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48.ダンジョン捜索7 壊れた宝石箱

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 キングワ-ムが溶解液を吐き出しながら、土や岩を溶かして地中を進む事を、知る者は少ない。
キングワ-ムの表皮は水分を吸い、硬度が急激に低下している。
 しかし、ア-リンの矢は底を付き、モカの魔素も少なくなり疲れてていた。
 ジュリアンとクロエは、キングワ-ムが吐き出す溶解液にはばまれて、近づく事が出来ない。
 
 「響、アンタ何してんだい?」

 「オ-ブに送り込む魔素がもうないから、亜空間エネルギーを送り込んでんだよ。魔素も亜空間エネルギーも、同じような物だろ」

 人間誰しも思い込みと言う物は、それを知る者にとっては、恐ろしく怖い恐怖感を感じさせ、知らない者にとっては、たのもしく感じさせるものである。

 怒り狂っていたキングワ-ムが、響達の攻撃が止んでいるのに気づき、響達の方に頭を向ける。
 その時、響の持ったオ-ブが『バチバチ』と火花を上げ始め、オ-ブの蓄積容量の限界を知らせて来る。

 「響さん、危ない!」

 響に駆け寄り、限界を迎えたオ-ブを響から奪い取ったア-リンは、自分の手の平が焦げる痛みを我慢しながら、向って来るオ-ブに向けて、渾身こんしんの力を込めてオ-ブを投げ付け、ア-リンは気を失い倒れこむ。

 投げられたオ-ブは、キングワ-ムに当たると砕け散り、その中に込められた亜空間エネルギーのいかずちを、水分を含んで巨大になったキングワ-ムの体に落とし、体の中枢を焼け切られたキングワ-ムは、その巨体を地面に叩き付け絶命した。

 「ア-リンさん! ア-リンさん……琴祢、ア-リンさんを至急メディカルルームに転送してくれ!」

 響は、倒れたア-リンに駆け寄り、思っていたよりも華奢きゃしゃな体を抱き起こし、呼んでも起きないア-リンを見て、自分が行った行為を悔やんでいた。

 魔素は、エネルギーの他に、物質に影響を与える別の力を持っている。
 それに比べて亜空間エネルギーは、亜空間で発生したエネルギーを、集約して取り込んだエネルギーとして考えられている。
 だから、同じオ-ブに魔素と亜空間エネルギーを混ぜて使ったときは、響のようなレベルが低い冒険者でもオ-ブを使う事が出来て、オ-ブから水が湧き出した。
 そして、亜空間エネルギーだけを注入すると、オ-ブは容量限界を迎え砕け散り、エネルギーが放出されてしまったのである。



 「クソ! キングワ-ムもやられたか……だが、ここは通さんぞ! 人間風情が我らに敵うはずがない…………」
 岩の下敷きになり気を失っていた悪魔は、腰のサ-ベルを抜き響達に向かって来る。

 ジュリアンとモカは身構え、クロエは向かって行こうとする。

 「俺が行く!」
 響は、皆を制して走り出す。

 リミッター解除4……

 カッツバルゲルを右手に持ち、リミッターの解除レベルを上げる。
 走るスピ-ドが上がり、向かって来る悪魔の横をすり抜けながら、悪魔が繰り出すサ-ベルをぶった切り、カッツバルゲルはそのまま悪魔の横腹を切り抜いた。
 悪魔は、最後の力を振り絞り、天井に向けてダ-クショットを、撃ちまくり出す。
 天井を崩して、響達を道ずれにしようと言う魂胆こんたんだ。
 響は、きびすを返して悪魔の後ろから切り付けて右腕を斬り落とし、振り向く悪魔の口の中に、とどめのダガーナイフを突き刺した。
 
 「響、アンタこの短い間に随分と、レベルを上げたね~」

 「そうか……」

 クロエの見た響のレベルは、最後に悪魔を倒した段階で、五十レベを超えていた。
 響はまだ何とも感じていないが、この数字は脅威的な数字と言えた。
 冒険者歴十五年のジュリアンでさえ、四十レベなのだから。

 琴祢、ア-リンさんの様子はどうだ?

 大丈夫だよ、メディカルポッドで十日も休んでいれば、手の火傷は完治するよ。

 十日……かぁ…………琴祢、キングワ-ムの溶解液の回収と分析を頼む。

 傷が感知すると分かった安堵と、負い目の狭間で考え込む響であった。



 「お~い! こっちに来てくれ」

 キングワ-ムが飛び出して来た穴から、ジュリアンが大声で呼んでいる。

 響は、穴に入りジュリアンとモカに、ア-リンの様子を伝えた。
 二人とも安堵の表情を浮かべ、落ち込んでいる響を慰めてくれた。
 しかし、あの時一旦撤退して作戦を立て直す事を、何故考えなかったのか悔やむ響であった。
 


 穴の奥に踏み入ると、そこは氷で覆われた世界が広がり、響のコ-トの光が当たると、さらに幻想的な光景が、響達の目の中に飛び込んで来た。
 そしてその先の岩の上には、凍り付いた小さな宝石箱が置かれていた。

 「この箱は…………それ!」

 クロエは、凍った宝石箱を手に取り、回しながら状態を確認している……のかと思いきや、地面に叩き付けて壊してしまう。

 「「「…………」」」
 
 「何やってんだ、お前!」

 響は、壊れた宝石箱に近寄り、壊れた破片を拾い集める。
 
 「ん? なんだこのリングは…………」

 ジュリアンは、拾ったリングを摘み上げると、そのリングには、葉っぱの絵柄が刻み込まれ、凍り付くような冷たさを、ジュリアンの指に伝えて来る。

 「それ、あたしにちょうだい!」

 モカが、ジュリアンに飛び付き、リングの争奪戦が始まる。

 「遊んでるんじゃないよ!」
 クロエは、二人の後ろから近づき、リングを取り上げてしまう。
 残されたジュリアンとモカは、喧嘩していた兄弟が母親に叱られた後のようにだまり込み、リングの行方を目で追っていた。
 本当の所は、クロエを怒らせるのが、怖いのである。

 クロエは響に近づき、おもむろに響の右手を掴んだかと思うと、響の中指にリングを無理やりハメてしまう。

 「やめろよ! 冷たいなぁ~!」

 響は、逃げようとしたがクロエには敵わず。中指にハメられたリングは、クロエの時と同じように、響の指に吸い込まれるように、リングは消えてしまった。
 
 しかし、その後いくら待ってもクロエの時のように、何かが現れる事もなく。
 リングの冷たさだけが、響の指に伝わって来るのだった。
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