距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい

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クリスマス

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「おはよう。目が覚めた?」

翌朝。
ぼんやりと目を開けた芹奈は、間近に迫る翔の整った顔に驚いて後ずさる。

だが翔は、芹奈を腕枕している手に力を込めてグッと肩を抱き寄せた。

「ミーアキャットも可愛いけど、近くで見る君の寝起きの顔はもっと可愛い」
「あ、あの副社長」
「なに?」
「ちょっと離れてください。朝から心臓に悪くて……」
「ん?顔が赤いね。まだのぼせてるのかな?」

そう言って翔は、芹奈とコツンとおでこを合わせる。

「熱はないね」
「いやいや、副社長!わざとやってますよね?」
「あ、バレた?」
「もう!」

芹奈がムーッと拗ねると、翔はおかしそうに笑い出す。

「最高に幸せな朝だな。それにぐっすりよく眠れた」
「それはよろしゅうございました。抱き枕としては最高品質を自負しております」
「ははは!うん。けど俺専用の抱き枕だからな?」

そう言って芹奈の鼻の頭をチョンとつつくと、翔は、うーん、と伸びをする。

「6時か。そろそろ起きる?って、まだ顔赤いな。熱測る?」

再びおでこをくっつけようとする翔に、芹奈はガバッと起き上がった。

「熱はございません!ご心配なく。それでは、着替えて参ります!」
「はーい。行ってらっしゃーい」

スタコラとバスルームに向かう芹奈を、翔はヒラヒラと手を振って見送った。



「このあと俺と一緒に、村尾の車で出社する?」
「しません!」

朝食にコーヒーとトーストを食べながら翔が尋ねると、芹奈は即座に断る。

「じゃあ、仕事終わりに副社長室に来て」
「ど、どうしてですか?」
「ん?副社長指示だけど、何か?」
「いえ」

芹奈は仕事モードに切り替えると、使った食器を洗い、身支度を整えて翔を振り返った。

「それでは副社長。私はお先に失礼いたします。お世話になりました」
「いいえ。じゃあ、また会社で」
「はい。それでは」

お辞儀をすると芹奈は部屋を出る。

(別れ際の副社長はやけにあっさりだったな。まあ、良かったけど)

そう思いながら、徒歩で会社に向かった。
まだガランと静まり返っているフロアを進み、更衣室で服を着替える。

(そういえば、今日はクリスマスか。みんなオシャレしてるんだろうな。スーツだと浮いちゃうかも?)

手に取ったスーツをロッカーに戻し、フレアスカートとブラウスにジャケットを合わせた。

秘書室でパソコンを立ち上げてしばらく作業していると、他のメンバーも出社してくる。

「芹奈さん、おはようございます」
「おはよう、菜緒ちゃん。合コンは楽しかった?」
「はい。ふふふ、井口さんがね……」

するとすぐあとから現れた井口が、「菜緒ちゃん!」と止める。

(菜緒ちゃん!?井口くん、いつもは松村さんって呼んでたよね?)

おやおや、これはー?と芹奈はほくそ笑む。

「いいじゃないですか、ちょっとくらい」
「だめ!内緒にする約束でしょ?」

なんだかじゃれ合うような菜緒と井口に、芹奈はムフフと笑いを堪えていた。



イブに引き続きクリスマス当日も、社員達はソワソワと楽しそうに浮足立っている。

「あー!その指輪、夕べ彼にプレゼントされたの?」
「うん、実はそうなんだ」
「キャー!ってことは、プロポーズ?」
「えへへ、うん」

そんな会話が昼休みの社員食堂で聞こえてきた。
よく見ると、そんな女子は1人や2人ではない。

「すごいねえ。クリスマスの経済効果ってどれくらいなんだろう?」

芹奈が感心すると、向かいの席でカツ丼を食べていた村尾がブホッとむせ返った。

「芹奈。いくら恋愛に縁遠いからって、経済評論家みたいなこと言うな。ロマンチックの欠片もないな」
「だってさ、考えてみてよ。ホテルもレストランも軒並み予約で一杯。クリスマスケーキやチキンも飛ぶように売れるでしょ?極めつけはジュエリー!もうさ、各業界、売り上げはホクホクよね」
「やれやれ……。芹奈、オヤジ化してきたな。恋する乙女になれとは言わないけど、せめて20代女子には戻って来い」

はーい、と軽く返事をして、芹奈はまた人間観察を始める。

「あ、ファッション業界もウホウホよ。だって女の子達、服も新調してオシャレしてるもん。美容室とか、ネイルサロンも」
「はいはい、もう分かったよ。経済評論家のオッサン芹奈さん」
「それにね、ブライダル業界も!年が明けたら一気にブライダルフェアが賑わうって聞いたよ。ほら、プロポーズされたら次は結婚式の準備じゃない?ひゃー!日本の経済が大きく動くのね」
「もう呆れてものが言えん。芹奈、クリスマスに株の動きとにらめっこはするなよ」
「ああ、気になるね。見てみようかな」
「やめれー」

華やかな女子達の雰囲気の中、芹菜は淡々と周りの様子を観察していた。



「芹奈さーん。今夜も合コンあるんですけど、どうですか?」

終業時間が迫って来ると、デスクから菜緒が声をかけてきた。

「菜緒ちゃん、連日で合コン行くの?」
「そうなんです。芹奈さんは?何かご予定あるんですか?」
「ん?特にない……、あー!」
「びっくりした。どうしたんですか?」
「うん、ちょっとこのあとの用事を思い出したんだ」

そうだ、副社長室に行かねば、と芹奈は気が重くなる。

「そうなんですね。残念、予定ありか。じゃあ井口さん、今夜も一緒に行きません?」

井口が、ん?と顔を上げる。

「行くってどこへ?」
「合コンです」
「えー、また酔っ払って失態さらすからやめておく」
「あはは!夕べの井口さん、本当におかしくって。ね、聞いてくださいよ芹奈さん」
「わー!菜緒ちゃん、やめてってば」

またしても朝と同じように、二人はじゃれ合い始めた。

「ねえ、そんなに盛り上がるなら二人で出かけたら?」

そう言うと、え?と二人は芹奈を振り返る。

「二人で、ですか?」
「うん。合コンよりそっちの方が楽しめるんじゃない?今のお二人なら」
「そうかも。二人なら井口さんの更なる失態が楽しめそう!」

何かを企むようなワクワクした様子の菜緒に、井口は、えー?と顔をしかめる。

「酔わせてまたあのおかしな井口さんにしちゃおう!じゃあ、合コンはやめて二人で食事にしましょ。ね?そうすれば内緒にしててあげますから」
「えー、絶対だよ?」
「はい!約束します。やったー、決まり!」

楽しそうな菜緒の笑顔と、観念して苦笑いを浮かべる井口。
そんな二人を芹奈は、お似合いだな、と眺めていた。
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