Bravissima!

葉月 まい

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満ち溢れる幸せ

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「なんと、でかしたぞ聖!やっちまった婚だな!」
「やっちまってねーわ!」

両手を上げて喜ぶ理事長に、聖が大声で被せる。

如月シンフォニーホールに理事長が顔を出した日に、芽衣と結婚すると報告すると、祖父である理事長は一気に浮かれた。

「やったな、聖。これでわしもひ孫を抱けるぞ!で、いつなんだ?」
「まだ決めてない。これから芽衣の実家に挨拶に行って、お許しをもらってからだな」
「結婚式のことじゃない。出産予定日は?」
「は?いやだから、やっちまってねーの!」
「なんだ、そうなのか」

理事長はがっくりと肩を落とす。

「おかしいだろ?できちゃった婚を期待するなんて。逆だぞ、普通」
「そうなのか?やっちまった婚なら、喜びも2倍になるのに。まあ、お楽しみをとっておくのも悪くない。早くやっちまえよ」
「じいさん!露骨なこと言うな!」
「なんだ、今更純情ぶって」
「いいか、芽衣の前ではそんなこと絶対言うなよ?」
「へえー。お前、イスラメイちゃんにゾッコンだな。愛しちゃってまあ!」

その時、コンコンとノックの音がした。

「どうぞ」
「失礼いたします」

入って来たのは公平だった。

「あ、聖もいたのか。ちょうどいい。理事長と聖にご報告がありまして」

なんだ?と二人で公平に向き合う。

「実は私、鈴木 弥生さんと結婚することになりました」

真剣な表情で公平が切り出すと、おおー!と二人は声を揃えた。

「聖だけじゃなく公平もか!こりゃ、めでたい。盆と正月が一緒に来たぞ」
「ん?聖も?」

公平が首を傾げ、聖は改めて公平に報告する。

「ああ。俺も芽衣と結婚することになった」
「そうか!やったな!いやー、おめでとう」
「お前こそ、おめでとう。良かったな」
「ありがとう。けど聖と芽衣ちゃんが公私ともにパートナーになるなんて、最強だな。これから二人が作り出す音楽を、誰よりも楽しみにしてる」
「ありがとう、公平。これからも俺達のサポートを頼む」
「もちろん」

二人は固く頷き合う。
そしてふと表情を和らげ、幸せそうに微笑み合った。



「いやーん!芽衣、おめでとう!」
「ありがとう。弥生ちゃんも、おめでとう!」

同じ頃。
いつものように二人でランチを食べながら、芽衣と弥生は互いに結婚の報告をしていた。

「あー、もう、嬉しい!何が嬉しいって、私達が同時に幸せになれたこと。ね?芽衣」
「うん!私もそれが何より嬉しい。弥生ちゃん、本当に高瀬さんとお似合いだもん。これでお父さんもひと安心だね」
「あはは!そうね。さすがのお父さんも公平さんのこと、非の打ちどころがないって、べた褒めしてた。芽衣のご両親はどうだった?」
「びっくりしてた。あんなに素晴らしいヴァイオリニストがうちの娘を?!って」
「そっか。お母さんピアニストだから、余計に如月さんのすごさが分かるんだろうね。お父さんは?やっぱり複雑そう?」
「ううん。だって聖さん、ピシッとスーツ着て頭下げてくれたの。『芽衣さんを必ず幸せにいたします』って言って。お父さん、感激して涙ぐんでた。今まで誰ともおつき合い出来なかった娘が、こんなにも素敵な方と結婚させてもらえるなんてって」

すると弥生は、「あらあら、ご馳走様」と笑う。

「なによー。弥生ちゃんだってラブラブでしょ?高瀬さんに愛されて、もう眩しいくらいに輝いてるもん」
「ふふっ、だって幸せなんだもーん。もうね、イタリア人なの?ってくらい、愛してるよ、可愛いねってたくさん言ってくれるの」
「へへーんだ。私だって愛されてるもんね。聖さんは愛してるって言わないけど、やべー、可愛いー、たまんねーって、心の声がダダ漏れなんだからね!」
「あはは!何それ、独特!けどあの如月さんがそんなにメロメロになるなんて。すごいね、芽衣の魅力って」
「えへへー、そうかな?」

両手で頬を押さえてヘラヘラ笑う芽衣に、弥生は意味ありげに言う。

「で?色気は身に着いた?」
「うぐっ、まだです……」
「ふうん。如月さん、本気で芽衣に惚れてるね。すっごく大事にしてるんだろうな」
「あ、はい。それは感じます」
「じゃあ楽しみにしてるね。芽衣が妖艶にハバネラを弾ける日を」
「あはは、がんばりまーす」

その後は二人で美味しいケーキを食べながら、結婚式の話題になった。

式場はどこにする?どんなドレスにする?一緒に試着に行こうか!と楽しい会話は尽きない。

愛する人との結婚式の準備を、親友と一緒に進められる。

芽衣と弥生は、そのことが何よりも嬉しかった。



両家への挨拶を済ませたあと、芽衣は聖のマンションに引っ越してきた。

実家のピアノ教室を手伝いながら、ホテルのロビー演奏などをこなし、時々聖との演奏を動画撮影する。

如月フィルの公式動画サイトは、二人のコンサート以降、更に注目を集め、動画の収入はかなりの額になっているらしい。

その分、如月フィルの活動に予算がかけられ、聖はコンマスとして忙しい毎日を送っていた。

事務局長の公平も同じく多忙を極めていたが、芽衣と弥生が二人で楽しそうに結婚式の準備をするのを微笑ましく見守り、聖も公平も「好きなところに決めていいよ」と二人に伝えていた。

結局、芽衣と弥生は仲良く「ここがいい!」と同じホテルの式場に決める。

それはあの、四人で過ごしたスイートルームがあるホテル。

如月フィルの公演スケジュールの間を縫って、公平と弥生が12月14日、聖と芽衣は12月25日の挙式が決まった。

2組の結婚式を盛り上げたいと如月フィルの団員達が申し出てくれ、挙式で弦楽四重奏を生演奏してくれることになる。

そしてもう1つ嬉しいことが。

年末12月31日に、如月フィル初となるジルベスターコンサートの開催が決まったのだ。

カウントダウンの曲は、チャイコフスキー作曲「ピアノ協奏曲 第1番 第1楽章」

ピアニストは、木村 芽衣。

つまり聖と芽衣は、ステージで音楽を奏でながら一緒に新年を迎えることになる。

結婚式の準備のかたわら、何度も重ねるリハーサル。

忙しくも充実した日々を送りながら、二人はドキドキワクワクとその日を待ちわびていた。



「弥生ちゃん、とっても綺麗!」

花嫁の控え室に入るなり、芽衣は弥生のウェディングドレス姿に目を見開いた。

「ふふっ、ありがと。芽衣のワンピースも可愛いよ。結婚、お先に失礼しまーす」
「あはは!うん、お先に行ってらっしゃーい」

今日は12月14日、公平と弥生の結婚式の日。
そして12月25日には、聖と芽衣の結婚式が控えていた。

二人でドレスの試着に行き、互いの姿に「素敵!これにしなよ」と褒め合った日が懐かしい。

「試着した時に見てるはずなのに、今日の弥生ちゃんの美しさに言葉が出て来ないよ。きっと幸せのオーラのせいだね。キラキラしてる」
「あら、ありがと。芽衣だってきっとそうなるわよ。楽しみだなー」
「今日は私カメラマンになって、たくさん写真を撮るからね」
「うん。芽衣の結婚式は私がカメラマンになるから」

二人で微笑み合うと、あとでね、と芽衣は控え室を出た。

廊下で待っていた聖が芽衣に優しく手を差し伸べる。

「行こう、芽衣」
「はい」

腕を組んで歩き出すと、芽衣はスリーピースの礼服を着こなした聖をこそっと見上げた。

(ぐふっ、今日の聖さんめちゃくちゃかっこいい!)

すると背筋を伸ばして前を向いたまま、聖が呟く。

「芽衣、黙ってニヤニヤしてると不気味」
「えっ、そんな顔してませんよ?」
「どこがだよ?ちなみに、ぐふって笑ったのも聞こえたぞ」
「嘘!やだー、ほんとに?」
「お前の考えてること、ダダ漏れだからな」
「聖さんの考えてることだって、いっつもダダ漏れだもん」

そう言うと芽衣は、指折りながら小声で呟く。

「あー、可愛い、たまらん、好きだ、俺の芽衣……」
「ちょっ、芽衣!」

聖は立ち止まって芽衣をギュッと胸に抱きしめると、辺りをキョロキョロと見渡した。

「誰かに聞かれたら恥ずかしいだろ!今日は如月フィルの関係者もたくさん来てるんだぞ?」
「それなら、こうやって抱きしめてるのを見られても困るんじゃないの?」

言われて聖はハッと芽衣を抱いていた手を離す。

「だって、芽衣の口を塞ごうと思ってつい」
「だったら普通に手で塞げばいいのに」
「あ、そうか。抱いた方が早いと思って」
「ちょっと!それこそ聞かれたら恥ずかしいでしょ?もう、聖さんったらなんかずれてる。『愛してる』なんて恥ずかしくて言えない、とか言って、やってることの方がよっぽど恥ずかしいですよ?」
「仕方ないだろ?『幸せなら手を叩こ』ってやつだよ」
「あはは!『幸せなら態度で示そうよ』って?」
「そう。『ほらみんなで手を叩こ』」

パンパン、と二人で手を叩き、あはは!と笑い合う。

そして仲良く手を繋いでチャペルへと歩き始めた。



チャペルに響き渡る美しい音色。

プッチーニ作曲 歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」

厳かな雰囲気で弦楽四重奏が奏でる中、弥生が父と腕を組んで入場して来た。

(わあ。弥生ちゃん、本当に綺麗)

ベールに覆われて少しうつむきながら微笑みを浮かべている弥生は、祭壇の前で待っている公平に近づくにつれて、はにかんだように頬を染めた。

(可愛い。弥生ちゃん、乙女。あ!お父さん泣いちゃってる)

必死に堪えようとしているのか、弥生の父はブルブルと口元を震わせ、涙がこぼれ落ちないように必死で上を向いている。

やがて公平のもとにたどり着くと、父は限界だとばかりに涙をこぼした。

「公平くん。弥生を、弥生をどうか、よろしく、頼みます」

ちょっとお父さん、恥ずかしいでしょ、と弥生が父の腕を引くが、公平はきりっとした顔つきで頷いた。

「はい。お父さんの分も、私が必ず弥生さんを幸せにいたします。弥生さんの笑顔を、いつまでも私が守っていきます」
「ありがとう、公平くん。ううう、本当に、ありがとう」

もう……と呆れてから、弥生は父に向かい合った。

「お父さん。私を今まで大切に育ててくれてありがとう。お父さんとの思い出、絶対に忘れないよ。これからは公平さんと一緒に、お父さんが作ってくれたみたいな温かい家庭を作るね」
「うううー、弥生、そんなこと言っちゃダメだろ。父さんもう、涙が……」

すると最前列の列席者の席から母親が手を伸ばし、グイッと父の腕を掴んで強引に座らせる。

「ごめんなさいねー。はい、お気になさらずどうぞ進めて」

ははは!と列席者から笑いが起こり、公平と弥生は幸せそうに見つめ合ってから祭壇を上がった。



「はあ、もう、感動し過ぎて胸が一杯」

マンションに帰って来ると、芽衣は結婚式の余韻に浸りながらソファに座った。

「それを言うなら、泣き過ぎて顔がパンパン、じゃないの?はい、お水」

聖が差し出す水を「ありがとうございます」と受け取り、ひと口飲んでから芽衣はムッと拗ねる。

「顔がパンパンって、私の顔、パンじゃないですからね」
「クリームパンだったらうまそうだな」
「クリームたくさん詰まってそうで?って、違うから!」
「それにしても、よくそんな腫れ上がった目でピアノ弾けたな。見えてたのか?」
「ううん。視野も狭いし涙でぼやけるし、何も見えなかった」
「だろうな。アイコンタクト取ろうにも『どこ見てんだよ?』って思ったもん」

挙式のあとの披露宴で、聖と芽衣は生演奏を二人に贈った。

公平と弥生が好きだという、リストの「愛の夢第3番」

芽衣のピアノに合わせて奏でる聖のヴァイオリンはこの上なく甘美で、弥生は感激のあまりポロポロと涙をこぼし、そんな弥生の肩を公平がそっと抱き寄せていた。

「なんかもう、高瀬さんの愛が尊くて。弥生ちゃん、本当に幸せだろうな」
「ああ。公平は必ず彼女を大切にする。そういうやつだからな。きっと二人は幸せになれるよ」
「ふふ、嬉しい。私の大切な人達が結ばれて」
「芽衣、俺だって公平に負けてないからな。見てろ、俺も必ず芽衣を幸せにしてやる」
「えっと、なんか果たし状を突きつけそうな口調ですね?」
「ああ、あいつにだけは負けない」
「聖さん。なんかやっぱり、ずれてます」

そしてまたいつの間にか笑い合う。

二人の何気ない日々は、たくさんの幸せに満ち溢れていた。
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