上 下
49 / 95

49.ジュリアンの災難

しおりを挟む
 ア-リン・リドルは、裸でメディカルポッド内のナノマシン安定溶液にかり、傷の治療を受けている。
 当初、手の損傷だけだと思っていたが、いかずちの電流は手を伝い、ア-リンのしなやかな体も傷つけていた。
 その為、メディカルポッドでの治療に、変更となり十日が経っていた。

 ナノマシン安定溶液には、細菌や細胞よりもひとまわり小さい、ナノマシンが数百万個含まれている。
 そのナノマシン安定溶液をメディカルポッド内に満たして浸かる事で、怪我を細胞レベルで個々に治療して行くのだ。

 「彼女の様子は、どうかな?」
 響は、この十日間毎日のように、ア-リンの見舞いに来ていた。

 「はい、順調です。あと五日程で、ポッドから出られますよ」
 ティス付きのメイドロイドが、端末を操作しながら、傷の治癒ちゆ状況を確認する。

 「響…………アンタ、プライバシーシールドを外して、ア-リンの裸を見ようとするんじゃないよ!」
 酒瓶を持ったクロエが、響の背中に抱き付きながら、ア-リンのポッドを覗き込む。
 
 「なっ、何を言っているんだ! て言うか酒臭い! お前、昼から酒飲んでるのかぁ~」
 響は、背中に当たる二つのふくらみよりも、思いもしていなかったア-リンの裸を指摘され、意識して焦ってしまった。
 
 「ジュリアン達のやけ酒の相手をしているだけだよ」
 クロエは、酒を一口あおり、響に抱き着いて来る。

 「えっ、ジュリアン達が来ているのか…………」
 
 ダンジョンで別れてから、ジュリアン達がア-リンの様子を見に来たのが一度だけ。
 一度しか見舞いに来なかった事に、響は少し寂しさを感じるのだった。
 
 クロエは、ムッとする。
 何故ならば、最近の響は前と違って、幾らまとわりついても、アリシア、ア-リン、ティスとクロエの扱いが違うからだ。
 
 「何落ち込んでいるんだい! アンタも行くよぉ~」

 「…………!」
 クロエに、首根っこをロックされ、響は連れて行かれた。





 「何なんだよぉ~! うぃっ…… おれらぁっがぁ~やっけたんだぁ~ぞ~何で全部もって……行くん~だぁ~なぁ! モッカ」

 「そうでしゅよぉ~リャァダ-…………」
 亜空間ベース『レオン』内の食堂で、酒を飲んでいたジュリアンはくだを巻き、モカは寝てしまった。

 この二人が、酒に溺れているのには訳がある。
 一つは、『レオン』内の食堂であれば、タダで飲める事。
 そしてもう一つは…………

 ダンジョンの脅威を取り払い。
 ジュリアンは、ダンジョンで手に入れた武具や宝石を、響に言って『ファルコン』裏の納屋に転送してもらった。
 『ファルコン』とは、王都サリュースの元宿屋、アリシア店長の店『サミット』と『あずき』が入る建物に、名前が無かった事から町の人達が勝手に、ジュリアン達チ-ム『ファルコン』が拠点きょてんにしている事から、人知れず『ファルコン』と呼ばれるようになっていた。

 ジュリアンとモカは、その武具を高値で売る為に、毎日毎日せっせと磨いていた。
 しかし、今日の朝、マリア組合長がジュリアンの元を訪れて…………



 「マリアどうした。報酬でも持って来たのか?」
 ジュリアンは、椅子に座りテーブルの上に置かれた、ヘルムを磨いていた。

 「ジュリアン! どう言う事。第六ダンジョンが水没したのよ!」
 ジュリアンの前に立ったマリアは、机をたたきジュリアンをにらみ付ける。

 「水没? マリア何の事だ?」

 「君達が、ダンジョン内の魔物を倒した翌日に、ダンジョン内を確認させたら、四十六階層までが水没していたの。それから色々と調べさせたけど、原因がわからず…………今朝、全ての階層が水没したの」

 「「………………」」

 「ジュリアン、ダンジョン内でオーブを使ったと聞いたが、そのオーブの処理はどのようにした?」
 ダンジョンから帰って来て直ぐ、ジュリアンはマリアの所へ依頼終了の報告をしていた。

 「それは………………」
 ジュリアンは、十日前の事を思い返す。

 キングワ-ムを倒し穴の奥に踏み入ると、凍り付いた小さな宝石箱が置かれていた。
 その奥にも、武具、宝石、金貨銀貨等が、山のように積まれていたのだ。
 そしてその全ては、今ジュリアンの横にある。
 
 財宝を転送した響は、ア-リンがいる『レオン』に向かい。
 ジュリアン達は、ダンジョン内に残る冒険者に、引き上げの連絡を入れた後、ダンジョンから引き上げる。
 その際に、水があふれ出るオーブをジュリアンは、小さいキングワ-ムが逃げる時に地面に開けた穴に、蹴り飛ばし放り込んだのだ。

 「「あぁぁぁ………………!.」」
 ジュリアンとモカは、顔を見合わせる。その後では、マリアが不審そうな顔付で、二人を見ていた。

 ジュリアンはマリアに、詳細について事細かく説明した。罪を軽くするために。

 「なるほど……ジュリアン、君はオーブをキングワ-ムの穴に………………それで、水没か……分かったわ。後はこちらで対処しましょう。でこれらが持ち帰った物?」
 マリアは、武具、宝石、金貨銀貨の山を見て、何かを考えていた。

 そして、一旦組合に帰ったマリアは、昼前にジュリアンの所に、十人の警備兵を連れてやって来た。

 「ジュリアン、財宝は全て没収よ! 全て運び出して、公爵の所に持って行って」
 警備兵は、宝石や金貨銀貨を先に運び出し、外に止めてある荷馬車に運び込む。
 店の外には、相手が腕利きの冒険者と言う事もあり、荷馬車を取り囲むように、二十人の警備兵が警戒していた。

 「マリアこれは、どう言う事だ! 警備兵なんか連れて来て…………」
 マリアは、冒険者組合の組合長である。冒険者を引き連れて来るのなら理解は出来る。しかし、警備兵をわざわざ連れて来た事が、ジュリアンには理解出来なかった。

 「ダンジョンを水没させた賠償金だよ……それとも、牢獄行きが良かったか?」
 マリアは、『仕方ないんだよ』と言った表情で、ジュリアンに問いかける。
 ジュリアンも、マリアのその表情を見て理解した。
 マリアが公爵と、ダンジョンを水没させた責任と引き換えに、財宝を全て差し出す取引をした事を…………
しおりを挟む

処理中です...