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39.石化したリング

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 タイリン男爵から取り返した屋敷には、亡くなった両親との思い出が、数多く刻まれている。
 この屋敷を出て、王都に向かった時には、まさか一人で戻って来るとは思っても見なかった。
 アリシアは自室のベッドで横になり、石化したリングを左手の中指にはめる。
 このリングは、シスターマリンから渡された物で、シ-ドル家の祖先が魔王討伐の時に、身に着けていた物らしく、石化する前には氷属性の精霊が、このリングに宿っていたとの事だ。
 しかし、祖先の身代わりとなり、精霊は消え去りリングは石化したらしい。

 「これから、私は、どうしたらいいのでしょう…………こんなに遠くに離れてしまって……響さん」

 響の王都アルンから、ここシ-ドル公爵領まで、距離にして三千八百キロ、馬で二十日の距離となる。
 王都アルンの響の元に行きたくても、領主となったアリシアにとって、おいそれと会いに行ける距離ではない…………

 「姫様、響様より『食堂と甘味処の方へは、何時から出れる?』と連絡が有りました」
 メイドが、アリシアに伝言を伝えて立ち去る。

 「………………そうでした」
 
 

 話は前後するが、タイリン男爵領から領民と建物を、根こそぎ響の『ヒビキ王国』に転送するのに、王都アルンに近すぎると、領地問題が発生する恐れがあったので、王都アルンとシ-ドル公爵領の距離を取ったのだ。

 ここでアリシアの勘違いが発生する。

 遠く離れた響とは、そうそう会う事が出来ないと思っていたのだ。
 しかし、琴祢を介して転送して貰えば、いつでも王都アルンに行く事が出来るし、アリシアは、ランベル王国の王都サリュースにある、食堂と甘味処の店長なのだ。
 一仕事済んだら、毎日でも出勤して貰わないと、響も困るのだ。
 現に、アリシア押しの男達が、毎日のように店に来て、響に文句を言って帰って行くのだった。

 今回の一件で、色々と決まったり、変わったりした事がある。
 亜空間第一ブロックの呼称を『ヒビキアイランド』。
 アルン村を王都アルンに変更。
 アリシアを、公爵に任命。所領を与えシ-ドル公爵家を再興した。
 今回連れて来た領民、四万二千六百五十八人は、元々シ-ドル公爵の領民なので、シ-ドル公爵領の領民とした。
 因みに王都アルンの人口は六百四十名程だ。

 通貨の流通に関して、王都アルンでのストック分は出来たが、シ-ドル公爵領で流通させりには、人口が多すぎるため、当面は、無税、食料、生活用品等配給性にした。
 


 「響、かつ丼はまだなのか? 早くしろよ~!」
 「水、ねえぞ!」
 「アリシアさんは、いつになったら来るんだよ~」
 「酒もねえのに、毎日来てやってんだぞ!」
 「アリシア持って来い!」
 
 おいおい! 

 響、こいつらやっちゃっていい
 
 「クロエお前、出てくんなよ!」
 響は、思わず大声を出してしまう。

 「すみません。遅くなりました」
 アリシアは、エプロンの紐を結びながら、厨房から出て来る。
 相変わらずメイド服姿が、可愛いい。

 アリシアが入ってくると、店内の雰囲気が穏やかになる。

 「注文いいですかぁ~」

 「はいはい」

 「お前じゃぁねえよ~」
 注文を響が取りに行こうとすると、その男は鬼の形相で響を睨み付ける。

 「はい、何に致しましょうか」
 キラキラとした雰囲気の、アリシアが注文を取り始める。

 「丼ぶり全種類で!」
 
 「三種類全部ですか?」
 アリシアは、心配そうな顔で男の目を見つめる。

 「だっ大丈夫であります!」
 立ち上がり、直立不動の姿勢で、男は答える。
 
 「こっちも! 全種類で!」
 「「「こっちも!」」」
 「俺は、全種類二セットで!」
 「俺は、全種類三セットだ!」
 対抗意識を燃やす男達。

 「みなさん、あまり無理をしない様にして下さい」
 アリシアの声に、男達は押し黙り、ニヤニヤしながら見つめるのであった。

 こいつら、俺の時と全然扱いが、違うじゃねえかぁ~

 一人の男が、アリシアの指にハメられたリングを見て、声を上げる。

 「アリシアさん! その…………手のリングは…………」
 店内の男達が一斉に、アリシアの手に注目する。

 「これは、先日頂いたものです…………ね,響さん」
 アリシアは、シスターマリンから渡される所を見ていた響に、確認の意味で念を押す。

 いいや~その聞き方間違っているから~アリシアさん!
 ほら! 男達みんなの目が血走ってる~
 おいおい、ナイフは置こうよナイフは…………

 「響くん、アリシアが言ったのは、ほんとなのかい? 私はあなたを冒険者組合に入れてあげたのに、まだ何も貰っていないんだけど! どういう事かなぁ~」
 マリア組合長が、響の後ろから詰め寄る。

 「…………」

 「キャァ~マリア様とあの男は、そんな関係だったの~」
 マリア組合長ファンの女性が、何を勘違いしたのか騒ぎ始める。

 響は四面楚歌の、危うい立場となった。
 
 「みなさん、そのリングは私がアリシア様に差し上げた物ですよ」

 子供たちの為に、クレープを買いに来ていたシスターマリンに、響は窮地を救われる事となる。
 言うまでもないが、子供達のクレープの代金は、響の支払いとなった。

 その後、店の外にはアリシアの噂を聞き付けた、男達の長蛇の列が作られていた。



 おい響、あのアリシアのリングは、どうしたんだ…………

 あれはこの間、シスターマリン達を助けた時に、シスターマリンがアリシアに渡していたリングだ。
 そう言えば、お前が子供達にオッパ…………菓子を渡している時だ。

 響、あのリングは、『ナインリング』の一つなんだよ!

 あれが…………

 響は、忙しく走り回るアリシアのリングを見た。
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