極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~

葉月 まい

文字の大きさ
10 / 13

お揃いの気持ち

しおりを挟む
6月の下旬。
ハルは主演ドラマが放送最終日を迎え、宣伝の為に朝からTVジャパンに来ていた。

朝7時代の情報番組から始まり、夕方までずっと局に缶詰めで、次々と生放送の番組に出演する。

「水曜ドラマ『悲しみの果て』いよいよ最終回です。本日夜9時スタート。驚きのラストシーンをどうぞお見逃しなく!」

朝から何度も繰り返している締めの言葉で、予定されていた全ての出演を終えた。

「お疲れ様でした。ありがとうございました」

ハルはスタッフに挨拶をしてから、控え室に戻って着替えた。

「ふう、疲れた…」

時計を見ると、18時半だった。

(倉木さん、今は夜の報道番組の準備してるのかな?)

ドレッサーで頬杖をつきながら、ぼんやりと考える。

同じ局に来ているだけでもドキドキだったが、廊下を歩く時には、倉木とすれ違わないかと1日中ソワソワしていた。

(報道のスタジオは多分この階だと思うけど、さすがにまだ入り時間には早いものね)

さてと、帰り支度をしようと、ハルはバッグに荷物を詰めていく。

(あれ?ハンカチ、どこに入れたっけ?)

サイドポケットに入れていた、倉木とお揃いのハンカチが見当たらない。

おかしいな、とゴソゴソ探るが、やはり見つからなかった。

(えっ、どうして?まさか、失くした?)

半泣きの表情で、必死に探す。

念の為、衣装のポケットも見たが、やはりない。

(待って、落ち着いて思い出して。えっと、今朝確かにカバンに入れたわよね。本番前に、お守り代わりにハンカチを握って、またカバンにしまって…。あ!ランチのあとにお手洗いに持って行ったんだった!)

急いでお手洗いまで見に行ってみるが、どんなにあちこち探しても見当たらなかった。

控え室に戻り、どうしようかと考える。

(大切なハンカチなのに…。落とし物で届けられてるかな?誰に聞けばいいんだろう)

その時、コンコンとドアがノックされた。

「はい、どうぞ」

てっきりマネージャーだと思ったのだが、「失礼します」と男性の声が聞こえてきて、ハルは思わず顔を上げる。

「お疲れ様です、谷崎さん」

「く、倉木さん?!」

突然の倉木の登場に、ハルは驚いてあたふたと立ち上がった。

「あ、あの、どうされましたか?」

「実は、これが廊下に落ちていまして。ひょっとしてあなたの物ではないかと」

そう言って差し出されたのは、間違いなくハルが探していたピンクのパイピングのハンカチだった。

「あ!はい、私のです。さっきからずっと探していて…」

「やっぱりそうでしたか。良かった。はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

両手で受け取ったハルは、次の瞬間、みるみるうちに顔を赤らめた。

「ん?どうかしましたか?」

「いえ、あの。その…」

ハルはうつむいたまま考える。

(これが私の物だと思ったってことは、倉木さんは気づいたのよね?このハンカチが、お揃いだってことに…)

きっとそうに違いない。

(どうしよう、勝手にお揃いのハンカチを持ってるなんて、ストーカーっぽいと思われたかな…)

黙ったままのハルに、倉木が怪訝そうに声をかける。

「谷崎さん?どうしたの?」

「いえ、あの…」

ためらってから、ハルは思い切って頭を下げた。

「すみません!私、倉木さんにお渡ししたハンカチとお揃いの物を勝手に持っていて…。気分良くないですよね?本当に申し訳ありせんでした」

しばらく沈黙が続き、ハルがますます身を固くした時、倉木のためらいがちな声がした。

「それなら、俺も謝らなきゃな」

え?とハルは顔を上げる。

「このハンカチを拾った時、すぐに君のことを思い出した。俺にプレゼントしてくれたハンカチと、お揃いの物を持ってくれてるんだって、嬉しくなったんだ。勝手に喜んでごめん。気分いいものではなかったかな?」

「…はい?」

ハルは思考回路が止まったように、何も考えられなくなる。

「どうしてですか?私がお揃いのハンカチを持っていると、なぜ倉木さんが嬉しく…?」

「んー、そうだな。多分、君と同じ理由だと思う。君が俺とお揃いのハンカチを持っている理由と」

「私の理由ですか?それはだって、私、倉木さんが…」

好きだから、と言いそうになり、慌てて口をつぐむ。

「いやいや、絶対に同じ理由ではないですよ」

「どうして?」

「だって、あり得ないからです」

「俺が君を好きなことが?」

サラリと口にする倉木に、思わずハルは目を見開いた。

「く、倉木さん。いったい何を…」

「ハンカチがお揃いなら、気持ちもお揃いだと思ったんだけどな。違った?」

「え、えっと、何が?」

「俺が君を好きだって気持ち。君とお揃いじゃない?」

倉木に真っ直ぐに見つめられ、ハルは考えるよりも先に言葉にしてしまう。

「私も、あなたが好きです」

「そっか。それならやっぱりお揃いだ。良かった」

嬉しそうに笑いかけてくる倉木に、ハルはただポーッと見とれる。

「また連絡するね。お疲れ様、気をつけて帰って」

「え?あ、はい」

まるで何事もなかったかのようなやり取りに戻り、シュルシュルとハルの気持ちがしぼんでいく。

(あれ?さっきのは空耳だったのかな…)

確か、俺が君を好きで、私もあなたが好きで…みたいな話、しなかったっけ?

ハルが首をひねっていると、ドアに向かおうとした倉木が思い出したように振り返った。

ハルのすぐ前まで来ると、身を屈めて耳元で囁く。

「今日からよろしくね。俺の彼女さん」

「はっ?!」

思わず素っ頓狂な声を出してしまい、ハルは真っ赤になる。

そんなハルにクスッと笑うと、倉木はハルの左の頬に軽くキスをした。

「じゃあね」

手を挙げて部屋を出て行く倉木を呆然と見送ったハルは、慌てて両手で左頬を覆う。

「ど、どうしよう。もう左のほっぺた洗えない」

倉木の唇の感触を思い出し、夢じゃないよね?と自分に確かめ、ハルは顔を真っ赤にしたまま立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~

美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。 叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。 日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!? 初回公開日*2017.09.13(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.03.10 *表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

処理中です...