距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい

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俺のこと、好き?

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「え、お部屋も取ってたんですか?」
「うん。ダグラスも一応支配人だからね、なんとかしてもらったんだ。どうぞ、入って」

客室のドアを開けて翔が芹奈を促す。
芹奈は戸惑いつつ、部屋を奥へと進んだ。

「綺麗……。街中がクリスマスのイルミネーションで輝いてますね」
「そうだな」

部屋の明かりは点けずに、しばらく二人で窓からの夜景を眺める。

「……迷惑、だった?」

ふいにポツリと呟いた翔に、芹奈は、え?と顔を上げた。

「強引だったかな。もしかして、嫌だった?こんなふうにあちこち連れ回してしまって」

珍しく気弱な口調の翔は、しょんぼりと肩を落としている。

「君を口説けるのが嬉しくて、一緒にクリスマスを過ごしたくて、視察だなんて卑怯な手を使った。ごめん。君の気持ちを大切にしたいのに、抑えが効かなかった」
「副社長……」

芹奈は少しうつむいてから顔を上げた。

「あの、楽しかったです、私」
「え?」
「今夜、副社長とクリスマスの街を歩いて、お店を覗いて、美味しいレストランに連れて行ってもらって。とても楽しくて、嬉しかったです」
「ほ、本当に?」

翔は確かめるように芹奈を見つめる。

「はい。副社長、素敵な時間をありがとうございました。それにこのブレスレットも。すごく嬉しいです。いただいてもいいのでしょうか?」
「もちろん!君の為に選んだんだ。受け取って欲しい」
「はい、大切にします。本当にありがとうございました」

にっこり笑う芹奈を、翔はたまらず胸に抱きしめた。

「ありがとう。こんな俺にそんな嬉しいことを言ってくれて」
「いいえ、私こそ。こんな私にここまでしてくださって、本当にありがとうございます」
「迷惑じゃなかった?」
「えっと、迷惑だとは思いません」
「じゃあ、調子に乗ってもう一つお願いしてもいい?今夜も一緒にいて欲しい」

芹奈は少し考えてから、どうしようかと上目遣いに翔を見上げた。

「か、可愛い。たまんない。ありがとう」

再びギュッと抱きしめられ、芹奈は慌てる。

「あの、まだ何も言ってませんけど!」
「え?可愛くおねだりされてるのかと思った」
「ち、違います!」
「……やっぱりだめか?」

しょぼんとする翔に、芹奈は小さく呟く。

「じゃあ、ちょっとだけ……」
「え、分かった!ちょっとだけひと晩な?」
「ちょっとだけひと晩って、なんですか?」
「だからちょっとだけ、ひと晩一緒にいような」
「訳が分からないです」
「うん。ありがとう」

噛み合わない会話をしながら、翔はギュッと芹奈を抱きしめて耳元でささやいた。

「君のことが大好きだ」
「副社長……」
「今はただ、こうさせて」
「……はい」

窓の外に広がる聖夜の輝き。
二人を彩る綺麗な月明かり。

静けさの中、翔は言葉もなくただ心のままに芹奈を抱きしめていた。



クリスマスケーキを食べると交代でシャワーを浴び、ルームサービスで頼んだシャンパンとフルーツを味わった。

他愛もない話をしながら、芹奈はふと考える。

(私、副社長のこと好きなのかな?)

己の心に問いかけてみた。

こんなふうに一緒に過ごせて嬉しい。
抱きしめられて、キュッと心が切なく痛んだ。
好きだよって言われて……、私も、と心の中で呟いた。

(やっぱり、好きなんだよね?私も副社長のこと)

そう自覚した途端、一気に顔が熱くなってきた。

(どうしよう。恥ずかしくて言えないよ、そんなこと)

想像しただけで頭に血がのぼりそうになる。

「どうかした?もしかして、酔った?」

そう言って、翔は心配そうに顔を覗き込んで
きた。
芹奈は慌てて頬を両手で押さえる。

「そ、そうかも。ちょっと身体が火照って……」
「じゃあもう休んだ方がいい。ほら、ベッドに入って」
「はい」

芹奈はバスローブのままベッドに横になる。

「おやすみ。良い夢を」
「おやすみなさい、副社長」

照れたように微笑むと、芹奈はそのままスーッと眠りに落ちた。



(可愛いなあ。ずっと見ていたくなる)

芹奈の寝顔に微笑みながら、翔は隣に横たわり、優しく芹奈の頭をなでていた。

「大好きだよ、芹奈」

眠っているのをいいことに、耳元で愛をささやく。

「誰よりも芹奈のことが好きだ。可愛くてたまらない。ずっと大切にするから」

すると芹奈が小さく、うん……と頷いた。

(ふっ、寝ぼけてるのかな?可愛い)

翔は思わず笑みをもらし、更に芹奈の耳元に顔を寄せる。

「芹奈、すごく可愛いよ」

芹奈は、ふにゃっと頬を緩めて嬉しそうに笑う。

「俺は芹奈のことが大好きだ。芹奈は?俺のこと、好き?」

うん……と、またしても芹奈は小さく頷く。

(え、ほんとに?)

翔は面白半分に聞いてみた。

「芹奈。副社長のこと、好き?」
「うん」
「じゃあ、井口くんのことは?」
「んー……。井口くんはね、菜緒ちゃんと、ラブラブなの」

えっ!そうなの!?と翔は驚く。

「じゃあ、村尾のことは?好き?」
「村尾くんはね……、お父さんなの」

ぶっ!と吹き出してしまい、慌てて口元を押さえた。
そしてゴクリと生唾を飲み込む。

「ねえ、芹奈」
「ん?なあに?」
「副社長のこと、本当に好きなの?」
「うん、大好き……」

ズザーッと後ずさり、バクバクする胸に手を当てて翔は悶絶する。

(ま、マジか?本当に?寝ぼけてるだけか?でも妙にちゃんと受け答えしてたし。やっぱり、本当に?)

芹奈が、俺のことを?と、翔は信じられない思いでもう一度にじり寄る。

「芹奈。クリスマスプレゼント、気に入ってくれた?」
「うん。すごく綺麗なの。えっとね、ブレスレット」
「そう、ブレスレット。ずっと着けててくれる?」
「うん。大事にするね」

目を閉じたまま甘い声で子どものように話す芹奈はあどけなく、普段の芹奈からは想像出来ない。

「私もね、副社長にプレゼント」
「え?何を?」
「抱き枕。ギューってくっついて寝るの」
「え、芹奈。副社長にくっついて寝るの?」
「そうなの。ギューってくっついたら、ぐっすり寝られるの」
「そっか。じゃあ、ギューってしようか」

翔はいそいそと布団に潜り込む。

「芹奈、おいで」

腕枕して抱き寄せると、芹奈は翔にギュッと抱きついた。

「あったかい……」

耳元でささやかれ、翔は思わずドキッとする。

「芹奈、大好きだよ」
「私も、大好きなの」
「じゃあ、明日副社長にそう言って」
「やだ。恥ずかしいもん」

そう言って芹奈は、翔の胸に顔をうずめる。

(なんだこりゃ、超可愛い!)

もっともっと話していたい。
だが芹奈は抱きついて安心したのか、再び深い眠りに落ちていった。



「おはよう」

翌朝。
目を覚ました芹奈に、片肘をついて半身を起こした翔が声をかける。

「お、おはようございます。副社長、お目覚め早かったんですね」
「ん?ついさっきね。君のおかげでぐっすり眠れたよ」
「そうでしたか、それは何よりです」

いつもの淡々とした芹奈に、翔は必死で笑いを堪える。
夕べの子どものように甘ったるい口調とは、まるで別人だった。

「今、何時ですか?」
「6時だよ。朝食を食べたら、タクシーで会社に行こうか」
「いえ、私は電車で行きます」
「ここはみなとみらいだよ?こんな遠くから君を一人で行かせる訳にはいかない」
「ですが、副社長と一緒に出社するなんて……」
「それなら、会社のすぐ近くで君を降ろそう。だったらいいだろ?」

はい、と芹奈は仕方なく頷く。

「よし。今、朝食を頼むから着替えておいで」
「分かりました」

ベッドを降りた芹奈がバスルームに姿を消すと、我慢の限界とばかりに翔は顔を手で覆う。

(ちょっと待て。なんだ?このギャップ!やられるわー)

とにかく芹奈は自分のことが好きなんだ。
そう思うと、翔は沸々と自信が湧いてきた。

(どうやったら現実世界でも認めてくれる?俺のことを好きだって)

早く芹奈の口からその言葉を聞きたい。
だが焦ることはない。

(だって芹奈は、俺のことが好きなんだもーん!)

思わずバンザイしながら心の中で叫ぶと、よし!と気合いを入れて、翔もベッドを降りた。
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