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第3章85話:騎士団の魂
しおりを挟む空間切断によって絶命したネア。
周囲は静まり返る。
兵士たちから口々に声が漏れる。
「え……?」
「うそ……ネア様?」
「ネア様が死んだ……そんな、馬鹿な……」
「冗談でしょう。だって、精霊が死ぬはずがない」
「ネア様! 起きてください! ネア様!」
神殿騎士団たちは混乱していた。
絶対的な支配者として君臨していた精霊。
リースバーグ神殿国の信仰対象。
自分の命よりも優先してきた存在。
そんなネアが、死んだのだ。
誰もが受け止められない。
事実を容認できない。
何かの間違いではないか?
夢でも見ているのではないか?
そういった甘い現実逃避をおこなう。
だから俺は、彼らに事実を正しく認識させるべきだと思った。
「精霊ネア・リースバーグは死んだ!」
と俺は叫ぶ。
「お前たち、神殿国の兵士たちに、それがハッキリとわかるよう示してやろう!!」
俺はサイコキネシスを使い、転がるネアの生首を浮かせた。
俺の近くまで生首を持ってきて、さらに高さ5メートルほどの位置まで浮上させる。
誰の目にもネアの首が見えやすい位置。
そこで俺は――――
【空間圧縮】を使用する。
直後。
ネアの生首が、圧縮されて潰れた。
兵士たちは、現実感を失ったような顔で、その光景を呆然と見つめていた。
俺は告げた。
「信仰という名の夢は終わりだ。都合のよい非現実に逃避するな。精霊は―――この俺が、アンリ・ユーデルハイトが、殺害したのだからッ!」
彼らに言葉通り『現実から逃げるな』……と伝えたいわけではない。
俺がしたかったのは挑発。
俺が、この俺こそが、ネアを殺したのだと。
神殿国の主である精霊を殺した人間だと、示すためだ。
そうする理由はただ一つ。
ここで、神殿国の戦士たちを見逃しても、どうせあとで彼らは、俺を殺しに来る。
精霊ネアの仇討ちのために、俺を襲撃しにくるだろう。
だから今のうちに皆殺しにしておこうと考えた。
――――だが、せめて。
神殿国の戦士たちにも、多少の華を持たせてやろうと思った。
ネアを失い、呆然としたままの彼らを瞬殺しても、その魂は浮かばれないだろう。
神殿国の騎士として、兵士として、精霊のために命を尽くしたのだと、あの世で思えるように。
俺が『誇りある戦い』を与えてやろうと思う。
「―――――――――」
神殿騎士団たちが、ネアの死を理解する。
最初に、彼らの顔に浮かんだ表情は、喪失感と虚無感。
しかし、だんだんとそれらを塗りつぶしていったのは、極大の怒りだった。
「「「「ウァアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」」」」
神殿騎士団が咆哮する。
俺に対する憎悪の叫びが、大地を震わせる。
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