Good day ! 5

葉月 まい

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航空大学校

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「今日は翼達、休みみたいだな」

コックピットの左席に座った大和がそう言うと、右席の恵真も頷く。

「そうですね、土曜日ですから」

宮崎空港に着陸し、大和と恵真はそのままコックピットで折り返し便の準備を進めているところだった。

翼と舞、それから翔一がいる航空大学校宮崎本校は、宮崎空港のすぐ北側に隣接し、滑走路を挟んだ向かい側に訓練機の格納庫がある。

今日はオフの日で、格納庫のシャッターも閉まっていた。

「懐かしいな。あそこに今は子ども達がいるなんて、なんだか不思議な気がします」

恵真と大和にとっての母校でもある航空大学校に子ども達が入学して、3か月が過ぎようとしていた。

「そうだな。それにしても、俺と恵真で宮崎便を飛ばすなんて珍しい。スケジューラーさん、授業参観でもして来いって思ったのか?」
「ふふっ、それはないですよ。便間40分しかないんですから。でも子ども達の様子が気になる私達に、少しでも様子が分かるようにって、お気遣いいただいたのかもしれないですね」
「ああ。宮崎ステイの日があれば、ゆっくり会えるんだろうけど」
「宮崎ステイ? 私と大和さんで? それはおそらく可能性ゼロかと」

羽田から宮崎へは往復が基本。

思わぬ事態でステイとなっても、その時に二人が一緒に乗務している可能性はほぼ考えられない。

「まあ、そうだろうな。でもきっとあの子達のことだ、元気にやってるよ」
「そうですね」

そうこうしているうちにキャビンクリアとなり、二人は気持ちを切り替えた。

乗客が次々とパッセンジャーボーディングブリッジを渡り、搭乗完了となる。

「よし、プッシュバックリクエスト」
「Roger」

トーイングカーで押し出してもらい、機首も向きを変えた。

宮崎空港は小さな空港で見晴らしも良く、タキシングを始めてすぐに滑走路に到着する。

「Runway clear. ん? 大和さん、見て! 翼達がいる」

恵真が指差す先に、翼、舞、翔一が、大きくこちらに手を振っているのが見えた。

学校の敷地内にいるが、遮るものがない為、三人の様子がよく分かる。

「おおー、元気そうだな、みんな」
「ええ」

三人は笑顔で両手を振り、翔一にいたってはぴょんぴょん飛び跳ねている。

「ふふっ、楽しそう。授業参観は出来なかったけど、こうして元気な姿が見られて良かったです」
「ああ、そうだな」

その時、管制官から離陸の許可が伝えられた。

『J Wing 608. Runway09. Wind 090 at 7. Cleared for takeoff』
「Runway09. Cleared for takeoff. JW608」

恵真がリードバックを終えると、大和が気合いを入れる。

「よし、あの子達に本気の離陸を見せてやる」

本気の離陸?と、恵真は苦笑いした。

「Cleared for takeoff. 行くぞ、恵真」
「はい」

大和がスラストレバーを押し進めると、エンジン音が一気に高まる。

大和と恵真はキリッと表情を変え、翼達にサムアップサインを送った。

三人も大きくサムアップして見せる。

やがて滑走路をグングン加速すると、三人が見つめる先で、大和と恵真は軽やかに機体を離陸させ、大空の中へと飛び立っていった。



「ひゃー、テンション上がるわ。めっちゃかっこええよな、JWAの機体」

青空に吸い込まれるように小さくなっていく大和と恵真の飛行機を見送りながら、翔一が目を細めた。

翼と舞が、家族で共有している両親のスケジュールで今日の宮崎往復を確認し、ひと目でも会いたいと、滑走路が見える校内の格納庫前に来ていた。

「俺も早く飛びたいわー。帯広のフライト課程、楽しみやな」

そんな翔一に、翼が真顔で口を開く。

「翔一、どうでもいいけどその変な関西弁はやめろ」
「なんでやねん。郷に入っては郷に従えって言うやろ? いやー、すっかり俺も田舎暮らしに慣れたわ。のどかやなー」
「だから、ここは関西じゃないってば!」
「舞ちゃん、テニスしていかへん?」
「おい、翔一! 聞いてるのか?」

舞は二人のやり取りに苦笑いしつつ頷き、三人でキャンパス内のテニスコートに向かった。

毎日座学だと運動不足になりがちで、休日は気分転換を兼ねて三人でよくテニスをしていた。

「翼ー、ええかー? いくわよー」
「翔一! オネエ言葉はやめろ!」
「そおれっ!」

舞は二人の様子を笑いながら見守る。

先輩と同室の寮生活は緊張の毎日で、時々実家が恋しくなるが、兄の翼と幼馴染の翔一がいてくれることが、舞はなによりも心強かった。
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