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聖なる山
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「ここが、山頂?」
たどり着いた聖なる山の頂きは、命の気配すら感じられない、ただ灰に覆われているだけの場所だった。
土はなく、草もない。
砕けた岩と、火山灰が混じり合った粉塵は、踏みしめる度に乾いた音を立てた。
冷たく強い風が、ルシアス達に吹きつける。
どこに神が存在するというのか。
だがルシアスは、信じて祈るしかなかった。
フィオナを抱いたまま片膝をつき、高らかに告げる。
「聖なる山の神よ、あなたに我が身と魂を捧げよう。どうかあなたの娘、生命の巫女の命を繋ぎとめよ」
目を閉じると、心の中でフィオナに語りかけた。
(フィオナ、俺の命を受け取れ。俺の全てをそなたに捧げる)
祈り続けていると、フィオナの胸元の水晶が再び光の矢のように伸び、真っ直ぐに空へと吸い込まれていった。
そこからパッと青い光が弾け、余りの眩しさにルシアスは思わず顔をそらし、固く目をつむる。
しばらくしてそっと目を開けると、辺り一面は真っ青な光に包まれ、キラキラと星くずのような輝きがフィオナに降り注いでいた。
「……フィオナ?」
暖かく穏やかな風が、ふわりとフィオナの髪を揺らしたあと、フィオナがゆっくり目を開ける。
「フィオナ!」
「……ルシアス様」
視線を合わせて小さく呟いたフィオナに、ルシアスは声を震わせた。
「フィオナ、良かった……」
フィオナを胸に抱きしめて涙を堪える。
「ルシアス様、傷は?」
「俺は平気だ。そなたこそ、どこか痛むか?」
「いいえ、大丈夫です。良かった、ルシアス様がご無事で」
「生きた心地がしなかった。あれほど力を使うなと言ったのに……」
「わたくしこそ、全身の血の気が引きました。あなたを失えば、わたくしは生きていけません。ルシアス様、わたくしをかばってくださって、ありがとうございました」
「俺の方こそ、ありがとう、フィオナ。そなたの力で救われた」
もう一度ギュッと抱きしめてから、ルシアスはフィオナの身体を支えた。
「立てるか?」
「ええ」
二人で立ち上がり、辺りを見回す。
青い光は徐々に落ち着き、やがて黒い石碑が現れた。
「これは一体……」
二人が近づくと、フィオナの水晶が石碑に向かって光を放つ。
そこに青い、記号のような文字が浮かび上がった。
ⰁⰋ ⰕⰘⰅ ⰐⰀⰏⰅ ⰑⰗ ⰏⰀⰉ ⰃⰑⰄ ⰀⰉ ⰐⰀⰖ ⰁⰓⰅⰀⰍ ⰕⰘⰉⰔ ⰍⰖⰓⰔⰅ
「なんだ? この模様は」
眉根を寄せるルシアスの隣で、フィオナが小さく呟く。
「我が神の名において、今この呪いを解く」
「フィオナ、そなた読めるのか?」
「はい。なぜだか分からないのですが」
そう言ってフィオナは、再び石碑に目を落とした。
「Ⰰ ⰔⰑⰖⰎ ⰕⰘⰀⰕ ⰉⰔ ⰕⰓⰖⰎⰖ ⰁⰅⰀⰖⰕⰉⰗⰖⰎ
ⰐⰑ ⰖⰑⰐ ⰍⰀⰐ ⰔⰕⰅⰀⰎ ⰉⰕⰔ ⰓⰀⰄⰉⰀⰐⰍⰅ
真に美しき魂であれば、誰もその輝きを奪うことはできない
ⰁⰅ ⰖⰐⰄⰑⰐⰅ Ⱁ ⰁⰎⰀⰍⰅⰐⰅⰄ ⰘⰀⰐⰄ ⰑⰗ ⰄⰀⰓⰍ ⰏⰀⰃⰉⰍ
解かれよ、漆黒の闇の魔の手よ
ⰁⰅ ⰗⰓⰅⰅⰄ ⰀⰐⰄ ⰎⰅⰕ ⰖⰑⰖⰓ ⰎⰉⰗⰅ
ⰅⰐⰕⰅⰓ ⰕⰘⰅ ⰓⰀⰄⰉⰀⰐⰕ ⰎⰉⰃⰘⰕ
放たれよ、そなたの命を眩しき光の中へ」
するとまたしても、フィオナの胸元で水晶が輝く。
その光はルシアスの身体を包み、黄金の細かな輝きがルシアスの頭上に降り注いだ。
光が落ち着くと、フィオナがルシアスの右手を見て目を見開く。
「ルシアス様、刻印が!」
「え?」
自分の手首に目をやったルシアスも、驚いて息を呑んだ。
生まれた時から刻まれていた黒いいばらの刻印が、いつの間にか消えている。
「ルシアス様、もしや呪いが」
「……解けたのか?」
二人で顔を見合わせた時、石碑に新たな文字が浮かび上がった。
「Ⱁ ⰝⰐ ⰜⰑⰔⰅⰐ ⰘⰅⰓⰑ ⰑⰂ ⰃⰑⰄ.
神に選ばれし勇者よ
Ⰻ ⰁⰅⰔⰕⰑⰗ ⰀⰒⰑⰐ ⰛⰑⰖ ⰞⰅ ⰒⰑⰗⰅⰓ ⰑⰂ ⰞⰅ ⰒⰓⰋⰅⰔⰕⰅⰔⰔ ⰑⰂ ⰎⰋⰂⰅ.
生命の巫女の力をそなたに注ぐ
ⰕⰑⰃⰅⰞⰅⰓ, ⰛⰑⰖ ⰔⰀⰎⰎ ⰗⰅⰀⰗⰅ Ⰰ ⰔⰋⰐⰃⰎⰅ ⰄⰅⰔⰕⰋⰐⰛ.
二人でひとつの運命を紡ぐのだ」
読み終えたフィオナが、ルシアスを見上げた。
「ルシアス様、あなたは神に認められたお方なのです。呪いは解かれ、神はあなたを祝福しています」
「フィオナ……。全てはそなたのおかげだ。ありがとう、フィオナ」
フィオナに微笑みかけると、ルシアスは石碑に向かい合う。
「私の中にフィオナの命が息づいている。二人でひとつの運命を紡ぐ……。この先の私の命は、フィオナと共にある。それを今、ここに誓おう」
ルシアスは、聖なる山の神に高々と告げた。
たどり着いた聖なる山の頂きは、命の気配すら感じられない、ただ灰に覆われているだけの場所だった。
土はなく、草もない。
砕けた岩と、火山灰が混じり合った粉塵は、踏みしめる度に乾いた音を立てた。
冷たく強い風が、ルシアス達に吹きつける。
どこに神が存在するというのか。
だがルシアスは、信じて祈るしかなかった。
フィオナを抱いたまま片膝をつき、高らかに告げる。
「聖なる山の神よ、あなたに我が身と魂を捧げよう。どうかあなたの娘、生命の巫女の命を繋ぎとめよ」
目を閉じると、心の中でフィオナに語りかけた。
(フィオナ、俺の命を受け取れ。俺の全てをそなたに捧げる)
祈り続けていると、フィオナの胸元の水晶が再び光の矢のように伸び、真っ直ぐに空へと吸い込まれていった。
そこからパッと青い光が弾け、余りの眩しさにルシアスは思わず顔をそらし、固く目をつむる。
しばらくしてそっと目を開けると、辺り一面は真っ青な光に包まれ、キラキラと星くずのような輝きがフィオナに降り注いでいた。
「……フィオナ?」
暖かく穏やかな風が、ふわりとフィオナの髪を揺らしたあと、フィオナがゆっくり目を開ける。
「フィオナ!」
「……ルシアス様」
視線を合わせて小さく呟いたフィオナに、ルシアスは声を震わせた。
「フィオナ、良かった……」
フィオナを胸に抱きしめて涙を堪える。
「ルシアス様、傷は?」
「俺は平気だ。そなたこそ、どこか痛むか?」
「いいえ、大丈夫です。良かった、ルシアス様がご無事で」
「生きた心地がしなかった。あれほど力を使うなと言ったのに……」
「わたくしこそ、全身の血の気が引きました。あなたを失えば、わたくしは生きていけません。ルシアス様、わたくしをかばってくださって、ありがとうございました」
「俺の方こそ、ありがとう、フィオナ。そなたの力で救われた」
もう一度ギュッと抱きしめてから、ルシアスはフィオナの身体を支えた。
「立てるか?」
「ええ」
二人で立ち上がり、辺りを見回す。
青い光は徐々に落ち着き、やがて黒い石碑が現れた。
「これは一体……」
二人が近づくと、フィオナの水晶が石碑に向かって光を放つ。
そこに青い、記号のような文字が浮かび上がった。
ⰁⰋ ⰕⰘⰅ ⰐⰀⰏⰅ ⰑⰗ ⰏⰀⰉ ⰃⰑⰄ ⰀⰉ ⰐⰀⰖ ⰁⰓⰅⰀⰍ ⰕⰘⰉⰔ ⰍⰖⰓⰔⰅ
「なんだ? この模様は」
眉根を寄せるルシアスの隣で、フィオナが小さく呟く。
「我が神の名において、今この呪いを解く」
「フィオナ、そなた読めるのか?」
「はい。なぜだか分からないのですが」
そう言ってフィオナは、再び石碑に目を落とした。
「Ⰰ ⰔⰑⰖⰎ ⰕⰘⰀⰕ ⰉⰔ ⰕⰓⰖⰎⰖ ⰁⰅⰀⰖⰕⰉⰗⰖⰎ
ⰐⰑ ⰖⰑⰐ ⰍⰀⰐ ⰔⰕⰅⰀⰎ ⰉⰕⰔ ⰓⰀⰄⰉⰀⰐⰍⰅ
真に美しき魂であれば、誰もその輝きを奪うことはできない
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解かれよ、漆黒の闇の魔の手よ
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ⰅⰐⰕⰅⰓ ⰕⰘⰅ ⰓⰀⰄⰉⰀⰐⰕ ⰎⰉⰃⰘⰕ
放たれよ、そなたの命を眩しき光の中へ」
するとまたしても、フィオナの胸元で水晶が輝く。
その光はルシアスの身体を包み、黄金の細かな輝きがルシアスの頭上に降り注いだ。
光が落ち着くと、フィオナがルシアスの右手を見て目を見開く。
「ルシアス様、刻印が!」
「え?」
自分の手首に目をやったルシアスも、驚いて息を呑んだ。
生まれた時から刻まれていた黒いいばらの刻印が、いつの間にか消えている。
「ルシアス様、もしや呪いが」
「……解けたのか?」
二人で顔を見合わせた時、石碑に新たな文字が浮かび上がった。
「Ⱁ ⰝⰐ ⰜⰑⰔⰅⰐ ⰘⰅⰓⰑ ⰑⰂ ⰃⰑⰄ.
神に選ばれし勇者よ
Ⰻ ⰁⰅⰔⰕⰑⰗ ⰀⰒⰑⰐ ⰛⰑⰖ ⰞⰅ ⰒⰑⰗⰅⰓ ⰑⰂ ⰞⰅ ⰒⰓⰋⰅⰔⰕⰅⰔⰔ ⰑⰂ ⰎⰋⰂⰅ.
生命の巫女の力をそなたに注ぐ
ⰕⰑⰃⰅⰞⰅⰓ, ⰛⰑⰖ ⰔⰀⰎⰎ ⰗⰅⰀⰗⰅ Ⰰ ⰔⰋⰐⰃⰎⰅ ⰄⰅⰔⰕⰋⰐⰛ.
二人でひとつの運命を紡ぐのだ」
読み終えたフィオナが、ルシアスを見上げた。
「ルシアス様、あなたは神に認められたお方なのです。呪いは解かれ、神はあなたを祝福しています」
「フィオナ……。全てはそなたのおかげだ。ありがとう、フィオナ」
フィオナに微笑みかけると、ルシアスは石碑に向かい合う。
「私の中にフィオナの命が息づいている。二人でひとつの運命を紡ぐ……。この先の私の命は、フィオナと共にある。それを今、ここに誓おう」
ルシアスは、聖なる山の神に高々と告げた。
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