距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい

文字の大きさ
15 / 33

井口と芹奈

しおりを挟む
「ただ今戻りました」

軽井沢から静岡と神奈川を経由してアウトレットの視察を終え、社に戻った時には18時を過ぎていた。
社長に挨拶に行ってから、芹奈と村尾は秘書室に顔を出す。

「おかえり、芹奈、村尾くん。どうだった?視察出張」
「はい、たくさん見て回れて収穫もありました。これ皆さんにお土産です。よかったら今コーヒー淹れますね」
「わーい、ありがとう!早速いただきまーす」

デスクにお菓子を置くと、コーヒーを取り出して芹奈は給湯室に向かった。
すぐあとから井口がついて来る。

「里見さん、お手伝いします」
「井口くん、ありがとう。社長秘書もありがとね。何か変わったことはあった?」
「いえ、特には。また細かい点はのちほどお伝えします」
「うん、分かった。あ、そうだ!井口くんにはみんなとは別に和菓子のお土産があるの。それがね、副社長から直々に井口くんにって」

はい?と井口は首を傾げる。

「どうして副社長が僕なんかに?どういう流れでそうなったんですか?」
「えっとね。村尾くんと私で秘書室のみんなにお土産を選んでたの。で、私はいつも井口くんに代理で仕事をしてもらってるから、私から井口くんに和菓子を買おうとしたのね。そしたら副社長が、俺から井口くんに買いたいって。きっと井口くんが優秀だからじゃない?社長もそう言ってたし、それを副社長も聞いたのかもね」

そう言ってコーヒーのパッケージをじっと読み始めた芹奈に、井口は何かを考え込んだ。

「里見さん」
「ん?なあに?」

お湯をゆっくり回し入れて、五分蒸らす、とコーヒーの淹れ方を読んでいた芹奈を、井口はいきなり抱きしめた。

「えっ、ちょっと、井口くん!?」

芹奈の手から、コーヒーのパッケージがポトリと落ちる。

スリムな体型だと思っていたが、井口の身体は意外とガッシリしていて、芹奈はすっぽり井口の胸に収まっていた。

抱きしめられて初めて井口の男らしさを感じ、その力の強さに芹奈は声も出ない。

「何があったの?副社長と」

普段よりも低い声で尋ねられ、芹奈はかろうじて返事をする。

「え?何も……」
「副社長、俺のことを牽制してる」
「は?どういうこと?」

井口の力はますます強くなり、芹奈はなんとか逃れようと身をよじった。

「井口くん、離して。ここ会社……」
「里見さん、答えて。俺と副社長、どっちが好き?」
「な、何を言ってるの?とにかく離して!」

思い切り胸を押し返すと、ようやく井口は腕を解く。

芹奈は急いで後ずさり、息を整えた。

「井口くん、こんなこと二度としないで。私、怖かった……」

弟のように思っていた井口の強引な態度に、芹奈は驚くと同時に力の差をまざまざと感じていた。
力では絶対に敵わない。
涙目になる芹奈に、井口はハッと我に返る。

「ごめんなさい、俺、つい……。本当にすみませんでした」

深々と頭を下げる井口は、いつものよく知る井口だった。

ようやく気持ちが落ち着き、芹奈は落ちていたコーヒーのパッケージを拾い上げる。

「コーヒー淹れて、早く戻ろう」
「はい」

二人でトレイにカップを並べていく。
その様子を離れたところから、村尾が複雑な表情で見守っていた。



「芹奈、今夜飲みに行かないか?」

次の日。
仕事を終えた村尾は、芹奈を行きつけの居酒屋に誘った。

ピールで乾杯すると、早速話を切り出す。

「芹奈、煮詰まってるだろ?井口のこと」

一瞬驚いた表情を見せてから、芹奈は小さく頷いた。

「うん。告白は断ったんだけど、引き下がってくれなくて……」
「ふーん。芹奈のことだから、今は仕事のことしか考えられない。相手が誰でも恋愛は無理、とか答えたんだろ?」
「よく分かるね、村尾くん。それでそのあと、やっぱりあなたのこと嫌いになったってズバッと断ろうかな、ってひとりごと言ってたら聞かれちゃって、そんな嘘では納得出来ないなって」
「へえー。井口って意外と骨太男子だな」

うん……と芹奈はうつむく。

「今までの井口くんとは別人みたいに感じて、私、どう接していいのか。最初に、好きな人がいるからって断れば良かったなって、後悔してる」
「うーん、そうだな。しかもそのひとりごとを聞かれたのなら、今更そう言ってももう遅い」
「そうなの。どうして井口くん、私なんかのこと……。他にもっとお似合いの子がいるのに。奈緒ちゃんとか」
「確かにな。あ!いや、ごめん」

怒ってくるかと思いきや、芹奈は村尾の失言にも気づかず、しょんぼりとうつむいたままだ。

(こりゃ、重症だな。どうしたもんか……。一番いいのは、芹奈が副社長を好きになること。そうすれば副社長の片思いも実るし、井口もさすがに諦めつくだろう。けど肝心の芹奈が、副社長のことをどう思ってるのか……)

そう思い、村尾はさり気なく聞いてみる。

「なあ、芹奈。今、好きな人いないんだっけ?それって、気になる人もいないってこと?」
「うん、いない。最後に恋愛したのなんて、大学生の時だよ」
「なるほど。それならさ、ちょっと恋愛モードにスイッチ切り替えてみたら?」

え?と芹奈は顔を上げる。

「どういうこと?」
「だからさ、毎日仕事のことばかりじゃなくて、いい人いないかな?って感じで周りを見てみるんだ。いつもよりちょっとオシャレして、仕事帰りに誰かと食事に行ってみたり」
「ええ!?仕事中にキョロキョロ人探しするの?」
「いや、キョロキョロっていうか……。うん、まあ、そうかな。誰かを飲みに誘うとか」
「そんなの、仕事より難しいよ」

芹奈は困ったように、更に肩を落とした。

「私、井口くんのことがあって、ますます恋愛するのが怖くなっちゃったの。気持ちが乱されて、落ち着かない。井口くんと顔も合わせづらいし。元に戻れたらいいのに」

明らかに落ち込んでいる芹奈に、村尾は何も言えなくなる。

(これ以上けしかけたら逆効果だな。仕方ない、もう少し様子をみるか)

そう思い、今夜は楽しくパーッと飲もう!と明るく乾杯し直した。



淡々と仕事をこなす日々が続く。
芹奈は、あくまで業務に関することだけを井口と話すよう心掛けていた。

そんなある日。
終業時間を過ぎ、次々とメンバーが退社していく中、芹奈は明日のスケジュールをタブレットで確認していた。
社長から依頼されていた資料を、明日の朝すぐに提出することになっている。

(えっと、四ツ葉建設との直近5年間の提携業務内容をまとめた資料……。うん、大丈夫)

確かめて書類ケースに入れたあと、もう一度タブレットに目をやった。
見慣れない米印がついていて、ん?と首をひねる。

(こんなのつけた覚えないし、今までつけたこともない。どういう意味なんだろう?)

自分ではないとしたら、思い当たるのはただ一人。
芹奈は顔を上げて、斜め向かいの席の井口に声をかけた。

「井口くん、明日社長に提出する資料の名前の横に米印がついてるんだけど。何か知ってる?」

え?と首を傾げたあと、井口は一気に顔色を変えた。

「す、すみません!里見さん、それは……、あの」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから説明して」

立ち上がって顔をこわばらせる井口に、芹奈は冷静に口を開く。
だが内心は、大変な事態だろうと身構えていた。

「申し訳ありません。里見さん達が泊まりがけで視察に行かれている間に社長から指示を受けていたんです。頼んだ資料、四ツ葉建設との直近5年間の提携業務内容だけど、山本建設の分も欲しいと言われて。その時は僕、余裕があるから自分でやって里見さんに渡そうと思っていました。だけどそのあと、専務から急ぎの案件を頼まれてそちらに気を取られてしまって……」
「つまり、忘れていたってこと?」
「はい。本当に申し訳ありません」

芹奈はチラリと時計を確認する。
夜の9時を過ぎたところだった。

「井口くん、今からやるわよ。手伝ってくれる?」
「はい。里見さん、本当にすみませんでした」
「謝るよりも手を動かして。分担してやりましょう。私は5年前から2年前の分をやるから、井口くんは2年前から現在までをお願い」
「分かりました」

二人でカタカタとパソコンに向かう。
いつの間にか他のメンバーは誰もいなくなっていた。

(なんとかなるはず。なんとかしないと)

焦りながらも必死で気持ちを落ち着かせる。

「井口くん、既に仕上げてある四ツ葉建設の資料を参考にして作って。フォーマットは同じでいいから」
「はい。山本建設でしか取り扱っていない業務に関してはどうしましょうか?」
「私が先に作るから、他の作業をして待ってて」
「分かりました」

静まり返った夜の秘書室に、キーボードを打つ音がやたら大きく響く。
ようやく1年分を仕上げて時計を見ると、既に終電の時間は過ぎていた。

徹夜は必至。
それよりも、朝までに間に合うかどうかだ。

芹奈は集中して頭をフル回転させる。
途中でふと我に返り、デスクの引き出しを開けてビスケットとゼリー飲料を取り出した。

「井口くん、食べて」
「いえ、そんな」
「いいから食べる!」
「はい!」

強引に食べさせると、芹奈も片手で食べながら作業を進めた。

「こっちは終わった!井口くんは?」
「あと半年分です。ここのフォーマットどうしましょうか?」
「見せて」

芹奈は井口のデスクの隣に移動し、横から手を伸ばしてパソコンを操作する。

「すごっ!里見さん、ものすごく速いですね」
「そう?本気出すとこんなもんよ」
「尊敬します」
「そんな暇があったら、私のパソコンから資料のプリントアウトしておいて」
「かしこまりました!」

頭も身体もフル稼働で夜を明かし、日が昇る頃になんとか仕上がった。

「終わったー!はあ、間に合った」

立ち上がって伸びをすると、井口が改めて頭を下げる。

「里見さん、本当に申し訳ありませんでした」
「ううん。私も確認不足だったし、もういいよ。井口くんも、お疲れ様。さてと!電車も動き出したし、一旦帰ろうかな。井口くんはどうする?」
「僕も帰ります。里見さん、タクシーで送りますね」
「いいよ、そんな」
「いえ、これくらいさせてください」
「じゃあ、別々のタクシーで……」
「いいえ、ご自宅までお送りします」

真剣に押し切られ、芹奈は井口と共にタクシーに乗り込んだ。

「里見さん、今回は本当に自分が情けなくて恥ずかしいです。あんなにえらそうに里見さんに言い寄っておきながら、こんなにもご迷惑をおかけするなんて。あなたのことを好きになる資格なんてないですよね」

うつむいて詫びる井口に、芹奈は考えながら口を開く。

「井口くん。私ね、こうなることが怖くて恋愛する気が起きないの。もし誰かを好きになったら、きっと私も井口くんみたいに、ミスした時に自分を責めると思う。もちろん、恋愛していなくたってミスはする。だけど恋愛中にミスをしたら、浮かれてたからだって落ち込むと思うんだ。それって相手にも失礼だよね。暗に、あなたのせいでもあるって言ってるみたいで。だから私は恋愛には向いてないの」

里見さん……、と井口は言葉に詰まった。

「すみません、僕のせいで。里見さんには幸せになって欲しいです。今回のことがきっかけで里見さんが恋愛を諦めてしまったら、なんてお詫びをすればいいのか……。全て僕の責任です」
「ううん、そんなことない。前からそう思ってたから。私、不器用なんだろうね。恋愛と仕事を切り離して考えられればいいのに。それはそれ、これはこれ、みたいに。そうすれば楽なんだろうな。だけどこれが私なの。やっかいな性格だよね、ふふっ」
「里見さん……」

井口は目を潤ませる。

「今さらこんなこと言う資格、僕にはないですけど。そんな里見さんだから、僕はあなたを好きになりました」
「ありがとう、その気持ちは素直に嬉しいです。だけど、ごめんなさい。私はあなたとつき合うことは出来ません」
「はい、分かっています。これからは気持ちを入れ替えて、もっともっと仕事をがんばります。里見さん、ビシビシご指導お願いします」
「うん!これまで通り、よろしくね、井口くん」
「はい。よろしくお願いします」

ようやく二人は笑顔で頷き合った。



マンションに帰って来ると、芹奈はシャワーを浴びて少し仮眠を取る。

まだまだ寝ていたかったが、なんとか気力で起き上がり、支度をして会社に向かった。

「おはようございます。里見さん、よかったらこれどうぞ」

井口が、栄養ドリンクやサラダ、ヨーグルトが入った袋を差し出す。

「ありがとう!早速いただくね」

デスクでドリンクを飲みながら、芹奈はタブレットで今日の予定を確認する。

(15時から副社長室で、湾岸エリアプロジェクトの打ち合わせか。これが一番の山ね)

視察出張を踏まえて、三人でプロジェクトの話を進めることになっていたが、寝不足の状態ではその時間帯が一番睡魔に襲われそうだった。

(昼休みにデスクでお昼寝して、あとは眠気覚ましのガムをコンビニで買って乗り切ろう)

よし!と気合を入れると、芹奈はタブレットと徹夜で仕上げた資料を持ち、社長のお迎えに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

元遊び人の彼に狂わされた私の慎ましい人生計画

イセヤ レキ
恋愛
「先輩、私をダシに使わないで下さい」 「何のこと?俺は柚子ちゃんと話したかったから席を立ったんだよ?」 「‥‥あんな美人に言い寄られてるのに、勿体ない」 「こんなイイ男にアピールされてるのは、勿体なくないのか?」 「‥‥下(しも)が緩い男は、大嫌いです」 「やだなぁ、それって噂でしょ!」 「本当の話ではないとでも?」 「いや、去年まではホント♪」 「‥‥近づかないで下さい、ケダモノ」 ☆☆☆ 「気になってる程度なら、そのまま引き下がって下さい」 「じゃあ、好きだよ?」 「疑問系になる位の告白は要りません」 「好きだ!」 「疑問系じゃなくても要りません」 「どうしたら、信じてくれるの?」 「信じるも信じないもないんですけど‥‥そうですね、私の好きなところを400字詰め原稿用紙5枚に纏めて、1週間以内に提出したら信じます」 ☆☆☆ そんな二人が織り成す物語 ギャグ(一部シリアス)/女主人公/現代/日常/ハッピーエンド/オフィスラブ/社会人/オンラインゲーム/ヤンデレ

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

処理中です...