでくれているようだ。
「皆さん、教会の中にお入り下さい。さ湯しかありませんがどうぞ」
シスターマリンは、涙をぬぐいながら教会の中へと、案内して行く。
教会の中には、小さい子供達が二十人程いた。
外で畑仕事を手伝っていた子を入れると、二十八人だ。
「シスターマリン、お茶は俺が入れますよ。後、食事も用意しましょう。誰か手伝ってくれるか!」
響の『食事』と言う言葉に、子供達が集まって来る。
何を作るのか興味深々だ。
響は、ポーチからお馴染みのレーションを、人数分よりも多く取出し封を開けて、メインメニューのパックを、水を張った大鍋に放り込んで行き火にかける。
響を取り囲んで見ている子供達に、クラッカーのパックとスプレッドを渡し、手本代わりにクラッカーの間にスプレッドを、挟んで食べて見せる。
それを見た子供達は、見よう見まねでクラッカーに、かぶりついている。
湯が沸いたところで、カップにコ-ヒ-とミルク、砂糖を多めに入れて、アリシア達にクラッカーとスプレッドを一緒に持って行く。
「どうぞ、砂糖多めなので、甘いですよ。クラッカーは、アリシア頼むよ」
「はい」
響は、アリシアに任せて子供達の所に戻った。
「何ですかなこれは、苦みの中に甘さとまろやかさがある……」
「ほんとですね、あなた。初めて味わう物ですが、美味しい」
老夫婦も気に入ったようだ。
シスターマリンは、久しぶりの来客と子供達の喜びように、胸がいっぱいになる。
子供達が目を輝かせて喜ぶ姿は、引き取って以来初めての事だから。
「いつも食料をありがとうございます。ところでお二人揃って、どうされたんですか」
教会の子供達の食料を、今までこの老夫婦が調達し、教会へ寄付してくれていたのだ。
「シスターマリン……やっと息子の遺体の埋葬許可が出て、先程この方達に手伝って貰い、埋葬した所です……」
「そうですか…………やっと……」
シスターマリンは、神に祈った。
この老夫婦の息子は領主に直訴して見せしめに、その遺骸を長い間さらされていたのだ。
「シスターマリン、家の方に食料を用意して置きますので、今回は取りに来ていただけますか」
「あなた達、まさか…………」
自分達の事も、どうしていいか分からない、シスターマリンに何が言えようか。
「心残りも無くなりました。二人で旅にでも出ようと思います」
老夫婦は、メインのメニューを取り合う子供達を見て、昔を懐かしそうに思い描いていた。
「新しい希望って言うのも、いいんじゃないですか?」
響は、食事を老夫婦たちに配りながら、アリシアに笑いかける。
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教会の前に、騎士六十名が隊列を組んでいた。
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