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思いがけない告白
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「ん……」
朝になり、花純の意識はぼんやりと浮上する。
大きな腕の中で守られているような安心感に、思わず身を寄せて頬ずりした。
すると頭を優しくなでられる。
(気持ちいい……)
知らず知らずのうちに笑みがこぼれた時、チュッと額にキスが落とされた。
(……え?)
ようやく花純は目を開ける。
ゆっくり視線を上げると、目の前に光星の顔があった。
髪をさらりとナチュラルに下ろし、花純を見つめて優しく微笑んでいる。
「おはよう、花純」
「お、おはよう、ございます」
「よく眠れた?」
「はい。あの、光星さんは?」
ベッドはキングサイズで広いのに、二人でピタリと身を寄せ合っている。
「俺もぐっすり。気持ち良くてずっとこうしていたいくらい」
その言葉で、花純はハッとする。
「光星さん、今何時?」
「6時だよ」
「もう? 私、いつも6時半にマンションを出るのに」
「でも既に会社に着いてるよ」
「え、あっ! そっか」
「うん。さてと、起きようか。着替えておいで」
そう言うと光星は身体を起こす。
Tシャツ越しの男らしい身体が目に入り、花純は思わずブランケットに顔をうずめた。
「ん? 花純、まだ眠いの?」
「ううん、大丈夫」
どうやら服を着ているらしい衣擦れの音に、花純は赤くなってブランケットを顔の上まで引き上げる。
「花純?」
光星は、ブランケットの上からポンポンと花純の頭に手をやって、呼びかけた。
花純はそっと目元まで顔を覗かせる。
「ふふっ、可愛いな。朝食用意するから、着替えたらおいで」
「はい」
チュッと頬にキスをしてから、光星は部屋を出て行った。
着替えてメイクも済ませてから隣のオフィスに行くと、光星がテーブルにトーストと目玉焼き、サラダを並べていた。
「座ってて。今、コーヒー淹れるから」
「あ、私がやります」
花純は、夕べやり方を教わったエスプレッソマシンでコーヒーを二人分淹れる。
「奥にキッチンがあるの?」
「ああ、臼井が使うから結構本格的なね。でも今は臼井の作った料理じゃなくてごめん。期待するなよ?」
「ふふっ、朝から一緒に食べられるだけで嬉しいです」
二人で「いただきます」と手を合わせた。
「花純、やっぱりこれ持ってて」
食後にコーヒーを飲みながら、光星は高層階エレベーターを呼ぶセキュリティーカードを差し出した。
「いつでもここに来てくれて構わないから」
「はい。では、お預かりします」
「次のデートはどうしようか。いつがいい? どこか行きたいところはある?」
花純は、んー……と考える。
「私、来週の火曜日から2連休なんです。お盆の振り替えで。でも光星さんはお仕事ですよね?」
「来週の火曜日? ちょっと待って、確認する」
立ち上がってデスクからタブレットを持って来ると、光星は画面に目をやりながらしばし思案した。
「対面の打ち合わせはリスケして、あとはテレワークでいけるな。2日間空けられるから、泊まりで遠出する?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。でもお盆過ぎとはいえ、夏休みで予約取りづらいかな」
「それなら大丈夫。実は山梨のリゾートホテルに、旅行会社の社員が特別枠で招待されてるの」
「へえ、いいな。俺も泊まっていいの?」
「うん、大丈夫。じゃあ予約しておきますね」
「ああ、楽しみにしてる」
7時になると、花純はカバンを持って自分のオフィスに向かう。
「じゃあ、光星さん。またメッセージしますね」
「俺からも送るよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
笑顔で手を振ると、腕を伸ばした光星に抱き寄せられる。
額にチュッとキスをされ、花純は真っ赤になりながらそそくさと部屋を出た。
7時過ぎのオフィスはいつものように誰もおらず、静まり返っていた。
花純はパソコンで早速リゾートホテルを予約する。
少し前にメールで送られてきた、旅行会社の社員向けのプランにアクセスし、無事に予約を済ませた。
改めてホテルのホームページを見てみる。
(すごいなあ、広くて一つの街みたい。屋内プールにショッピングストリート、レストランにブックカフェ、アクティビティルームにワインハウスもあるんだ。えー、お部屋に専用露天風呂もついてる。素敵!)
早速光星にホテルのURLを添付してメッセージを送る。
すぐに既読になり、返事が返って来た。
『ここ、前から行ってみたかったんだ。花純と行けるなんて、ものすごく嬉しい』
思わずふふっと笑みをこぼし『私もです』と送った。
「なに着て行こうかなあ」
気を抜くとほわーっと緩む顔を引き締めて、仕事に集中する。
終業後に光星から『当日は車で行こう。ワインとプールも楽しみだな』とメッセージが届いた。
「ワインと、プール!? え、水着がいるってこと?」
どうしよう、と急に焦り出す。
「水着なんて、もう3年くらい着てないかも? 新しく買わないと」
ホテルでも販売しているとホームページに書いてあるが、気に入ったものがないかもしれない。
「明日、仕事終わりに買いに行こう。いいの、見つかるかな」
花純はそわそわと、ひと晩中スマートフォンで流行の水着を検索していた。
◇
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
翌日。
定時になると、花純はカバンを手に足早にオフィスを出る。
これからデパートを回って水着を探すつもりだった。
1階でエレベーターを降りると、ロビーを横切る。
すると後ろから「森川さん!」と呼ばれた。
「滝沢くん! お疲れ様、今上がり?」
「そうっす。森川さんも?」
「うん、そう。お盆期間もお仕事大変だったね、お互い」
「ほんとっすよ。どうですか? このあと一杯」
「あー、今日はこれから予定があるの。ごめんね。じゃあ」
手短に切り上げて別れようとした時だった。
「待って」
ふいに滝沢が腕を掴む。
「どうかした?」
「うん、あのさ。ちょっといい? すぐ済むから」
「いいけど、なあに?」
滝沢は黙ってロビーの片隅に行き、花純もついて行く。
振り返ると、いつになく真剣な表情で滝沢は正面から花純を見つめた。
「森川さん、俺とつき合ってほしい」
「……え」
思いもよらない言葉に、花純は言葉が出て来ない。
「俺、ずっと森川さんの笑顔に癒やされてた。最初は綺麗なお姉さんだなと思って、だんだん気になってきて……。就活始めた時の言葉に救われて、惚れ込んだ。森川さんから見れば俺なんてガキみたいって思うかもしれないけど、男として絶対守ってみせる。だから俺とつき合って」
「滝沢くん、あの……」
「返事はまだいらない。今ならノーって言われそうだから。ちゃんと俺を一人の男として見てから返事ちょうだい。じゃね」
そう言うと軽く手を挙げて、軽やかに去って行く。
花純はしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
朝になり、花純の意識はぼんやりと浮上する。
大きな腕の中で守られているような安心感に、思わず身を寄せて頬ずりした。
すると頭を優しくなでられる。
(気持ちいい……)
知らず知らずのうちに笑みがこぼれた時、チュッと額にキスが落とされた。
(……え?)
ようやく花純は目を開ける。
ゆっくり視線を上げると、目の前に光星の顔があった。
髪をさらりとナチュラルに下ろし、花純を見つめて優しく微笑んでいる。
「おはよう、花純」
「お、おはよう、ございます」
「よく眠れた?」
「はい。あの、光星さんは?」
ベッドはキングサイズで広いのに、二人でピタリと身を寄せ合っている。
「俺もぐっすり。気持ち良くてずっとこうしていたいくらい」
その言葉で、花純はハッとする。
「光星さん、今何時?」
「6時だよ」
「もう? 私、いつも6時半にマンションを出るのに」
「でも既に会社に着いてるよ」
「え、あっ! そっか」
「うん。さてと、起きようか。着替えておいで」
そう言うと光星は身体を起こす。
Tシャツ越しの男らしい身体が目に入り、花純は思わずブランケットに顔をうずめた。
「ん? 花純、まだ眠いの?」
「ううん、大丈夫」
どうやら服を着ているらしい衣擦れの音に、花純は赤くなってブランケットを顔の上まで引き上げる。
「花純?」
光星は、ブランケットの上からポンポンと花純の頭に手をやって、呼びかけた。
花純はそっと目元まで顔を覗かせる。
「ふふっ、可愛いな。朝食用意するから、着替えたらおいで」
「はい」
チュッと頬にキスをしてから、光星は部屋を出て行った。
着替えてメイクも済ませてから隣のオフィスに行くと、光星がテーブルにトーストと目玉焼き、サラダを並べていた。
「座ってて。今、コーヒー淹れるから」
「あ、私がやります」
花純は、夕べやり方を教わったエスプレッソマシンでコーヒーを二人分淹れる。
「奥にキッチンがあるの?」
「ああ、臼井が使うから結構本格的なね。でも今は臼井の作った料理じゃなくてごめん。期待するなよ?」
「ふふっ、朝から一緒に食べられるだけで嬉しいです」
二人で「いただきます」と手を合わせた。
「花純、やっぱりこれ持ってて」
食後にコーヒーを飲みながら、光星は高層階エレベーターを呼ぶセキュリティーカードを差し出した。
「いつでもここに来てくれて構わないから」
「はい。では、お預かりします」
「次のデートはどうしようか。いつがいい? どこか行きたいところはある?」
花純は、んー……と考える。
「私、来週の火曜日から2連休なんです。お盆の振り替えで。でも光星さんはお仕事ですよね?」
「来週の火曜日? ちょっと待って、確認する」
立ち上がってデスクからタブレットを持って来ると、光星は画面に目をやりながらしばし思案した。
「対面の打ち合わせはリスケして、あとはテレワークでいけるな。2日間空けられるから、泊まりで遠出する?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。でもお盆過ぎとはいえ、夏休みで予約取りづらいかな」
「それなら大丈夫。実は山梨のリゾートホテルに、旅行会社の社員が特別枠で招待されてるの」
「へえ、いいな。俺も泊まっていいの?」
「うん、大丈夫。じゃあ予約しておきますね」
「ああ、楽しみにしてる」
7時になると、花純はカバンを持って自分のオフィスに向かう。
「じゃあ、光星さん。またメッセージしますね」
「俺からも送るよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
笑顔で手を振ると、腕を伸ばした光星に抱き寄せられる。
額にチュッとキスをされ、花純は真っ赤になりながらそそくさと部屋を出た。
7時過ぎのオフィスはいつものように誰もおらず、静まり返っていた。
花純はパソコンで早速リゾートホテルを予約する。
少し前にメールで送られてきた、旅行会社の社員向けのプランにアクセスし、無事に予約を済ませた。
改めてホテルのホームページを見てみる。
(すごいなあ、広くて一つの街みたい。屋内プールにショッピングストリート、レストランにブックカフェ、アクティビティルームにワインハウスもあるんだ。えー、お部屋に専用露天風呂もついてる。素敵!)
早速光星にホテルのURLを添付してメッセージを送る。
すぐに既読になり、返事が返って来た。
『ここ、前から行ってみたかったんだ。花純と行けるなんて、ものすごく嬉しい』
思わずふふっと笑みをこぼし『私もです』と送った。
「なに着て行こうかなあ」
気を抜くとほわーっと緩む顔を引き締めて、仕事に集中する。
終業後に光星から『当日は車で行こう。ワインとプールも楽しみだな』とメッセージが届いた。
「ワインと、プール!? え、水着がいるってこと?」
どうしよう、と急に焦り出す。
「水着なんて、もう3年くらい着てないかも? 新しく買わないと」
ホテルでも販売しているとホームページに書いてあるが、気に入ったものがないかもしれない。
「明日、仕事終わりに買いに行こう。いいの、見つかるかな」
花純はそわそわと、ひと晩中スマートフォンで流行の水着を検索していた。
◇
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
翌日。
定時になると、花純はカバンを手に足早にオフィスを出る。
これからデパートを回って水着を探すつもりだった。
1階でエレベーターを降りると、ロビーを横切る。
すると後ろから「森川さん!」と呼ばれた。
「滝沢くん! お疲れ様、今上がり?」
「そうっす。森川さんも?」
「うん、そう。お盆期間もお仕事大変だったね、お互い」
「ほんとっすよ。どうですか? このあと一杯」
「あー、今日はこれから予定があるの。ごめんね。じゃあ」
手短に切り上げて別れようとした時だった。
「待って」
ふいに滝沢が腕を掴む。
「どうかした?」
「うん、あのさ。ちょっといい? すぐ済むから」
「いいけど、なあに?」
滝沢は黙ってロビーの片隅に行き、花純もついて行く。
振り返ると、いつになく真剣な表情で滝沢は正面から花純を見つめた。
「森川さん、俺とつき合ってほしい」
「……え」
思いもよらない言葉に、花純は言葉が出て来ない。
「俺、ずっと森川さんの笑顔に癒やされてた。最初は綺麗なお姉さんだなと思って、だんだん気になってきて……。就活始めた時の言葉に救われて、惚れ込んだ。森川さんから見れば俺なんてガキみたいって思うかもしれないけど、男として絶対守ってみせる。だから俺とつき合って」
「滝沢くん、あの……」
「返事はまだいらない。今ならノーって言われそうだから。ちゃんと俺を一人の男として見てから返事ちょうだい。じゃね」
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