Bravo!

Rachel

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2. 歩み寄り

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 マルグレーテとエドガー、そしてテオを乗せた馬車は、イタリア半島のさらに北へ進んだ。
 いくつもの村や町を超え、赤や黄色に染まった山々が見えてくる。ふもとに鉄道のある大きな街が見えてきた頃には、もう太陽は傾いていた。
 三人は小さな町で馬車を降り、宿屋に泊まることにした。
 案内された3階の大部屋は、簡素ではあるがきちんと手入れの行き届いた空間で、窓辺は小さなバルコニーになっていた。大部屋の壁には寝具だけ置かれた小さな小部屋への扉が4つほど付いていた。3人それぞれの部屋を決めた後、エドガーが少し休もうと言ったが、テオは散歩するとだけ言ってふらりと出ていった。

「まったく、恐ろしく無口な男だな」

 エドガーは部屋のテーブルに座って息を吐いた。

「街の一角でその日暮らしなら、もっと饒舌でもいいんじゃないか? よく今まで稼いできたものだ」

「叔父様、彼のいないところでもそういうことは言わないで。知り合ったばかりなのだから気を使っているのかもしれないわ」

 マルグレーテは諌めた。

「それにおしゃべりな貴族より寡黙の方がずっと紳士らしいじゃない」

「何も明かさないのは、後になって自分が金を持って逃げた時に足跡を辿れないようにするためではないか、などと考えてしまうだろう。しつこいようだが、彼は放浪者なんだぞ」

 叔父の言葉にマルグレーテは腰に手を当てた。

「もう、叔父様ったら! ほんとうにしつこいわね。何度も言ってるけど、ウィーンへの同行は私が無理やりお誘いしたんだから、金を持って逃げるなんてそんなことはありえないわよ。叔父様がいつまでもそんなことを思っているから、彼は口を開いてくれないのかもしれないわ」

 ひとしきり口論した後、エドガーは揺り椅子に座ってうたた寝をし始め、マルグレーテは荷物の整理に取り掛かっていた。
 しばらくすると、大部屋に食事が運ばれてきた。宿屋の女将は三人分の食事を持ってきてくれたのだが、部屋に二人しかいないことに戸惑っていたので、マルグレーテが言った。

「そこに置いてください。ありがとうございます」

 その声に、エドガーは目を覚ました。

「ん……なんだ……もう夕時か」

 マルグレーテは外套を手に取った。

「私、テオ様を探してくるわ」

「え? ま、待ちなさい、マルグレーテ!」

 エドガーに呼ばれて彼女は怪訝そうに振り向いて「なによ」と言いたげに眉を寄せた。

「知らない土地なんだ、むやみに動かんでくれ」

「疲れているなら叔父様は休んでいてけっこうよ。それに私だって小さな子どもじゃないんだから盗賊に捕まったりなんてしません」

 つんとした態度で言う姪の姿にエドガーは首を振った。

「そうじゃない、私はお前のお父様からいろいろと言付かった上で預かっているんだ。第一に、この旅自体は反対されていただろう? 私がひと時もお前から目を離さないと約束したから……」

 マルグレーテはもう聞きたくないというように遮って言った。

「ええ、ええ、わかったわよ、それなら叔父様も一緒に着いてきたらいいわ。どのみち、テオ様と一緒ではないと食事はとらないつもりなんだから」




 宿屋を出た二人は、人々の行き交うにぎやかな通りを歩いた。川を跨ぐ橋に差し掛かった時、向こうの雑踏からアコーディオンの音楽が聞こえてきた。顔を見合わせた二人はその音楽の方へ進むと、教会の階段下で二人のアコーディオン弾きが音楽を奏でている様子が見えてきた。独特な雰囲気の曲だが、立ち止まって聴いている客は少ない。人通りの多い道であるが、皆素通りしているようだった。
 その時、マルグレーテはあっと声をあげた。

「あそこにテオ様が!」

 アコーディオン弾きから少し離れたところにいるのは紛れもなくテオだった。こちらと反対側の通りの建物の壁に寄りかかって演奏者の様子を眺めている。今朝肩から下げていた小さな鞄にバイオリンケースを持ったままだったから、エドガーもすぐに彼と認識できた。

「あんなところで一体何を……」

 エドガーが呟きながら姪の方をちらりと見ると、彼女はすでに叔父を置いて人混みをかきわけ、テオの方へと向かっているではないか。エドガーも「ま、待ちなさい、マルグレーテ」と慌てて後を追った。


 テオは、二人のアコーディオン弾きの奏でるその曲に聴き入っていた。この辺りの地方曲はほとんど認識しているつもりだったが、彼にとって初めて聴くメロディーだった。これなら自分のレパートリーにも新しい旋律を入れられる。そう考えていた時。

「テオ様、ここにいらしたのね!」

 宿屋にいると思っていたマルグレーテが駆け寄ってきた。相変わらずにこにこと嬉しそうな顔をしている。顎が疲れたりしないのだろうか。ほとんど笑わないテオは、彼女の笑顔を見てそんなことを考えていたが、そうとは知らずマルグレーテは弾んだ声で言った。

「素敵なアコーディオン。こんなメロディーは初めて聴いたわ」

 それにはテオも頷いた。

「一見単調な曲に聴こえるが、少しずつ違っていて、決して簡単じゃない旋律だ」

 マルグレーテはふと周りの様子を見て首を傾げた。

「こんなに素敵な演奏なのに、なぜ人が集まらないのかわからないわ。みんな聞き慣れている音楽なのかしら?」

「アコーディオン二つという単調さが退屈させているのかもしれない。すごくおもしろい曲なのに。何か別の楽器も加えて奏でれば、数人は足を止めるだろう。なんで後ろに置いてあるリュートを使わないんだ、弦があれば少し曲調に張りが出るのに……」

 眉を寄せて首を傾げたテオを、マルグレーテは少し驚いた様子で見ていた。
 馬車の中ではほとんど話さなかったのに、音楽の話題になると饒舌なのね。その時彼が持っているバイオリンケースが目に入った。そうだわ!

「テオ様、あなたも一緒に演奏すればいいじゃない! あなたが加われば確実に人を引き寄せるわ」

 テオは目を丸くした。

「……俺も?」

 たじろいだ様子のテオに、マルグレーテは嬉しそうに頷いた。

「そうよ、もうメロディーは覚えたんでしょう? あなたが弾けば絶対みんな立ち止まるわ。それに、合わせてみたら絶対もっと素敵な音楽になるわよ……さあ、バイオリンを出してくださいな!」

 テオは戸惑っていたが、マルグレーテに押されてケースを開けた。中から使い古したバイオリンを取り出す。彼は少し躊躇ってからケースをマルグレーテに渡すと、演奏者達のいる教会の階段下へ向かっていった。

 アコーディオン弾きの二人は、少しがっかりしながら演奏していた。今日はちっとも客が集まらない。仕方ない、そういう日もある。二人が目配せしてそろそろ終わりにしようと最後のメロディーに差し掛かった、その時だった。
 通りを歩いている人達の向こうから、自分たちのアコーディオンの音楽に合わせたバイオリンが突然聴こえてきて、それを弾いている一人の青年が現れた。テオは演奏しながら演奏者達に歩み寄り、彼らの隣に立つと、一層安定した美しいメロディーを奏でた。アコーディオン弾きの二人は驚いて目を見合わせたが、すぐに伴奏にまわってバイオリンをひきたてる。
 突如現れたバイオリンの存在に、マルグレーテの読み通り、道ゆく人の多くが感嘆の声を漏らして足を止めた。マルグレーテも楽器ケースを抱えたまま演奏者たちから少し離れたところに立って頬を紅潮させて聴き入る。そこへ、ようやくエドガーも駆けつけた。

 三人の演奏は、初めて合わせたのにもかかわらず美しかった。何より路上でのバイオリンがこの町では珍しかったようで、見物人の輪はどんどん厚みを増していった。テオは自分のメロディーの山を終えると、飾りを弾きながらアコーディオン演奏者の二人にリュートを弾けと目で合図した。それに一人が気づきリュートを手にしたので、演奏は三つの楽器になり、調和の膨らみが増した。アコーディオン、リュート、バイオリンの美しい調べに、マルグレーテもエドガーも、そして立ち止まった観客達も皆、心を奪われ、聴き惚れた。

 演奏が終わると、大きな拍手がわき起こった。歓声が飛びかうと共に、コインも大量に降ってくる。歓喜に包まれる中、アコーディオン弾きの二人も、驚きを含んだ満面の笑みでテオに拍手を送った。

「ブラボ! 素晴らしいバイオリンだ!」

「あんな即興きいたことがない! 隣できいていて感動したよ」

 テオは少々申し訳なさそうに頭をかいた。

「すまない、突然乱入した」

 演奏者二人は笑い声をあげた。

「何言ってる、君のおかげで大成功だ!」

「そうさ、今日はもうだめかと思っていた……素晴らしい演奏をありがとう!」

 二人の肯定的な言葉に、テオはほんの少しだけ表情を和らげた。

「ありがとう。でも、あんたたちの演奏こそすごい。曲も初めて聴いた……この辺りでよく耳にするメロディーなのか?」

 アコーディオン弾きは首を振った。

「いいや、違うんだ。俺がスコットランド出身であそこの音楽とこいつの故郷の音楽を混ぜて作ったのさ」

 もう一人の男も頷いた。

「そうだ。おもしろい音律だろう」

 一通り音楽の話をした後、「おお、こんなに」と思い出したようにアコーディオン弾き達が地面に大量に散らばっているコインを拾い始める。

「ここまで稼いだのは久しぶりだ……ほんとに君のバイオリンのおかげで今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだよ」

 テオは口の端を少し上げて頷くと、バイオリンを抱えなおした。

「それじゃあ、俺はこれで」

「え……? おい、どこへ行く?」

 アコーディオン弾きの二人は驚いたようにぴょんと立ち上がった。

「君の取り分はまだ拾っていないだろう? 今から拾って換算するから少し待ってくれ。なんなら一緒に酒でも……」

「俺はいらない」

 テオが首を振ったのに二人は目を丸くした。

「「いらない!?」」

「元はあんたたちが演奏していたんだ、俺は利益目的で弾いたわけじゃない。それに、新しい旋律を教えてもらっただけで満足してる。今日稼いだ金はあんたたちのものだ。俺は、今夜の宿屋には困ってないから心配しないでくれ」

 アコーディオン弾きたちは耳を疑った。彼がもし演奏しなければこの大金はここにはないのに!
 去ろうとする彼をアコーディオン弾きたちはなおも引き止めた。

「ま、待ってくれよ! それじゃあ君に申し訳がたたない。せめてこれだけでも受け取ってくれ」

 そう言って二人は先ほど拾っていた一掴みほどのコインを差し出した。まだまだ地面に落ちているコインよりも少ないが、それでもいくらかの量はある。
 しかし、テオは無表情のまま言った。

「なら、手間賃だけ」

 彼は差し出されたコインの山から三枚ほどのコインを摘まんで踵を返すと、エドガーとマルグレーテの姿を見つけ出した。そして呆気にとられているアコーディオン弾き二人を尻目に、教会の脇にいるマルグレーテ達の方へ歩み出した。

 
 マルグレーテ達は、その様子をすっかり見ていたが、エドガーがぽつりとつぶやいた。

「確かに、彼は金目当てではないようだな。私は……彼について少し誤解していた」

 欲のない彼の性格を知り、叔父はばつの悪そうな表情を浮かべていた。

 こちらへ歩み寄ってきた無表情のままのテオに、マルグレーテはケースを差し出しながら声を弾ませて言った。

「すばらしかったわ! 初めて聴いた曲なのにあんなに感動的に弾いてしまうなんてさすがね」

 するとテオは、珍しく少しだけ恥じるような様子で返した。

「いや、実はその……ごまかしだらけだった」

「嘘! 全然わからなかったわよ!」

 マルグレーテの言葉にエドガーも同調した。

「初めて弾いたとは思えない演奏だったよ。さっきの演奏者に対するふるまいといい、その腕でちゃんと生活してきたということがよくわかった……今までの無礼を詫びたい、テオ君」

 テオは少し驚いた様子で、しばらくエドガーの顔を眺めていたが、やがて下を向いて言った。

「別に気にしていない」

 そっけない返事だった。しかし、以前より柔らかい口調になっていた。
 マルグレーテも微笑んで言った。

「さあ、宿屋に戻りましょう」



 その帰り道、小さなトラブルが起こった。
 雑踏の中を歩いている時、少年達が走りこんできたかと思うと、思い切りマルグレーテとテオにぶつかってきたのだ。エドガーがとっさにマルグレーテをかばったため彼女は転ぶことはなく、テオもよろめいただけだった。すぐさま走り去っていく少年達の後ろ姿にエドガーは憤慨した。

「おい、こらあっ!……全く、なんて子どもらだ、謝りもしないなんて」

「何をあんなに急いでいたのかしら……テオ様、どうなさったの?」

 マルグレーテはからっぽになった両手を呆然と見つめているテオに気づいた。
 テオは動揺した声で言った。

「すられた……楽器を奴らにすられた!」



 三人はすぐさま少年達の後を追った。先頭はテオで、マルグレーテとエドガーはその後ろを必死に追いかけたが、街中を駆け回っているうちに結局見失ってしまった。

「おやまあ、またあの小僧たちだね?」

 途方にくれていたところ、すぐ目の前の民家で洗濯物を取り込んでいた中年の女が言った。

「ほとほと困ったもんだ。この前はリーナが指輪を盗まれたと言ってたよ」

 彼女の脇にいた男も同調して、後ろを指差して言った。

「あいつらはこの先の路地裏でよく見かけるよ」

 どうやら少年たちは常習犯のようだ。
 町の人たちの言う通りに路地裏へ回ると、先ほどの少年達が壁に寄りかかって笑い合っていた。一人の手にはテオのバイオリンケースがある。それを見るなりテオは飛び出していき、ケースを持った少年の首根っこを掴んだ。

「いててててっ! 何すんだよ、何だこいつ!」

「それを返せ」

 首根っこを掴まれた少年は、追いかけてきた人物の恐ろしい形相を見上げると、「ひっ」と小さく悲鳴をあげて仲間の方へケースを放った。
 バイオリンのケースは別の少年の手へと渡る。その少年から次の少年へとポーン、ポーンとバイオリンが渡っていった。どうやら彼らはそれを手放す気はないようだ。エドガーが「憲兵を呼んでこよう」と、隣にいるマルグレーテにそう言って身を翻そうとした、その時だ。

「ま、まって、まってちょうだいっ!」

 マルグレーテの大きな声が響いた。エドガーは突然の姪の大声に足を止め、少年達も投げ合っていた手を止めた。
 マルグレーテは少年達に続けた。

「それ以上投げ合うのはやめて。テオ様も彼を放してさしあげて……あなた方、その中に何が入っているかご存知ないの?」

 少年達は、いかにも貴族然とした令嬢に驚いた様子だったが、へにゃりと笑った。

「へっへっ、知ってらあ。楽器が入ってんだろ、さっき教会前で弾いてたじゃねえか」

「すっげえいい音だった」

「金になりそうな楽器だぜ」

「隣にいたアコーディオンよりよっぽど高く売れそうだ!」

 少年たちはどっと笑ったが、一緒にマルグレーテも笑い出したので笑いを引っ込めて異様なものを見るような目で彼女を見た。
 マルグレーテは嬉しそうに言った。

「あなた方もテオ様のバイオリンに価値があると思ったのね! そうでしょう、やっぱり誰もがそう思うのだわ……でも知っておいてほしいの、楽器はとても繊細なものなのよ。そんな風に投げ合っていてはすぐに壊れてしまうわ。そうなれば、ただのガラクタと同じなのよ」

 片手でバイオリンケースを振り回していた少年は、それをきいてすぐさまケースを大事そうに抱き込んだ。
 その素直な様子に、マルグレーテはほっとした笑みを浮かべて言った。

「お願いがあるの。そのバイオリンは、彼にとって身体の一部みたいに大事なものなのよ。それがなくては彼は生きてはいけない。だから返してほしいの」

 マルグレーテはテオを示しながら言った。精神誠意込めて言ったが、少年達は少し目を見合わせた後、口を揃えて応えた。

「いやだね。俺たちの大事な収入だ」

「楽器は壊れても少しは金になるだろ」

 少年たちの返答にマルグレーテは困ったように額に手を当てた。簡単にはいかないわね。テオは首根っこを掴んだ少年を徐々にきつく締めている。エドガーはやはり憲兵を呼ぼうかときょろきょろと辺りを見回している。しかしマルグレーテは穏便に済ませたかった。
 その時、自分の腕に光るブレスレットが目に入った。去年の誕生日に従姉妹からもらった非常に高価なものだ。これだわ!
 マルグレーテは金色や宝石できらきらしているブレスレットを外して言った。

「このブレスレットと交換しましょう。こちらの方がそんな古い楽器よりも何倍もお金になるわ。宝石が付いているからそれを外して宝石商に売ればもっと高く売れるわよ」

エドガーもテオも少年たちも、マルグレーテの貴族令嬢のあるまじき行動に目を丸くした。

「マルグレーテ、お前、そのブレスレットがいくらすると……」

「わかっているわ」

 エドガーが言いかけたのを止めるようにマルグレーテは鋭い視線を叔父に向けた。

「でも私はいらないの。必要としている人にさしあげるのが一番だわ……お願い、このブレスレットと交換してくれないかしら、ほんとうに価値のある宝石なのよ」

 少年達はしばしの間、驚いた顔を見合わせていたが、やがてマルグレーテのすぐ近くに居た少年が、彼女の手から豪華な宝石の並ぶブレスレットをひったくった。

「おいっ……!」

 エドガーが怒鳴ろうとしたのを、ブレスレットをひったくった少年が遮って言った。

「ルカ、返せ」

 その言葉を受けた少年も小さく頷くと、手にしていたバイオリンケースをテオの方へ差し出した。





 宿屋に着くと、女将が温め直した食事を持ってきてくれた。
 食事中、話をするのは相変わらずマルグレーテとエドガーばかりでテオは無言であったが、マルグレーテの言葉に小さく相槌を打つようになっていた。

 明かりを消して宿屋の皆が寝静まった頃、テオはベッドの中でふと目を覚ました。扉の向こうの大部屋から小さな足音がした気がする。泥棒か……? 
 すぐさま枕元のバイオリンケースと鞄に手を伸ばした。またあのような被害にあってはたまらない。どちらも盗まれていないことがわかるとほっと胸を撫で下ろした。
 扉を開けて大部屋へ出てみると、バルコニーの扉が開いている。暗くてよく見えないが誰かがいるようだ。テオは眉を潜めて、警戒しながらバルコニーへ飛び出した。

「……っ!」

 同時にそこにいた人物が振り返り、テオは息をのんだ。
 星あかりの下に佇んでいたのはマルグレーテだった。手には小さな燭台を持っている。

「まあ、テオ様。ごめんなさい、起こしてしまったのね」
 
 テオは泥棒ではないことがわかると、ほっと胸を撫で下ろしたようで息を吐いた。

「眠れないのか?」

 マルグレーテは首を振った。

「帰る前に星を見ておきたくて。ウィーンと違って、この土地では星がとっても綺麗に見えるんですもの」

 マルグレーテが上を見上げたので、テオも彼女の隣に歩み寄り、空を見上げた。
 無数の星が瞬く、美しい夜空だった。二人はそうしてしばらく星を見上げたままだったが、やがてマルグレーテが口を開いた。

「昼間は失礼なことを言ってごめんなさい。テオ様のバイオリンよりブレスレットの方が……お金になるだなんて。でも私は……」

「わかってる」

 すまなそうに詫びるマルグレーテに、テオはほんの少しだけ口の端をあげた。

「ブレスレットよりも俺のバイオリンを大事に思ってくれてたから、あんたは引き換えに差し出してくれたんだろ」

 テオの言葉にマルグレーテはほっと息をついた。彼はちゃんとわかってくれていたんだわ。

 ほっとしたように微笑んだマルグレーテに、テオは真面目な顔できちんと向き直った。

「ありがとう。バイオリンを取り戻してくれて、ほんとうに感謝してる。正直、盗られたままだったら俺は……」

 マルグレーテは笑った。

「ふふ、だってテオ様のバイオリンが聴けなくなるなんて絶対嫌だもの! いつも肌身離さず持っているんだから、なくしたらきっと、テオ様は病気になっちゃうわ」

 マルグレーテは自分で言った冗談を想像して声を出して笑い、テオも笑い声をあげた。お互いに笑い合ったのは初めてだった。マルグレーテはそれがことのほか嬉しく感じた。あんなに無表情で冷たい目だったのに、笑うとこんなに暖かい目になるのね。
 マルグレーテはそんな事を考えてテオを見つめていたが、テオの方は途中ですっと目を外の景色の方へ逸らしてしまった。何か気に障ることを言ってしまったのかとマルグレーテが心配になりかけた時、テオが言った。

「……様はいらない。テオでいい」

 マルグレーテは目をぱちくりさせた。
彼は顔をこちらに向けようとしなかったが、どうやら照れているようだ。マルグレーテは満面の笑みを浮かべた。

「ええ、テオ! 私のことも、マルグレーテと呼んで!」

 やっと友人として認めてもらえた! マルグレーテは嬉しさいっぱいに再び美しい夜空を見上げるのだった。





 次の朝、三人は鉄道に乗って出発した。
 いくつもの駅で乗り換えをしなければならなかったが、音楽の話で打ち解け始めていた三人は、退屈することなく楽しい時を過ごした。

 綺麗な日差しが差し込む昼下がり、三人は食堂車で昼食をとっていた。
 マルグレーテは、スープを飲みながらテオに自分と叔父の旅のいきさつを話した。

「……それでね、私が旅に同行できるよう、叔父様が私のお父様に話してくれたのだけど、説得するのに何日かかったと思う? まるまる一ヶ月よ! ほんとうにお父様って内向的なんだから。周りの女の子はもう地方の屋敷に嫁いでいる子だっていっぱいいるのに、私はずっとウィーンに閉じ込められたままなのよ。だからこの旅が嬉しくてたまらなかったの!」

「お前のお父様はウィーン育ちなのに珍しく音楽に興味がないからな。説得するのはほんとうに骨が折れたよ」

 エドガーは肩をすくめて、目の前の肉を切り分ける。
 テオが尋ねた。

「二人とも楽器をやっていないのに、音楽にはずいぶん詳しいと思っていたが、ウィーンでは音楽に興味がないことの方が珍しいのか?」

「うーん、そうとは言い切れないけど、音楽好きな人が多い町なのは確かよ。楽器をやっている人もたくさんいるわ。あちこちの家からいつも音楽が聞こえるもの」

 マルグレーテは目をつむってウィーンを思い浮かべた。テオがふむと頷いたのをみて、エドガーはパンをちぎる手を止めて、ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

「それにしても、君はどうやってバイオリンの腕をそこまであげたんだ、良い音楽家に指導してもらったのかい? それにドイツ語も流暢に話しているが、そもそもどこの生まれなのか教えてくれ」

 叔父の問いに、故郷に思いを馳せて外を眺めていたマルグレーテも振り返った。それは彼女もずっと気になっていたことだ。
テオは少し黙って目の前の皿を眺めていたが、やがて応えた。

「……バイオリンを教えてくれたのはジプシーのバイオリン弾きだ。俺の母親はジプシーだった」

 マルグレーテとエドガーはカトラリーを持つ手を止め、驚いて顔を見合わせた。

「ジプシー!?」

 エドガーの言葉にテオは頷いた。

「俺たちはイタリア半島をよく回ってた。バイオリンを弾き始めたのは七つのときだ……と言ってもちゃんと教わったのは一年だけで、そのバイオリン弾きは流行病で死んだ。俺の母親も同じときに死んでーー俺はジプシーから外れた。その時バイオリンも一緒にもらったんだ。それから街で旅芸人と出会って、バイオリンを仕込んでもらった。ドイツ語を教えてくれたのもその男だ。二年ほど連れ回してもらったが、彼も病で死んで……それからはずっとひとりだ」

 淡々と述べるテオの話を、エドガーはしぶい顔で、マルグレーテは驚きと同時に、ひとり納得していた。だから、だわ。彼は身近な人たちを幼くして亡くしている。だから彼の目や表情、言葉は冷たい……いや、ぬくもりを知らないのかもしれないのだわ。
 マルグレーテ自身、母親はものごころつく前に逝去していたが、自分には父親や姉たちがいた。だから母親がいなくとも寂しいと感じることはなかった。なによりマルグレーテはたくさんの召使いや侍女たちにかしずかれている伯爵家の娘である。それに対してテオは文字通り、路頭に迷いながら自分一人で生きてきたのだ。

 テオはマルグレーテの同情的な視線が嫌なのか、うっとおしそうに首をすくめて車窓の外に目を移して言った。

「今はそのおかげで、バイオリンで食っていけている。だから別に大層な音楽家に教わったわけでも学校に通ってたわけでもない」

 
 エドガーはマルグレーテとは違った思いでテオを見ていた。特別な講習を受けたわけでもなくジプシーや旅芸人からの手ほどきのみで今の技術に至るということは、テオのバイオリンはほぼ才能と言っても過言ではない。彼は稀にみるバイオリンの天才なのかもしれないぞ! 
 エドガーは高揚感に包まれながらも興奮しないように声を抑えて言った。

「一度本職の音楽家に指導を受けるといい、私が紹介しようーーいや、その前にまず公演を聞きにいくんだったな。良い席を用意せねばな」

 テオは車窓の外を見つめるだけで何も言わなかった。





 夜。テオは列車内の寝台に移動せずに座席に座ったまま外を眺め続けていた。そんな彼を寝台近くから少し離れて見ていたマルグレーテに、エドガーは耳打ちした。

「ジプシーの生まれとは、ますますお前の父親に紹介できなくなったな」

 マルグレーテは眉を潜めて叔父を振り返った。

「お父様のことなんか気にしてないわ」

「ほう……? それならなぜそんな難しい顔をしているんだ、お前が父親以外のことでそんな顔をするのはめずらしい」

 エドガーの問いに、マルグレーテは視線を下げた。

「私は彼と同じくらいの年齢なのに、全然違う生き方をしてきたのよ。今まで彼は一人で必死に生きて……苦労してきたのだわ。それなのに、甘やかされて育った私に突然友達になれだなんて言われて、彼はさぞ不快だったでしょうね。ほんとうに、私は……傲慢だわ」

 マルグレーテは今更になって自分の身勝手な行動を見つめ直していた。長い付き合いでもないのに、ウィーンへの帰国に同行させるとは、あまりにも強引だったのではないだろうか。
 エドガーはマルグレーテの沈んだ様子に微笑んだ。

「そう思うんなら本人にきいてみるといい。彼の考えを決めるのはお前じゃない、彼だろう」

 エドガーは姪の頭に手をやると、おやすみと言って寝台の方へ行ってしまった。
 マルグレーテはテオの方を見た。確かに叔父の言い分は正しい。彼は音楽のことに関しては饒舌だが、その他のことは自分からは決して話さない。もっと彼の事を知りたいのに。
 マルグレーテはテオの向かいに座った。

「テオ、少しいいかしら?」

 暗い外の景色からすっとこちらを向いた彼の刺すような視線に、マルグレーテは怯み、少し言い淀んだが言った。

「そ、その……あなたのお母様のお話を聞かせてくれない?」

 咄嗟に出たマルグレーテの思いがけない頼みに、テオは目を瞬かせた。

「俺の母親の話?」

「ええ。私のお母様は、私がうんと小さい時に死んでしまったから、全然覚えていないの。もちろん少しはお姉様達が話してくれたけど……。あなたのお母様はどんな方だったのかしらって思って」

 テオは眉をしかめた。

「お願い、少しでもいいから。どんなお母様だったの?」

 マルグレーテの懇願に、テオはため息をひとつついたが答えてくれた。

「どうって……。うーんそうだな、すごく優しかった、かな」

「優しかった?」

 テオの口から思わぬ言葉が出たのに驚き、マルグレーテは身を乗り出した。

「俺も七つだったからそんなに覚えているわけじゃないけど……母さんは、基本的にみんなと馴染まない人間だったんだ。よくジプシー仲間と言い争いをしているのを見た。けど俺には、俺にだけは、人が変わったように優しかった。子ども心にそれは嬉しかったから覚えてる」

 テオが僅かながら頬を緩めているのにマルグレーテは気づいた。彼は首から下げている紐を服の中から取り出してマルグレーテに見せた。先には紫色のメノウがぶら下がっている。

「死ぬ間際に、これを渡してくれた。母さんについて俺が話せることはそれだけだ」

 マルグレーテはメノウを見つめ、そしてテオに微笑みかけた。

「素敵なお母様だったのね」

 彼女の言葉にテオは鼻で笑った。

「所詮、ジプシーの女だ。父親が誰なのかさえ教えてくれなかった」

 マルグレーテはテオのその自嘲的な笑いに、言葉が見つからなかった。
 マルグレーテには父がいる。伯爵という称号を持ち、家族の中心に居座り、自分にも他人にも厳しい人間だが、それでも家族を守る立派な父親だ。
 それゆえマルグレーテはテオに慰めの言葉をかける術を知らなかった。

 テオは少し間を置いてからいつもより柔らかい声でマルグレーテに言った。

「……君が俺に言いたいことはわかってる。俺がジプシーの子だと知って、やはりウィーンには一緒に連れていきたくないと、そう思ったんだろう?」

「え? な、なにを言うの!」

 マルグレーテは眉を思いっきりしかめて大きく首を振った。

「違う、違うわよ! あなたをウィーンに連れていきたいと思うのは、私も叔父様もちっとも変わらないわ!」

 マルグレーテの憤慨した様子に、テオは意外そうに目を丸くした。

「そ、そうなのか? 俺はてっきり……」

 先ほど生まれを話してからマルグレーテもエドガーも考えこんでいたので、テオはそろそろ列車から降ろされる頃合いかと思っていたのだ。
 マルグレーテは堂々と言った。

「そう思わせてしまったのならごめんなさい。ほんとうに違うのよ、あなたの話を聞いた後、叔父様はあなたに見合う指導者の候補として、知り合いの音楽家の名前をアルファベット順にあげて考えていたわ」

 先ほどマルグレーテが覗いた彼の手帳にはすでに十五人ほどの名前が書かれていた。それをきくとテオは顔を引きつらせた。

「十五人の指導者候補……」

 厳しい指導者達に音楽を教わっている情景を思い浮かべたテオは無表情ながら心なしかげんなりして見えたが、そんな彼にマルグレーテは真剣な顔で言った。

「もちろん、それもテオが望めばの話よ。叔父様も私も、あなたにはぜひウィーンの演奏を聴いてもらいたいし、そこで弾いてもらいたいと思っているわ。あなたのバイオリンにも絶対に刺激になると思う。ただ、私は、その、あなたが……」

 マルグレーテは少しまごついたが、咳払いをするとテオの目をしっかり見て言った。

「あなたが今まで一人で生きてきた一人前の人間だというのに、私のような、甘やかされて育った貴族の娘に無理やりお友達だなんて言われて、そ、その、い、嫌だったかしらと思って。今思い返すと、私はとても強引だったから……その、ごめんなさい。良かれと思ってしたことだったけど、あなたが私とウィーンに行くのが嫌だったら、無理に誘ったのが申し訳なくて……」

 マルグレーテのたどたどしいその言葉に、テオはきょとんとしていたが、肩をすくめた。

「確かに強引だったけど、君は俺のバイオリンを気に入ってくれたじゃないか。だからいい。それに、今更引き返そうなんて思ってない」

 テオの答えはあっさりしたもので、マルグレーテは目を丸くさせた。

「ほ、ほんとう? 私のこと、わがままで嫌な女だと思っていないの?」

 テオは珍しく歯を見せて笑った。

「そんなことをずっと気にしていたのか? 君は案外貴族らしくないんだな……そもそも嫌な女だと思っていたら、とっくに逃げ出してるさ」

 その言葉に、マルグレーテの表情にみるみるうちに蕾が花開いたような笑みが広がった。

「ありがとう、私……私、あなたがウィーンに行くことを絶対後悔させないから!」




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