NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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52.クロエの涙

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 太陽の日差しが目にまぶしい。
 響は、見覚えのある浜辺に一人立っていた。
 東にやしろ、ゆっくりと西に向くと、その先には平屋の一軒家がある。

 「ほぉ~あれがお前の生まれ育った故郷か? 我の世界とは違う物だな」

 何処からともなく、男の声がする。
 クロエの悪戯いたずらかと思ったが、そうでもなさそうだ。

 「お前は誰だ? 前にも同じ事があったけど……クロエじゃないだろう?」

 「クロエかぁ………懐かしい名をこの様な所で聞くとは、思ってもいなかったぞ。それに、我が目覚めると言う事は、死んだのだな………」

 「死んだ………誰が、死んだんだ! ん?………」

 響は、自分の家族が亡くなったのではないかと焦り出す。
 だが、落ち着いて考えてみると、クリスタルのメンテナンスをしていた事を思い出す。

 「死んだと言うのは、お前の家族ではない。我が死んだのだ」

 「えっ、俺の考えが分かる………あぁぁぁ、そうかこれはユメだ。夢」

 自分の考えが、相手に伝わっている事に驚く響だったが、夢であれば不思議ではない。
 そもそも、クリスタルのメンテナンスのために、眠っているのだから。

 「そうだな、夢と言えば夢かもしれん………夢の間、お前の体を借りるとしよう」

 「リアルな夢だな~」

 こう言った時の響は、余りにも危機感がないのであった。



 現在、ガズール帝国では、王と第一王子が病の為、第二王子が政権を取っている。
 だが、秘密機関タンバの調べでは、第二王子が秘密結社アーネストと裏で手を組み、王と第一王子をいずれかに幽閉ゆうへいしている事が分かった。
 そして、ガズール帝国では、ランベル王国との戦に向けて戦力を増強し、ランベル王国との平和条約を一方的に破棄して、攻め込む魂胆なのである。
 秘密機関タンバでは、ランベル王国と協力して第二王子を討伐し、王と第一王子を助け出す事にしたのだ。

 「話は以上です。………ガルニア殿、お願いしたい事が………仲間の………仲間の救助に兵を貸して頂きたい。生きているかどうか分からなくても、遺骸の回収だけでも………」
 
 シアンは、服の裾を握りしめて、涙を浮かべながらガルニアに懇願した。

 「いいでしょう。後、もう一人いた君の仲間は、今何処にいるのですか? 早く助けてあげないと」

 「………………」

 ガルニアに、マゼンタの事はまだ話していない。
 シアンは、袖口から短剣を出すと、ガルニアに向かって投げ付ける。
 ガルニアが短剣を避けるスキを突き、シアンは窓ガラスを破り建物の外に逃げ出して行った。

 「後を追い、二人共始末しろ。」

 ガルニアは、笑みを浮かべながら、近づいて来る執事に命令を下す。
 密書を受け取り、シアンから話を聞いたガルニアは、用が無くなったシアンに、敵である事が分かるように話をし、ワザと逃がしたのだ。
 まとめて始末する為に………

 「畏まりました」

 執事は、三人の男達を引き連れて、庭を走り、壁を飛び越えてシアンを追いかけて行った。
 その走る速さは、人間とは思えないスピ-ドと跳躍力であった。



 「ティス! マスタ-のバイタル異常! 体温・呼吸・ 脈拍・血圧が、どんどん上がってる………」

 「………………琴祢、熱量を下げる為に、メディカルポッド内を冷却して!」

 ティスの目の前にあるメディカルポッド内では、響の体から発せられた熱で、ナノマシン安定溶液が沸騰し始めて、泡が体の周りから沸き始めていた。

 「緊急冷却!」

 響の入ったメディカルポッド内が一瞬で凍つく、普通の人間であれば死ぬかもしれないが、生体強化を受けている響である………
 大丈夫なのであろう………?
 琴祢は、躊躇ちゅうちょする事なく凍らせてしまう。

 「………琴祢、バイタルはどうですか?」

 メディカルポッドの中がどうなったのか、ティスが外から見ただけでは確認出来ない。

 「あれ? バイタルの反応がない……て言うか………食堂にマスタ-の反応が!」

 「琴祢、貴方が転送したの?」 

 「………転送じゃぁない………転移したんだよ!」 

 ティスは、メディカルルームを飛び出し、食堂へと走って行く。

 食堂では、クロエとジュリアンが酒盛りの最中で、モカは既に酔いつぶれてテ-ブルで寝てしまっていた。
 そんな三人の目の前に、オ-ラを纏った素っ裸の響が現れる。
 クロエとジュリアンは、お互いに目を合わせて笑い始めるのだった。

 「響ぃ~ お前にそんな、ウッ……お茶目な所があったとわな~ 俺も驚きだぁ~」

 「アンタ、前ぐらい隠しなよ~」

 「おい! クロエそれは………俺のマントだそぉ~」

 裸の響にクロエは、椅子にかかっていたマントを投げ付ける。
 マントを受け取った響は、股間に目をやり、素直に腰に巻き付けて隠すのだった。

 そこに、ティスがメディカルルームから駆け込んで来る。
 
 「………………」

 響を見たティスは、響の異様さに身動きが出来ない。
 体からオ-ラが湯気ゆげのように湧き出し、響の体を覆っているのだ。
 何が起きているのか、まったく理解出来なかったのだ。

 流石に酔っているクロエとジュリアンも、いつも冷静なティスが見せている、驚きの表情を前にして、響の異様さにようやく気付くのである。

 「久しいなぁクロエ、よくぞ無事に戻った!」

 聞き覚えのあるしゃべり方………異様な威圧感………姿は響であっても、目の前にいるのは、響ではないのだ。
 クロエは、走馬灯のように思い出す。二千年以上前の事を………
 自分が初めて魔王の前に立った日の事を………

 「魔王様………………」

 涙を流すクロエをよそに、身構えるジュリアンとティスであった。
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