Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい

文字の大きさ
29 / 29

永遠の幸せ

しおりを挟む
新しい年も、小夜と想は互いの愛を深めていく。
週末には小夜のピアノ演奏のあとに二人の時間を過ごした。

想の誕生日、そして小夜の誕生日も一緒にお祝いする。
出逢ったころは二十六歳と二十三歳だった二人は、それぞれ二十八歳と二十五歳になっていた。

想の仕事も好調で、新曲はリリースする度に売り上げランキングトップになる。
知名度も上がり、コンサートやテレビ出演の機会も増え、小夜はますます想に会うのに慎重になっていた。

ひた隠しにしているせいか、想の恋人の噂はいつの間にかなくなっていた。
週刊誌にも、想は自分の車で職場と自宅マンションを行き来するだけの生活と書かれた。

【あれだけ純愛ぶっておいて、あっさり別れたんだね】
【なんかがっかり。ラブソングも急に嘘くさく感じちゃう】
【想にはピュアな愛を貫いてほしかったよね】

そんなSNSのコメントに、想は、くーっ!と身悶えた。

「勝手に破局させるなってーの!」
「まあまあ。落ち着けよ、想」

本田は苦笑いで慰める。

「いい流れじゃないか」
「どこがですか!?」
「だってこれで小夜ちゃんと婚姻届を提出したってなったら、やっぱり純愛を実らせたんだ! ってプラスイメージになる」
「どんなイメージでも俺は小夜と結婚します! なにがあってもそれだけは変わりませんから」
「はいはい。ごちそう様です」

じりじりと身を焦がされる想は、週末に小夜と会う度に、熱い想いをぶつけるように小夜を愛した。
次のブルームーンが現れる日。
ただその日を待ち焦がれながら……。



二〇二八年十二月三十一日の大みそか。
ついにその日を迎えた。

想は歌番組の生出演を終えると、車で小夜のマンションに行く。
小夜を乗せるとそのまま二人で区役所へ向かった。
時間外窓口に、ようやく婚姻届を提出する。

「はい、確かにお預かりしました。不備がなければこのまま受理となります。おめでとうございます」
「ありがとうございます」

お礼を言って、二人で微笑み合う。
手を繋いで駐車場へと戻った。

「これで私も、来栖 小夜になったんだよね」
「ああ。はー、長かった。どれだけこの日を待ちわびたか」
「ごめんなさい。どうしてもファンの人の気持ちが気になって、先延ばしにしてって言い出したりして」
「わかってる。ありがとう、小夜。でも今夜からは絶対に片時も離してやらないからな。覚悟しろ」

冗談とも本気ともつかない脅し文句のような口調で言い、想はグッと小夜の肩を抱く。
はい、と小さく頷くと、想はいきなり小夜の頬にキスをした。

「ちょ、想! こんなところでなにするのよ?」
「いいだろ? 小夜はもう俺の奥さんなんだから」
「でもまだマスコミに発表してないでしょう?」
「ああ、そうか。今、本田さんに連絡する。婚姻届を提出したら、マスコミ各社に一斉にメールでお知らせすることになってるんだ」

想は片手でスマートフォンを操作して、本田に電話をかける。

「もしもし本田さん、お疲れ様です。……はい、無事に提出してきました」

すると小夜の耳にも『おめでとう!』という本田の声が聞こえてきた。

「ありがとうございます。本田さん、マスコミへの発表をよろしくお願いします。年内に間に合いそうですね。……はい、小夜はこのまま俺のマンションに連れて帰りますので。はい、わかりました。それでは」

通話を終えると、想はまたしても小夜の肩を抱き寄せる。

「マスコミがマンションに張り込むだろうから、ちゃんと小夜を守ってやれって。一歩も外に出さないからな、小夜」
「そ、それって、軟禁って言うんじゃ……」
「失礼な。正月休みの三日間、俺がたっぷり愛してやる」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる想に、小夜はドギマギとうつむく。
これから始まる結婚生活、果たしてこんな調子で身がもつだろうかと真剣に考え込んだ。



本田はすぐに用意してあったコメントを発表したらしく、一気にSNSが賑わう。
想のマンションに着くと、小夜はすぐさまスマートフォンでチェックした。

【シンガーソングライター、想。ついに結婚! 大みそかの婚姻届】

そんな見出しが躍り、コメントが飛ぶように寄せられる。

【え、去年の五月頃に公表した相手とってことだよね?】
【続いてたんだ! てっきり別れたと思ってた】
【そうそう。純愛だって言われてたけど、結局は口先だけだなって思ってたのに】
【なんかよかったよね、結婚してくれて。これで想の曲を、純粋にそのまま受け止められるもん】
【うん。ラブソングもちゃんと想の本当の言葉だって思えるね】

ファンたちのコメントに、小夜は心底ホッとした。

「小夜、ソファに座ってて。せっかくだから乾杯しよう」

想は小夜にそう言って、とっておきのシャンパンを取り出した。

「乾杯。今夜からよろしくな、俺の奥さん」
「はい。末永くよろしくお願いします」

はにかみながら、小夜は想と乾杯する。
窓の外には綺麗な満月が浮かんでいた。

「あの日、ブルームーンの夜に起きた、小夜との小さな奇跡。それが大きな愛になって、今こうして結ばれた。また巡ってきたブルームーンに見守られて」
「うん。ブルームーンがくれた奇跡を、想が大きな愛に変えてくれた。やっと結婚できた私たちを、ブルームーンが祝福してくれてるみたい」

肩を寄せ合い、月を見ながら二人で静かに語り合う。

「俺と結婚してくれてありがとう、小夜。小夜がいてくれれば、俺の音楽は尽きることがない。俺の小夜への愛と一緒に」
「私こそ。こんな私と結婚してくれてありがとう、想。あなたといれば、私はずっと幸せでいられます。あなたの音楽と愛情に包まれて」
「ああ。俺の愛も音楽も、すべて小夜に捧げる。必ず小夜を幸せにすると誓うよ」
「もう充分幸せです。私も想を幸せにしたい」
「それならずっと俺のそばにいて。ただそれだけでいい」
「はい。なにがあってもあなたをそばで支えます」

微笑み合い、見つめ合って、どちらからともなく顔を寄せる。
そっと交わした口づけは、まるで初めての時のように胸を切なく締めつけた。

ブルームーンの夜に始まった恋。
これから先、あと何回二人でブルームーンを見上げることができるだろう。
でもこれだけは確かだ。
次も、そのまた次も、ブルームーンの夜には二人で一緒に空を見上げる。
更に深まった互いへの愛情を胸に。

そう信じて、二人はまた見つめ合う。
ブルームーンの美しく透明な輝きが、二人をキラキラと明るく照らしていた。
まるで二人を祝福し、永遠の幸せを約束するかのように……。

(完)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

Lucia(ルシア)変容者たち

おまつり
恋愛
 人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。  それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。  カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。  二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。  誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。  愛が深まるほど、境界は曖昧になる。  身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。  一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。  彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。  これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、 それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。 ※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

久我くん、聞いてないんですけど?!

桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚 相手はキモいがお金のため 私の人生こんなもの そう思っていたのに… 久我くん! あなたはどうして こんなにも私を惑わせるの? ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。 同じ頃、職場で 新入社員の担当指導者を命じられる。 4歳も年下の男の子。 恋愛対象になんて、なる訳ない。 なのに…?

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

【短編集・中華後宮】愛されない貴妃の、想定外の後宮譚 ほか

秦朱音|はたあかね
恋愛
【中華後宮モノの短編を短編集にまとめました】 ーーー ▼短編①「愛されない貴妃の、想定外の後宮譚」 幼馴染として育った皇帝の後宮に入って三年。 曹 春麗(そう しゅんれい)は、初恋の相手だった皇帝陛下からは一度も寵愛を受けたことがなく、寂しい毎日を過ごしていた。 ある日春麗は臥せった皇帝陛下を見舞おうと、皇帝の住まいである龍和殿を訪れる。そこで見たのは、思いもよらない呪いに侵された幼馴染の姿だった―― ▼短編②「梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜」 ――皇帝に仕える後宮妃は、皇子に叶わぬ恋をした。 親子ほどに年の離れた皇帝に仕える後宮妃・張 琳伽(ちょう りんか)は、皇帝の崩御により後宮を去ろうとしていた。 皇帝から寵を得て徳妃まで昇り詰めた琳伽だったが、どうしても忘れられないのは梅華殿で過ごした十代の日々。 あの頃内院に咲く梅の花を、かんざしに見立てて贈ってくれた皇子。彼は新皇帝として即位し、前皇帝の妃嬪が去った後に、新しく後宮を構えようとしていた。 ーーー ※中華後宮を舞台にした短編を集めました ※どちらかというとシリアスな内容ですが、ハッピーエンドです。 ※過去の短編を短編集にまとめるための再投稿です。既読の方がいらっしゃったら申し訳ありません。

私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜

専業プウタ
恋愛
篠山久子はアラサー商社OL。十年付き合った恋人に振られ、コネ入社なのに実家の会社が傾き父親が亡くなり腫れ物扱い。そんな時に出会ったばかりの年下ドクター富永スバルからプロポーズされる。経済的苦労もない溺愛新婚生活を送って一年、何故か久子はスバルに絞殺された。タイムリープした久子はスバルの真実を知る。再びスバルに殺された久子は時を戻り、男に頼らず、今までと全く違う行動に出る。この物語は発想を逆転させた甘ちゃんお嬢様が、悪と闘い愛すべき人生を手に入れる仰天サクセスラブストーリーである。

処理中です...