本当の愛を知るまでは

葉月 まい

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同棲生活

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翌日。
仕事を終えると光星のオフィスを訪れ、二人で車に乗り込む。
まずは花純のマンションに立ち寄り、そのあとスーパーで食料品を買ってから光星のマンションに向かった。

「どうぞ、入って」
「はい、お邪魔します。わあ、素敵なお部屋」

ダークブラウンの家具でまとめられたリビングダイニングは、ホテルのスイートルームのように広々としていて、角部屋の2面採光の窓からは月明かりが差し込んでいる。

「今夜は満月ですね」
「ああ、綺麗だな」

敢えて照明を絞り、二人でしばし夜景に見とれた。

「俺の部屋に花純がいてくれるの、なんか不思議な気分だ。部屋中にバラの花を飾ったみたいに、華やかで心が安らぐ」

光星は花純の肩をそっと抱き寄せて、優しくキスをする。

「そんな……。光星さん、私のこと美化しすぎですよ?」
「そんなことはない。控えめに言ったくらいだ」
「あの、ほんとに恥ずかしいので」

背を向けると、光星は諦めたように腕を解いた。

「あんまりしつこいと嫌われるな。花純、部屋に案内する」
「え? 部屋って?」
「臼井に頼んで、家具を入れておいてもらったんだ。見に行こう」

花純は驚いて光星のあとを追う。

「家具って、まさか私の為に?」
「気に入るといいんだけど。この部屋だ」
「光星さん、どうしてそんな……」
「おっ、なかなかいいんじゃないか? ほら」

廊下の突き当りのドアを開けた光星が、花純を振り返った。

「ベッドとソファだけ新調したんだ。カーテンやドレッサーなんかは、また選びに行こう」
「そ、そんな。あの……」
「何か足りないもの、あるか?」
「ないです、何も」

花純は勢い良く首を振る。
アイボリーのソファとベッドは、真新しい家具の匂いがした。

「光星さん、わざわざこんなことまでしてくれたの?」
「勝手にごめん。花純の一人の時間も大切だし、少しでも居心地良くしたくて」
「そんな。ありがとうございます」
「俺が花純に来てもらってるんだから、当然だ」
「じゃあ、せめて家事は私が全部やりますね。夕食の支度するので、光星さんは座っててください」

花純はキッチンへ行き、スーパーで買って来た食材で煮物や焼き魚、みそ汁を作った。

「簡単なものですみません。臼井さんに比べたら全然ですけど、光星さんのケガが治るまでは、身体に優しいメニューにしますね」
「ありがとう、花純が作ってくれるなら何だって嬉しい。うまそうだな」
「じゃあ、食べましょうか」
「ああ。いただきます」

光星はどれもパクパクと平らげ、花純は嬉しくなる。
食後は交代でお風呂に入った。

風呂上がりの光星をソファに座らせると、花純は傷口を消毒してガーゼを交換する。

「痛みますか?」
「いや、もう平気だ」
「良かった。早く治りますように」

最後にそっとガーゼの上から手を添えて呟くと、光星はそんな花純を抱き寄せた。

「花純、ここに来てくれてありがとう。俺は今、すごく嬉しくて幸せだ。だけど花純、決して無理だけはしないで。家事なんてやらなくても構わない。花純だって仕事で疲れてるんだから。それと、一人になりたかったらいつでも部屋で過ごして」
「光星さん……」

きっと以前話した結婚観のことを、覚えてくれていたのだろう。
花純は光星の気遣いにホッとする。
夕べ不安だった気持ちも、どこかに消え去った気がした。

「ありがとう、光星さん。こんなにも私を大切にしてくれて」
「これくらい当たり前だ。それより花純、俺に遠慮せずいつでも本当の気持ちを伝えて。前に二人で話しただろ?恋愛はどちらかが教えるものじゃない、二人で積み重ねていくものだって」
「はい、ちゃんと伝えます。それに私も、光星さんの本音を聞かせてほしいです」
「ああ、俺も素直に気持ちを伝える。今はただ、花純が好きだ」

え……、と花純は不意をつかれて赤くなる。

「花純がここにいてくれて嬉しい。心から君が好きだよ」
「光星さん……。私もあなたが大好きです」
「花純……」

光星は花純を抱き寄せて、何度も深く口づけた。
徐々に花純の口から甘い吐息がこぼれ、光星に身体を委ねていく。
最後にチュッとついばんでから唇を離すと、光星は花純と額を合わせた。

「花純、もう自分の部屋に行きな。ここから先は止められなくなるから」

すると花純は、寂しそうにうつむく。

「花純? どうかした?」
「あの、光星さん」
「なに?」
「私、自分の部屋に行かなくちゃ、ダメ?」

上目遣いでそっと尋ねる花純に、光星の思考回路が止まる。

「それって、どういう……」
「光星さんの部屋で、一緒に寝ても……いい?」
「花純……」

一瞬の間のあと、光星は花純の唇を荒々しく奪う。

「もちろんだ。片時も離してやらないから、覚悟して」

ギラッと瞳に何かが宿ったような光星に、花純は思わず息を呑む。
光星は花純を抱き上げると、寝室に向かった。

「光星さん! ダメ、傷口が開いちゃうから降ろして」
「これくらい、どうってことない」
「でも、まだ激しい運動とかしたらダメって、お医者さんに……」

光星はお構いなしに花純をベッドに横たえると、両手をついて覆い被さり、花純にグッと顔を寄せる。

「花純、激しいのを期待してるの?」
「ちがっ……」

真っ赤になりながら、必死に首を振って否定する花純に、光星はクスッと笑った。

「可愛いな、花純。心ゆくまでたっぷり愛させて」

そのあとはもう、言葉を交わすことはない。
見つめ合い、キスを交わし、抱きしめ合って愛を伝える濃密な時間。
この温もりさえあれば、他には何もいらない。
心が満たされ、幸せで胸が震える。

二人は時間も忘れ、これ以上ないほど互いを求め合っていた。



「おはよう、花純」

朝になり、ぼんやりと目を開けた花純は、目の前に迫る光星の顔に驚いて目をぱちくりさせた。

「お、おはよう、ございます」

あまりの近さに身体を離そうにも、光星にギュッと両腕で抱きしめられていて動けない。
しかも素肌と素肌が触れ合う感覚に、花純は真っ赤になってうつむく。
それがまた、光星の裸の胸に顔をすり寄せることになり、更にジタバタと焦った。

「なに、朝からイキがいいね。どうしたの?」
「光星さん、あの、離して。恥ずかしいの」
「ははっ、可愛いな。じゃあ離すけど、見えてもいい?」
「え、何が?」

光星の腕が緩み、身体が離れた途端に自分の姿が視界に入った。

「ひゃっ……」

花純は慌ててまた光星に抱きつく。

「ちょ、花純! それはヤバイって」

意図せず裸で抱きつかれ、今度は光星が焦り始めた。

「遅刻してもいいならいいけど?」
「え、どういうこと?」
「こういうこと」

ガバッと半身を起こした光星が、抱きしめながらキスをしてきて、花純は目を見開く。

「こ、光星さん、ダメ!」

必死で胸を押し返し、なんとか腕から逃れた。

「残念、続きはお預けだな。じゃあ、起きるか」
「は、はい。あの、先に行っててください」

背を向けながらそう言うと、光星はクスッと笑って花純の頭にポンと手を置く。

「分かったよ、恥ずかしがり屋の花純ちゃん」

ようやくベッドから降り、光星は楽しそうに部屋を出て行った。

朝食を食べると、光星の運転で二人でオフィスに向かう。

「花純、今日も定時で上がれそう?」
「はい、何もなければ。光星さんは?」
「俺もなるべく区切りつけるから、一緒に帰ろう。終業後に俺のオフィスに来てくれる?」
「分かりました」

駐車場に車を停めると、二人でロビーを横切る。
7時過ぎは、相変わらず誰の姿もなく静かだった。

「それじゃあ、また」
「ああ、行ってらっしゃい」

中層階エレベーターに乗り込み、光星に手を振ると、急に光星が外側からボタンを押して花純を抱き寄せた。
えっ、と思う間もなく、熱く口づけられる。
目を見開いていると、光星は身を引き、何事もなかったように手を振る。
エレベーターの扉が閉まっても、花純はドキドキしたままだった。
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