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38.ランゲルン消失

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 ランゲルンの町中で、鋭士隊四百名が突如消え去る。
 そんな事が起きているとは知らない、タイリン男爵の執務室では、相変わらずメイドにセクハラを行い、楽しんでいるヘン・タイリン男爵の姿があった。

 「タイリン男爵大変です! 鋭士隊四百名が消えました!」
 男爵の執務室に飛び込んで来たのは、タイリン本家より連れて来た騎士だ。

 「ガンド大臣は、どこに行った!」
 メイドを触るのを止め、椅子から立ち上がる。

 「はい、鋭士隊百名を連れてシ-ドル騎士の後を追って、教会に向かいました……男爵、ここには我ら近衛騎士三十名だけしかおりません。もしもガンド大臣が亡くなっていれば、シ-ドル騎士と民を相手に、我らだけで戦わねばなりません。ここは一度お父上の所に行き、兵を整えてから戻ってはいかがですか?」 

 タイリン男爵が、ランゲルンの町に来た時は、父親の兵士五百を引き連れていたが、ガンド大臣が家臣となってから、近衛騎士三十名を残して後は国へ戻っていた。

 「分かった。金目の物を集めよ。用意出来次第父の元へ行く、用意するのじゃぁ~」
 近衛騎士とメイド達は、荷物をまとめる作業に入った。

 

 シスターマリンの教会では、アリシアとフェスタ-騎士達が、再会を喜び合っていた。
 響は、クロエに怯えている子供達の、ご機嫌を取るためにお菓子やジュ-スを出して、クロエに配らせた。
 お菓子やジュ-スを、恐る恐る受け取り口へと運んだ子供達は、その美味しさに笑顔を取り戻して、一人二人とクロエの元に集まり懐き始めた。
 
 うんうん、良かった、良かった。
 オッパイ揉まれてるけど…………

 「ティスいるか?」
 クロエと子供達のたわむれを見ながら、響は交信をする。

 「はい、マスター何ですか?」
 
 「建物の設置は、どうなっている?」

 「城下町は、二割程度ですが、アルン村の拡張は順調です」

 「受け入れ可能な人数としては、どのくらい行けそうかなぁ~」

 「…………二千名程でしょうか」

 「…………」

 ここに来るまでにアリシアから聞いた話によると、元シ-ドル公爵の領民の数は十万、現在は所領が半分になっているので、単純に計算しても領民が五万人いる事になる。

 しかし、受け入れ出来る人数は…………二千かぁ…………どうする?
 
 「ティス、五万人受け入れるとしたら、準備にどれだけかかる?」

 「現在のレベルで、建物を設定するのであれば、三年でしょうか」

 今のこの現状で三年放置すれば、ここの領民の餓死者は増えるだろう。
 だからと言って、三年も住む所もなく生活させるのか……
 移住先があったとして、領民全てを移住させてもいいのか?
 中には、犯罪者、悪党、スパイ等もいるだろう…………
 対策を考える必要がある。
 
 
 
 シスターマリンと子供達、そして教会は、安全を考えて既にアルン村に転送した。
 騎士達には『生体認証チップ』を、首筋に埋め込み。ランゲルンの偵察に行ってもらった。
 このチップを埋め込む事で、琴祢による思考、動向、生体監視とアルン村への転送が可能となる。
 
 「姫様、ランゲルンの領主、近衛騎士、領主が連れて来た商人等が、領主の父親の元へ向かったようです。そしてその隙をついて、盗賊、野党等のならず者が、略奪、誘拐を行っていたので、現在、騎士団が討伐中です」
 騎士の一人が、ランゲルンの偵察から帰ってくる。

 「アリシア、君の屋敷を取り返しに行こうか……」
 
 「はい」
 響は、王都の時と同じように、シ-ドル公爵家の屋敷を取り返すため、ランゲルンに向かった。

 

 十日後、ヘン・タイリン男爵は、父から借り受けた兵六百と、一緒に逃げた商人達を引き連れて、ランゲルンの町近くまで戻って来ていた。
 
 「これで、フェスタ-騎士を倒して、今度こそ思いのままにしてくれるわ!」
 今までは領民の謀反を警戒して、フェスタ-騎士達を残しておいたが、今のヘン・タイリンにその考えはない。

 「男爵様! ランゲルンが…………消失しました!」
 物見に出ていた兵士が、息を切らしてタイリン男爵に伝える。

 「何じゃと! 皆、急ぐのじゃァ~」
 タイリン男爵は、急ぎランゲルンへと向かう。

 シスターマリンの教会が有った場所から、西にある丘の上に立つと、ランゲルンの町並みが見える。
 タイリン男爵が、その丘に立った時に見た先には、野犬が走り回る広大な土地に、監獄の建物が一つ有るのみだった。

 「これは、どうなって…………」
 呆然と立ち尽くすタイリン男爵であった。

 「とりあえず、あの建物に物見を送れ」
 タイリン男爵の指示で、二十名の騎兵が送り込まれる。

 騎兵が監獄に近づくと、監獄側から騎兵に向けて、弓矢が射かけられる。
 騎兵六人が弓矢の餌食となり、慌てた騎兵達は馬のきびすを返して逃げ帰る。
 
 実はこの監獄の中には、響が危惧していた犯罪者、悪党、スパイ等、三百名弱の男女が武器持ちで、立て籠もっているのだ。と言うのも当所、建物を設定するのに三年かかるはずだったが、現在ランゲルンにある建物を、そのまま転送するのであれば直ぐに出来る事が分かり、領民に事情を説明してまずは、全員に『生体認証チップ』を埋め込み、三日間情報収集して犯罪者、悪党、スパイ等をあぶり出し、監獄へ封じ込めたのだ。その後領民と建物を順次、第一ブロックの大陸に転送していった。

 そして、ランゲルンの領民達の転送が終わるのを、待っていたかのように、タイリン男爵の部隊が戻って来た。
 だが、領地に点在する村に付いては、転送するのにまだ時間が必要だった。
 そこで、監獄を解放して食料と酒、そして武器まで渡してやったのだ。
 酒を飲み飯を食い武器を持てば気が大きくなり、今回のように騎兵が不用意に近づけば、弓矢を射かけるのは、彼らにとって当然の行為なのだ。

 その後、タイリン男爵が父に兵の増援を頼み、監獄を鎮圧するまでには一ヶ月かかるのであった。

 この一ヶ月と言う時間は、点在する村の領民を転送するのに、響達にとっては十分な時間であった。
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