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二刀流パイロット
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それからしばらくして、大和と恵真はキャプテンミーティングに臨んでいた。
「よーし、みんな揃ったな」
そう言って会議室に入って来た野中に、伊沢が不思議そうに尋ねる。
「え? 人数少なくないですか?」
会議室には大和と恵真の他に、倉科と伊沢しかいなかった。
「これで全員だよ。俺と倉科、佐倉と藤崎ちゃん。それから能天気男」
ちょっと!と伊沢が声を上げるが、野中は席に着くやいなや、身を乗り出して口を開いた。
「みんな、Mixed Fleet Pilotやってみないか?」
え!と皆で目を見開く。
恵真は思わず隣に座る大和と顔を見合わせた。
「つまり、二刀流パイロットってことですか?」
大和の問いに、野中は「そうだ」と頷き、真剣に皆を見渡した。
「通常パイロットは、操縦の混乱を避ける為、同時期に1機種しかライセンスは保有出来ない。つまりここにいる俺達は、今はB787しか操縦出来ない。だがこれからトリプルセブンの訓練を始めて、同時にどちらも乗務出来るようにする。そうすることでスケジューラーもシフトを組みやすくなり、スムーズな運行にも繋がる。このMixed Fleet Flying制度は、海外では既に珍しいことではない。我がJWAもこれを取り入れていくことになり、まずはここにいる俺達が先発隊となって始めたいと思う。俺がプロジェクトリーダーとして、このメンバーを選んだ。どうだ? やってみないか?」
恵真は突然の話に戸惑う。
だが野中は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「機長になるのがパイロットのゴールじゃない。次なる俺達の目標はB787と777、つまりドリームライナーとトリプルセブンの二刀流パイロットだ。俺達なら必ず出来る」
でも……と、伊沢が確認するように、野中に尋ねる。
「78と77、どちらかの資格審査に落ちたら、どちらの資格も取り消されるんですよね? 二刀流どころか、空を飛べなくなる」
「そうだ。だからゆっくり考えて返事をくれればいい」
すると倉科が、ふっと笑みをもらした。
「俺はやりますよ。二刀流なんて、男のロマンだ」
「さては倉科、更にモテようとしてるだろ?」
倉科は相変わらず独身生活を謳歌し、恋愛を楽しんでいる。
「あ、分かりました? 動機はどうあれ、やってみせますよ」
「頼もしいのか、なんなのか……。とにかく分かった。伊沢、よく考えてから返事をくれ。佐倉も藤崎ちゃんも」
野中に言われて三人は「はい」と返事をした。
◇
「恵真、お疲れ様。はい、ミルクティー」
「ありがとう」
その日の夜、ソファに並んで座り、二人は自然と今日のミーティングのことを思い返していた。
「大和さんはどう思いましたか? Mixed Fleet Pilotについて」
「ん? そうだな」
大和はコーヒーカップを置いて、宙に目をやる。
「俺はそこまで無謀なことだとは思わない。これまで同時期1機種が当たり前だという認識だったから驚いてしまうけど、そもそも78と77は共通性がある。もちろんエンジン性能や機体の大きさは違うけど、案外スムーズに乗りこなせるんじゃないかな」
「そうなんですね」
「ああ。俺はやってみようと思う。先々のことを見据えると、JWAはこのMixed Fleet Flying制度をどんどん広めていかなければいけない。恵真や伊沢、その下の世代の機長達に、道筋を作っておきたいんだ」
恵真は大和の言葉にじっくり耳を傾けてから、顔を上げた。
「私もやります」
「え、本当に?」
「はい。だって今、翼も舞も夢に向かってがんばってる。私もがんばりたいです。それに大和さんと一緒なら、心強いし」
大和は優しく恵真に微笑んだ。
「ああ、一緒に挑戦しよう、恵真。翼と舞の道しるべとなるように」
「はい」
見つめ合うと、大和はそっと恵真の肩を抱き寄せる。
恵真はそんな大和の肩にもたれ、穏やかな幸せを噛みしめていた。
◇
大和と恵真が返事をするのと同じくして、伊沢も野中に「やらせてください」と伝えた。
なんでも、うちに帰ってこずえに相談したところ「やるに決まってるでしょ」とひと言で片づけられ、娘の美羽には「パパ、かっこいい!」と持ち上げられたらしい。
「よーし。俺も二刀流になって、こずえと美羽にいいとこ見せてやる!」
見違えるように気合いを入れる伊沢に苦笑いしつつ、野中は「この五人で必ずやり遂げよう!」と力強く頷いてみせた。
そして早速訓練が始まる。
まずはB777のマニュアルの確認、フライトシミュレーターを使っての訓練、実機のオブザーバーシートに座っての見学、そして実機の操縦桿を握っての訓練。
普段の乗務の合間に訓練をこなす毎日は、あっという間に過ぎていった。
「俺のパイロット人生も、残りあと2年ちょっと。二刀流として、最後までしっかりと後輩達に背中を見せていかないと」
野中がポツリと呟いた言葉に、大和も恵真も、伊沢も倉科も、しんみりとする。
年齢的に野中は2年後のパイロット引退が決まっていた。
(野中さんと一緒に飛べなくなるなんて……)
想像しただけで、恵真は早くも涙が込み上げそうになる。
(Mixed Fleet Pilot、しっかりやってみせる。野中さんに恩返しする為にも)
そう固く心に決めた。
◇
11月下旬になると、宮崎での学課課程を無事に終えた翼と舞が束の間帰省し、少し遅れた21歳の誕生日を家族で祝う。
「お父さんもお母さんも、すごいね。私、勉強すればするほどパイロットってすごいなって思い知らされるのに、更に二刀流なんて」
「ああ、本当に尊敬する。俺達もがんばらないとな、舞」
「うん!」
そんな子ども達に、恵真もがんばろうと大和と頷き合った。
翼と舞は帯広のフライト課程へと進み、家族それぞれまた訓練に励む。
恵真も大和もB777の右席でのFOデューティーはこなしており、あとは左席での機長訓練を残すのみとなっていた。
年が明けると、翼と舞から初のソロフライトを終えたというメッセージが、写真付きで送られてくる。
「わあ、二人とも嬉しそう」
訓練機の前で笑顔を見せる翼と舞に、恵真も大和も目を細めた。
「ああ、いい笑顔だ。ファーストソロフライトは特別だからな。一人で空を飛んだ時の感動は、いつまで経っても忘れられない」
「ええ、私もです。翼も舞もこの感動を胸に、これからもパイロットの道を進んでほしいです」
「そうだな」
「私も機長ひとり立ち、がんばらないと!」
「俺もだ」
家族四人で互いに刺激を受け、励まし合った。
◇
2月上旬。
Mixed Fleet Pilotとしての全ての訓練を無事て資格審査にパスした五人が、二刀流として乗務をこなすようになると、広報課の川原がSNSに紹介文を掲載した。
『二刀流パイロットの誕生!
この度我が日本ウイング航空に、ボーイング787と777の2機種を操縦するMixed Fleet Pilotが5名誕生しました!
皆様、ぜひどちらの機種にも乗ってみてくださいね。
二刀流パイロット達が2つの機種で、皆様のご搭乗をお待ちしております』
するとまたしても、ものすごい勢いでコメントが寄せられる。
『あー! 佐倉夫妻じゃないですか』
『ほんとだ。夫婦で二刀流? ちょーかっこいい!』
『78も77も、お二人の操縦で乗りたーい!』
『どの便を担当するのか、事前に教えてもらえたらなー』
『ですよね。この夫婦が一緒に飛ばすなら、どこ行きでも乗るのに』
『JWAさーん、企画してくださーい』
止まらないコメントに、川原の判断は早かった。
数日後、オフィスにShow Up(出社)するなり、恵真は声をかけられる。
「藤崎さん! やるわよ、新たなフライトシリーズ。その名も、Mixed Fleet Flight!」
「……はい?」
「日程は3月1日と2日。まず1日は羽田から那覇をB787で、翌日2日の那覇・羽田はB777で。操縦はもちろん佐倉夫妻」
「え、ええー!?」
「今回も搭乗証明書をプレゼントするわよ。さあ、忙しくなるわ」
そう言って川原は、意気揚々とデスクに戻っていった。
◇
夜、マンションに帰って来た大和に、恵真は川原の話を伝える。
「ん? それってつまり、俺と恵真で那覇往復飛ばすってこと?」
「そうみだいです。早速スケチェンされてて……、ほら」
恵真は会社支給のタブレットで、変更されたシフトを大和に見せた。
3月1日から1泊で那覇ステイ。
往路の使用機材はB787、復路はB777となっていた。
大和も自分のタブレットを確認する。
「え、俺もだ。いつの間に?」
「早いですよね、こういう時の川原さんって。でも今すぐ売り出したとしても、1か月足らずですよ? 予約入るんでしょうか」
「そうだよな。春休みでもないし、那覇に1泊しかしないし。売れ行きさっぱりかもよ?」
「ですよね。なんだか責任感じちゃう」
だが次にオフィスで会うと、川原は嬉しそうに恵真に駆け寄ってきた。
「藤崎さーん、即日完売よ! しかも定価で」
「ええー!? 本当に?」
「そうなの。ちょうど1年前にフルムーンフライトをやって、フライトシリーズは終わってしまったんだって諦めてたところにこの企画! って、お客様もSNSで大賑わいよ。リピーターはもちろん、念願叶ってやっとお二人の便に乗れるって方や、78と77の両方でお二人の便に乗れるなんてって飛行機マニアの方も。あー、なんだか私もわくわくしちゃうわ。さ! 搭乗証明書作らなきゃ」
ウキウキと去っていく川原を、恵真は呆然と見送った。
◇
「どう? 恵真。Mixed Fleet慣れた?」
Mixed Fleet Flightを翌週に控えたある日、大和は食後のコーヒーを飲みながら恵真に尋ねた。
「はい、だいぶ。違う車を運転するような感じですよね。78はスポーツカーで、77は、うーん、リムジンみたい? リムジン運転したことないので、分からないですけど」
「ああ、確かにそんな感覚だよな」
「エンジン音が全然違いますよね。あとは、機内の湿度とか。離陸も、78はスッと機首が上がるけど、トリプルセブンは、よいしょって感じ」
「ははは! そうだな。けどトリプルセブンの方が重厚感あって、操縦してますって気がするよ」
「ええ、どちらにもそれぞれ良さがありますよね。両方操縦出来るなんて、パイロット冥利に尽きます」
「俺もそう思うよ。それに恵真とまた一緒に特別なフライトを担当させてもらえるとは、思ってもみなかった。楽しみだな、Mixed Fleet Flight」
「はい!」
にっこり笑う恵真に、大和も頬を緩めた。
「あとね、大和さん」
「ん? なに」
「那覇でステイの時に、大和さんと一緒に行きたいところがあるの」
「もちろん、どこでも行くよ。那覇でデートしよう」
すると恵真が、はにかんでうつむいく。
その頬は、ほんのりピンクに染まっていた。
大和はグッと恵真の肩を抱き寄せると、耳元でささやく。
「いつまで経っても可愛いな、俺の恵真は」
「ちょ、大和さん! 恥ずかしいからやめて」
「どうして? 誰も見てないよ」
「大和さんに見られてるもん」
「それで恥ずかしがるの? ほんとにどこまでも可愛いな、恵真」
そう言って、頬に優しくキスをする。
恵真は更に頬を赤くして、目を潤ませながら大和を見上げた。
「恵真……」
大和の胸が切なさで締めつけられる。
両手で胸に抱きしめると、大和は恵真に愛を込めて口づけた。
「よーし、みんな揃ったな」
そう言って会議室に入って来た野中に、伊沢が不思議そうに尋ねる。
「え? 人数少なくないですか?」
会議室には大和と恵真の他に、倉科と伊沢しかいなかった。
「これで全員だよ。俺と倉科、佐倉と藤崎ちゃん。それから能天気男」
ちょっと!と伊沢が声を上げるが、野中は席に着くやいなや、身を乗り出して口を開いた。
「みんな、Mixed Fleet Pilotやってみないか?」
え!と皆で目を見開く。
恵真は思わず隣に座る大和と顔を見合わせた。
「つまり、二刀流パイロットってことですか?」
大和の問いに、野中は「そうだ」と頷き、真剣に皆を見渡した。
「通常パイロットは、操縦の混乱を避ける為、同時期に1機種しかライセンスは保有出来ない。つまりここにいる俺達は、今はB787しか操縦出来ない。だがこれからトリプルセブンの訓練を始めて、同時にどちらも乗務出来るようにする。そうすることでスケジューラーもシフトを組みやすくなり、スムーズな運行にも繋がる。このMixed Fleet Flying制度は、海外では既に珍しいことではない。我がJWAもこれを取り入れていくことになり、まずはここにいる俺達が先発隊となって始めたいと思う。俺がプロジェクトリーダーとして、このメンバーを選んだ。どうだ? やってみないか?」
恵真は突然の話に戸惑う。
だが野中は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「機長になるのがパイロットのゴールじゃない。次なる俺達の目標はB787と777、つまりドリームライナーとトリプルセブンの二刀流パイロットだ。俺達なら必ず出来る」
でも……と、伊沢が確認するように、野中に尋ねる。
「78と77、どちらかの資格審査に落ちたら、どちらの資格も取り消されるんですよね? 二刀流どころか、空を飛べなくなる」
「そうだ。だからゆっくり考えて返事をくれればいい」
すると倉科が、ふっと笑みをもらした。
「俺はやりますよ。二刀流なんて、男のロマンだ」
「さては倉科、更にモテようとしてるだろ?」
倉科は相変わらず独身生活を謳歌し、恋愛を楽しんでいる。
「あ、分かりました? 動機はどうあれ、やってみせますよ」
「頼もしいのか、なんなのか……。とにかく分かった。伊沢、よく考えてから返事をくれ。佐倉も藤崎ちゃんも」
野中に言われて三人は「はい」と返事をした。
◇
「恵真、お疲れ様。はい、ミルクティー」
「ありがとう」
その日の夜、ソファに並んで座り、二人は自然と今日のミーティングのことを思い返していた。
「大和さんはどう思いましたか? Mixed Fleet Pilotについて」
「ん? そうだな」
大和はコーヒーカップを置いて、宙に目をやる。
「俺はそこまで無謀なことだとは思わない。これまで同時期1機種が当たり前だという認識だったから驚いてしまうけど、そもそも78と77は共通性がある。もちろんエンジン性能や機体の大きさは違うけど、案外スムーズに乗りこなせるんじゃないかな」
「そうなんですね」
「ああ。俺はやってみようと思う。先々のことを見据えると、JWAはこのMixed Fleet Flying制度をどんどん広めていかなければいけない。恵真や伊沢、その下の世代の機長達に、道筋を作っておきたいんだ」
恵真は大和の言葉にじっくり耳を傾けてから、顔を上げた。
「私もやります」
「え、本当に?」
「はい。だって今、翼も舞も夢に向かってがんばってる。私もがんばりたいです。それに大和さんと一緒なら、心強いし」
大和は優しく恵真に微笑んだ。
「ああ、一緒に挑戦しよう、恵真。翼と舞の道しるべとなるように」
「はい」
見つめ合うと、大和はそっと恵真の肩を抱き寄せる。
恵真はそんな大和の肩にもたれ、穏やかな幸せを噛みしめていた。
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大和と恵真が返事をするのと同じくして、伊沢も野中に「やらせてください」と伝えた。
なんでも、うちに帰ってこずえに相談したところ「やるに決まってるでしょ」とひと言で片づけられ、娘の美羽には「パパ、かっこいい!」と持ち上げられたらしい。
「よーし。俺も二刀流になって、こずえと美羽にいいとこ見せてやる!」
見違えるように気合いを入れる伊沢に苦笑いしつつ、野中は「この五人で必ずやり遂げよう!」と力強く頷いてみせた。
そして早速訓練が始まる。
まずはB777のマニュアルの確認、フライトシミュレーターを使っての訓練、実機のオブザーバーシートに座っての見学、そして実機の操縦桿を握っての訓練。
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「俺のパイロット人生も、残りあと2年ちょっと。二刀流として、最後までしっかりと後輩達に背中を見せていかないと」
野中がポツリと呟いた言葉に、大和も恵真も、伊沢も倉科も、しんみりとする。
年齢的に野中は2年後のパイロット引退が決まっていた。
(野中さんと一緒に飛べなくなるなんて……)
想像しただけで、恵真は早くも涙が込み上げそうになる。
(Mixed Fleet Pilot、しっかりやってみせる。野中さんに恩返しする為にも)
そう固く心に決めた。
◇
11月下旬になると、宮崎での学課課程を無事に終えた翼と舞が束の間帰省し、少し遅れた21歳の誕生日を家族で祝う。
「お父さんもお母さんも、すごいね。私、勉強すればするほどパイロットってすごいなって思い知らされるのに、更に二刀流なんて」
「ああ、本当に尊敬する。俺達もがんばらないとな、舞」
「うん!」
そんな子ども達に、恵真もがんばろうと大和と頷き合った。
翼と舞は帯広のフライト課程へと進み、家族それぞれまた訓練に励む。
恵真も大和もB777の右席でのFOデューティーはこなしており、あとは左席での機長訓練を残すのみとなっていた。
年が明けると、翼と舞から初のソロフライトを終えたというメッセージが、写真付きで送られてくる。
「わあ、二人とも嬉しそう」
訓練機の前で笑顔を見せる翼と舞に、恵真も大和も目を細めた。
「ああ、いい笑顔だ。ファーストソロフライトは特別だからな。一人で空を飛んだ時の感動は、いつまで経っても忘れられない」
「ええ、私もです。翼も舞もこの感動を胸に、これからもパイロットの道を進んでほしいです」
「そうだな」
「私も機長ひとり立ち、がんばらないと!」
「俺もだ」
家族四人で互いに刺激を受け、励まし合った。
◇
2月上旬。
Mixed Fleet Pilotとしての全ての訓練を無事て資格審査にパスした五人が、二刀流として乗務をこなすようになると、広報課の川原がSNSに紹介文を掲載した。
『二刀流パイロットの誕生!
この度我が日本ウイング航空に、ボーイング787と777の2機種を操縦するMixed Fleet Pilotが5名誕生しました!
皆様、ぜひどちらの機種にも乗ってみてくださいね。
二刀流パイロット達が2つの機種で、皆様のご搭乗をお待ちしております』
するとまたしても、ものすごい勢いでコメントが寄せられる。
『あー! 佐倉夫妻じゃないですか』
『ほんとだ。夫婦で二刀流? ちょーかっこいい!』
『78も77も、お二人の操縦で乗りたーい!』
『どの便を担当するのか、事前に教えてもらえたらなー』
『ですよね。この夫婦が一緒に飛ばすなら、どこ行きでも乗るのに』
『JWAさーん、企画してくださーい』
止まらないコメントに、川原の判断は早かった。
数日後、オフィスにShow Up(出社)するなり、恵真は声をかけられる。
「藤崎さん! やるわよ、新たなフライトシリーズ。その名も、Mixed Fleet Flight!」
「……はい?」
「日程は3月1日と2日。まず1日は羽田から那覇をB787で、翌日2日の那覇・羽田はB777で。操縦はもちろん佐倉夫妻」
「え、ええー!?」
「今回も搭乗証明書をプレゼントするわよ。さあ、忙しくなるわ」
そう言って川原は、意気揚々とデスクに戻っていった。
◇
夜、マンションに帰って来た大和に、恵真は川原の話を伝える。
「ん? それってつまり、俺と恵真で那覇往復飛ばすってこと?」
「そうみだいです。早速スケチェンされてて……、ほら」
恵真は会社支給のタブレットで、変更されたシフトを大和に見せた。
3月1日から1泊で那覇ステイ。
往路の使用機材はB787、復路はB777となっていた。
大和も自分のタブレットを確認する。
「え、俺もだ。いつの間に?」
「早いですよね、こういう時の川原さんって。でも今すぐ売り出したとしても、1か月足らずですよ? 予約入るんでしょうか」
「そうだよな。春休みでもないし、那覇に1泊しかしないし。売れ行きさっぱりかもよ?」
「ですよね。なんだか責任感じちゃう」
だが次にオフィスで会うと、川原は嬉しそうに恵真に駆け寄ってきた。
「藤崎さーん、即日完売よ! しかも定価で」
「ええー!? 本当に?」
「そうなの。ちょうど1年前にフルムーンフライトをやって、フライトシリーズは終わってしまったんだって諦めてたところにこの企画! って、お客様もSNSで大賑わいよ。リピーターはもちろん、念願叶ってやっとお二人の便に乗れるって方や、78と77の両方でお二人の便に乗れるなんてって飛行機マニアの方も。あー、なんだか私もわくわくしちゃうわ。さ! 搭乗証明書作らなきゃ」
ウキウキと去っていく川原を、恵真は呆然と見送った。
◇
「どう? 恵真。Mixed Fleet慣れた?」
Mixed Fleet Flightを翌週に控えたある日、大和は食後のコーヒーを飲みながら恵真に尋ねた。
「はい、だいぶ。違う車を運転するような感じですよね。78はスポーツカーで、77は、うーん、リムジンみたい? リムジン運転したことないので、分からないですけど」
「ああ、確かにそんな感覚だよな」
「エンジン音が全然違いますよね。あとは、機内の湿度とか。離陸も、78はスッと機首が上がるけど、トリプルセブンは、よいしょって感じ」
「ははは! そうだな。けどトリプルセブンの方が重厚感あって、操縦してますって気がするよ」
「ええ、どちらにもそれぞれ良さがありますよね。両方操縦出来るなんて、パイロット冥利に尽きます」
「俺もそう思うよ。それに恵真とまた一緒に特別なフライトを担当させてもらえるとは、思ってもみなかった。楽しみだな、Mixed Fleet Flight」
「はい!」
にっこり笑う恵真に、大和も頬を緩めた。
「あとね、大和さん」
「ん? なに」
「那覇でステイの時に、大和さんと一緒に行きたいところがあるの」
「もちろん、どこでも行くよ。那覇でデートしよう」
すると恵真が、はにかんでうつむいく。
その頬は、ほんのりピンクに染まっていた。
大和はグッと恵真の肩を抱き寄せると、耳元でささやく。
「いつまで経っても可愛いな、俺の恵真は」
「ちょ、大和さん! 恥ずかしいからやめて」
「どうして? 誰も見てないよ」
「大和さんに見られてるもん」
「それで恥ずかしがるの? ほんとにどこまでも可愛いな、恵真」
そう言って、頬に優しくキスをする。
恵真は更に頬を赤くして、目を潤ませながら大和を見上げた。
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